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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 ダブルパロ・ぷらんつ公瑾くんです。
 苦手な方は回れ右してくださいね。




 

 視線が痛い。
 花はおそるおそる視線を室内に滑らせた。
 仲謀は目と口を開けて固まっているし、子敬医師ですらいつもの笑い声がない。老人たちの膝に居る観用人形たちは背伸びしてこちらを見ている。
 おお、と言って立ち上がったのは、いちばん太った老人だった。膝から滑り落ちそうになる観用人形に器用に腕を回し、肩車をする。そのまま花の前まで歩いてくると首を傾げた。
 「育ったんかな」
 「はい…今朝になったら、こんなふうに」
 花は首を竦めながら後ろを見た。公瑾が瞬きして花を見返し、微笑む。それだけならいつもの表情だった。しかし問題は、彼が立派な青年に見えることだ。花よりも年上の、すらりとした体つきの青年がいる。
 子どもの姿の時はあどけなさが見え隠れしていた美貌は、いまや容赦なくその笑顔を輝かせている。それどころか、朝、最初に微笑まれたとき、花は混乱した頭で、むかし孟徳が読んでくれた絵本を思い出したくらいだ。「雪さえ溶かすようなほほえみ」をもつ美貌の姫が出てくるお話だった。
 いまの公瑾も、人形のときのただぴかぴかしていた笑顔ではなく、ほんのりした色気さえ感じさせる。長い指先は桜色の爪に彩られ、その色と同じだけ艶やかな唇が優美な弧を描いていた。肌は人形と悟らせるほどの白さは目立たず、血が通っている存在と見まごう。
 「こりゃあ美人さんじゃ」
 感に堪えぬように、それでものんびり言った老人の声が、その場の全員を代表していた。わらわらと老人たちが公瑾を取り囲み、いっせいに場が賑やかになった。
 「まったくなあ」
 「うちの子たちもこんなきれいになるんかな」
 「もうじゅうぶんきれいだからの」
 「まあそうじゃな」
 少女の観用人形たちは、公瑾の足や腕をぺちぺち叩いている。そのさまがおかしいと笑う老人たちの間を乱暴に突っ切って、仲謀が花の前に立った。険しいのと驚きとがごっちゃになった表情だ。
 「育つ、ってマジかよ」
 「そうみたい。他の観用人形さんでも育ったっていう美人のひとを見たことあるけど、公瑾くんも…」
 解説しかけた花を、仲謀が鋭く遮った。
 「お前がそうしろって言ったのか?」
 「言ってないよ!」
 「そうじゃろう」
 のんびりと、観用人形を肩車した老人が二人の間に割って入った。観用人形が公瑾に手をさしのべる。いままで花から離れようとしなかった彼は、ごく自然に腕を解いて観用人形を抱き留めた。老人はずいぶんと顔を上げて仲謀を見上げた。
 「観用人形が望まない限り、何事も動かんよ、若。育つことを望んだんじゃろう。このお嬢さんのそばにいるために、観用人形がそれが最善と思った姿なんじゃろ。」
 「それが…最善…」
 仲謀と花は同時に呟いた。
 「あれはただにこにこしているものではないよ。まあそんなものならこうまでしてひとはあれを欲しがらんだろうが。意外にひとを見ているもんじゃ。まあもっとも、そうしゃべりはせんからな、本当のところ、どうかは分からん。」
 老人と同じように観用人形を肩車した公瑾が、花の顔をのぞき込んだ。花はその頬に手をさしのべた。以前と同じはずなのに、柔らかく感じる肌だ。
 望まれるまま愛でられるもの、と、あのひとは言った。望まれることのなんて重いことだろう。でもこの子たちは選ぶのだ。まるでひとがするように、けれどひとよりもただひたすらに。
 「人形だなんて言っても、もう誰も信じないかなあ」
 花が仲謀を振り返って笑うと、彼はいちど大きく息をついて肩をすくめた。
 「かえって信じるんじゃねえのか、こんな美男子。目の前にしても信憑性がなさすぎる」
 「どういう意味」
 「現実感がなさすぎる」
 「ひどい」
 花は笑った。仲謀も苦笑したあと、相変わらず観用人形を肩車したままの公瑾を見上げた。
 「兄貴の時はちっこいままだったのにな」
 その声は複雑な色合いを帯びていて、花は笑みを引っ込めた。横顔は、ずっと年上のように見えた。
 「分からないもんだよな、望みなんて。俺だって、ひとつ以外はまるで分からないしな。お前はあの姿のままで兄貴の側にいるのが望みだった、ってことか。」
 花は、あの写真と仲謀の語る声音でしか、彼の兄と公瑾を知らない。ただ、いまでも写真を大事にしていることや、この病院と病気のことを思うと、どんな姿でも良かったのにな、と、そういう声が聞こえた気がした。
 公瑾はかすかに眉をひそめ、首を傾げるようにして仲謀を見ている。いつもは男が相手だと視線を合わせることすら毛嫌いするのに、なにか覚えていることがあるのだろうか。「メンテナンス」にそんな隙はないだろうが、ただ涙を流すばかりだった公瑾を覚えている花は、そう思いたかった。
 「育つ」ことを選ぶのが、どんな心持ちなのか、花には分からない。ただ、子どもの姿の時よりも、ずっと手を握っていたいような気持ちになる。年上の姿だからというそれだけだったら自分を恥じなくてはいけない。だからこそ、もし逃れられない病気であったとしても、その姿を選んだ公瑾に恥じない気持ちでいよう、と花は握りしめた手に力を込め、仲謀を見た。
 それを待っていたようなタイミングで仲謀は表情を改め、「診察室だ」とごく低い声で花をうながした。花は公瑾を見た。途端に不安そうに顔を歪めた公瑾の表情に幼さが見える。花はほほえみ返した。
 「待っててね」
 公瑾の表情が少し和らぐ。花は小さく頷いて、診察室へ歩き出した。

(続。)
(2013.7.20)

 

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