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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 ダブルパロ  ぷらんつ公瑾くんです。苦手な方はごらんにならないでくださいね。
 
 (今回はぷらんつくんと花ちゃんはおりません)



 「ごめん、待たせたね」
 カフェテラスに孟徳が姿を見せると、彩は立ち上がった。隣でかなも椅子を鳴らして立ち上がる。覚えている限りの丁寧な礼をすると、彼は人なつこく笑った。花から聞いている年齢は、本当に嘘のようだ。そして、その身分も。確かに、高価そうなスーツも少し派手っぽいけど似合っているネクタイも女子高生には見当もつかない値段に違いない。花がよく、誕生日のプレゼントに困ると言っているけれど、それも最もに思える。
 「久しぶりだね」
 「突然お宅に押しかけたりして申し訳ありません」
 どうしても孟徳に連絡を取りたくて三日間迷ったあげく、あの豪壮な邸宅に向かい、伝説のような『執事』に用件を告げた。彼は言葉通り、きちんと話を通してくれたのだろう、数日のうちに孟徳から連絡があった。電話で久しぶりに聞く彼の声も若々しかったけれど、こうして会うと記憶より若返ったような気がする。
 「いいよいいよ。花ちゃんの友だちだからね、君たちは」
 孟徳は実にスマートに、彩たちの高校生にはきらきらと輝くように見える動作でふたりに椅子に座るように促した。
 カフェテラスは半分くらい混んでいた。高校生のふたりには少しだけ背伸びした、広々と明るい場所で、観葉植物がふんだんに置かれている。それが実に巧妙な目隠しになっていた。椅子はひとつとして同じものはなく、どれも格好良かったが見かけだけではなく、彩が座っているのもとても居心地がよかった。
 孟徳はコーヒーをひとくち飲んでゆったりと指を組んだ。
 「それで、花ちゃんの話って何かな?」
 その顔は笑みを残していたけれど、目が急に鋭くなったような気がした。かなもそう思ったのだろう、椅子に座り直した。彩はゆっくり話そうと心がけながら口を開いた。
 「孟徳さんは花と食事を一緒にとること、ありますよね?」
 彼は目を細めた。
 「そうだね、まあ毎日じゃないけど。休みの前の日とかは一緒にとるかな。」
 「あの…最近の花って、食事の量がすごく減ったと思うんです」
 かながいきなり本題に入って、彩は彼女をちらとにらんだ。しかしかなはそれに気づかなかった。
 「どういうことかな?」
 「前は、購買のハムサンドが大好きで、購買に走るのが好きな男子っているでしょ、ああいう男子に頼んで一緒に買ってきてもらってたりしたんです。もちろんハムサンドだけじゃなくて、コロッケパンもハムカツサンドもプリンパンも! でも最近、レタスサンドばっかり、それもひとつしか食べないし、残ったのわたしが食べてるくらいなんです。牛乳もやっと1パック飲んでる感じだし…もっと心配なのはなんだかやせてきたみたいで。でも勉強は普通にしてるし、態度はぜんぜん変わらないんですよね。悩み事があるのかなとも思うんですけど、大丈夫って言うばっかりなんです。でも孟徳さんも知ってると思うんですけど、花ってば、大丈夫じゃなくても大丈夫って言うときあるでしょう? …わたし、その違いはよく分からないから…」
 「それは、いつから?」
 かなは瞬きして彩を見た。彩は目を細めた。
 「二週間くらい前から…だと思います」
 孟徳は長いため息をついて天井を見た。かなりしばらくの間そうしていたが、彩たちに視線を戻した時はどこか寂しそうに笑っていた。
 「俺、最近、花ちゃんとちゃんと会ってないんだよね。家にも帰れてないし…家の者にも確認するよ」
 「お願いします!」
 かなが勢いよく頭を下げ、テーブルの華奢なグラスが揺れた。彩もできるだけゆっくり頭を下げた。
 「花ちゃんのことを心配してくれてありがとう」
 孟徳の声は、まるで恋人のことを言っているみたいだと彩は思った。
 「友だちですから!」
 まるでクラスメイトに言うように胸を張るかなに、彩は首をすくめた。孟徳は嬉しそうに笑った。
 「そっか」
 今度は、身内みたいに嬉しそうだ。彩は眼鏡を押し上げた。
 「あの、孟徳さん。変な病気の噂、聞いてますか」
 「びょうき?」
 目を丸くしてこっちを見る孟徳は、同じ年齢くらいに見えた。
 「はい。人間が木になる…っていう」
 孟徳は瞬きしてから笑み崩れた。
 「メルヘンだね」
 「でもネットとかですごく流れてるんです。専門のお医者さんもいるらしくて。花、それじゃないですよね?」
 また、彼は瞬きした。
 「ほかにもいろいろ体調が悪くなることはあると思うんだけど、どうしてそれだと思ったの?」
 「第一の症状はお肉が食べられなくなることって書いてあったんです」
 勢い込んで言うかなに、孟徳は心底おかしそうに微笑んだ。
 「花ちゃんは確かに肉は嫌いじゃなかったからね」
 「はい!」
 なんとなく和んだ場に、彩はことさらに表情を厳しくして孟徳を見た。彼がおや、というように瞬きする。
 「花はたぶんまだ知らないと思うんですけど」
 「なんだい?」
 「その病気の特効薬が、観用人形の肉、だって」
 口にしてしまうと、ひどくおぞましかった。彩だって、ネットの面倒さはよく知っている。でも自分は観用人形を知っていたし、いま慈しまれている子をよく知っている。
 孟徳はふいと肘掛けにほおづえをついて横を見た。目を細めている横顔はとても鋭く、ここがカフェテラスだということを忘れさせた。彩は、このあいだテレビで見たドラマを思い出した。血縁と因習に縛られた一族を描いたそのストーリーはわかりやすいドラマティックさに満ちていて楽しんだけれど、主役のひとが時折、こんな表情をした。彼が身内を捨てるとき、何か大きな決断をするとき、ひどく昏いところを見つめるような目をした。
 「それは、花ちゃんには知られたくないね」
 その声はとても小さかったから、もしかしたら独り言だったかもしれない。でも、彩は力を込めて頷いた。
 「はい」
 孟徳がこちらを見る。かなと彩ふたりに当分に柔らかな、年長者の笑みを割り振った彼は、話は終わりというように改まった表情になった。
 「教えてくれてありがとう。」
 「本当に、忙しいのにすみません」
 「気にしないで。花ちゃんのことならなんでも聞きたいから」
 いたずらっぽく笑ったそのひとは文句なく素敵だった。格好いい男子にはすぐ騒ぐかなが、ぼうっと見ほれたくらいに時間が止まって見えた。孟徳が伝票をつかんでカフェテラスから去るまで、ふたりはそのまま彼を見送っていた。余韻がすっかり消えてから、かなが長い息をついて椅子の背にもたれた。
 「見た?」
 「何を」
 彩はすっかり氷が溶けたアイスティを飲んだ。いつも飲んでいるものより格段においしいアイスティだったけど、それよりも喉がすごく渇いていることに気づいて、ああ緊張していたんだと思った。
 「本当に、格好いいよねえ」
 「そうだね」
 「花ってば、孟徳さんもいるし公瑾くんもいるし、すごい子だね」
 「何その上から目線」
 「ちがうよーう」
 「分かってるって」
 「もう、彩ってばすぐそういう言い方するんだもん」
 「…ごめん」
 「分かってるよ、花が大事だもんね!」
 けろりとかなが笑って、彩はちょっと苦笑ぎみに頷いた。ここを出たら大規模チェーンのコーヒースタンドに行って、めちゃくちゃ甘い飲み物を頼もうと思った。



(続。)
(2013.1.15)

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