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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 ダブルパロ・ぷらんつ公瑾くんです。苦手な方はまわれ右をお願いします。

 おつきあい、ありがとうございました。



 


 花はゆっくり茶を飲んだ。大きく息をつく。公瑾はミルクを飲んでいる。飲み干すと、にこりと花に笑いかける。大きくなった手に、気に入りのカップは急に子どもっぽく見える。彼に似合うなにか素敵なものが買えればいいのに。ああでも、こんな綺麗なひとに似合うものなんてわたしの財布で買えるわけがない。浮き立ったり落ち込んだりと忙しい花を、公瑾は変わらずにこにこと見ている。それは以前とまったく変わらない表情だったが煌めきが違う。それに目が眩みながらも笑みを返そうとして、花はふいと首を竦めた。視線を上げると、見たことの無い恐ろしい目でこちらを見ている孟徳がいる。
 「…おじさま」
 「なんだい」
 声だけは柔らかく、視線は恐ろしい。孟徳はこんな器用なことができるのだ。
 「どうしてこんなことになったのかな?」
 「…いろいろ、悩むことがあって」
 「まあ花ちゃんが病気じゃなくて良かったけどね。」
 「そうです! おじさま、教えてくれなかったでしょう!」
 胃炎、と言われた時は椅子から落ちそうになった。喜びのまま公瑾に抱きつき老人たちに回りを囲まれて赤面したのが遠い昔のようだ。あそこを出てきたのは今朝なのに。
 花は、うんと孟徳を睨んだ。
 「あんなこわい病気だったって」
 孟徳はふいと表情を改めて花に向き直った。花の知る、真摯な表情だった。
 「間違いならそれでいいと思ったからね」
 「おじさま…」
 無事だと分かった今となっては孟徳に文句を言いたくなるけれど、足はすくんでいたかもしれない。観用人形を連れていくなんて不謹慎だと思ったろう。
 「それで、そこの人形をこれからどうするの?」
 「どうするって…変わりませんけど」
 「まさか、今までどおりに一緒に寝たりするつもり!? 駄目だよ! ぜったい許可しない!」
 叩かれたテーブルの上で茶器が跳ね、公瑾はひどく驚いた顔で花を見た。おろおろと立ち上がり、花の後ろに隠れる。花は孟徳を睨んだ。
 「おじさま、公瑾くんがびっくりしちゃいます」
 「驚いてるのは俺だ!」
 だだをこねる子どものような調子で、しかし声だけは鋭く孟徳が叫んだ。その肩に、女あるじがそっと手を置いたが、孟徳は振り返らない。
 「あの、おじさま」
 「なに」
 「わたしは公瑾くんを選びました。それはいつも、変わりません。」
 こんな強い目で見つめられたことがあったろうか。こんなにも…男の人だったのか。
 ややあって孟徳は疲れたような苦笑を浮かべた。
 「花ちゃんの手を握ったのは、今度はそいつだったって訳か」
 おじさま、と呼びかけようとして花は口をつぐんだ。孟徳の横顔がどこか遠いところを見ているような気がした。花にはただこそばゆいだけの幼い記憶を間近で見ているような。花に視線を戻した時は、いつもの、ごく穏やかな表情に戻っていた。
 「花ちゃんはそいつを側に置くわけだね」
 「はい」
 「じゃあ教育が必要だな。花ちゃんの後ろに隠れるようなやつじゃ、子どもの姿ならまだしも」
 「それは、これから一緒に…」
 「姫に教育される騎士も、それはそれでありかもしれないけどね、この場合はだめ」
 孟徳は立ち上がって大股に歩いてきた。花の後ろで身をかがめていた公瑾がゆっくり立ち上がる。
 「お前はもうちびじゃない。花ちゃんの後ろに隠れるなんてもってのほかだ。分かるな」
 声音は厳格だった。公瑾の表情がすっと変化した。
 それは花の知らない「男」だった。ただきらきらの分量が増しただけと思っていたのに、花は今更に自分の鼓動が高くなったのが分かった。
 花は立ち上がり、公瑾の前に立った。彼が小首を傾げるようにして彼女を見る。その手を取った。きれいだけれど大きい。そして相変わらずひんやりした、人形の温度。花は公瑾を見つめ、笑った。
 「これからもよろしくね、公瑾…えっと、公瑾くん、じゃ駄目かな。公瑾さん、だね。」
 公瑾は瞬きした。
 そして、今まで一度も見たことが無いような美しさと、感じたことのない温かさで、笑った。


※※※


 なあに?
 ああ、公瑾さん? うん、ちゃんと仲良くしてるよ。
 それはね、慣れないよ。だってほら、あの顔でしょ? 分かっててもどきどきする。きっと一生、慣れないんじゃないかなあ。今になって、小さかったときの公瑾くんの写真をもっと撮っておけばよかったって思うの。ずるいかな?
 うん、おじさまにはずいぶん教育してもらっててね。
 ほら、この間、雑誌を見せたでしょう? そうなの、モデルさんを始めたの。おじさまがね、好きな子を食べさせられない男とかあり得ない、って叫んで、わたしも負けちゃった。公瑾さんはいるだけでいいと思うんだけどね、わたしも大きなこと言えた身じゃないでしょ? まだおじさまにおんぶにだっこだもの。おじさまを説得するのは、まだ色々大変そう。
 公瑾さんはね、わたしにしか笑わないの。そういうのを売り込んでくれてるみたいよ。プロフィールは一切公表しないとか、雑誌にしか出ないとか色々制約を付けてるんだって。そのあたりはおじさまのお友達が仕切ってくれてるみたいで、うまくいってるみたい。
 でもね、変わらないこともあるの。わたしが学校に行くのが相変わらずなんだか嫌みたいでね。わたしが帰ってくると、小さかった頃みたいに走って出迎えてくれるの。でもおじさまがいるとやらないんだよ。怒られるからなんだろうけど、それがすごく可愛いの。可愛いって言っては駄目っておじさまに言われるんだけど、ちょっと思ってしまうのは仕方ないよね。
 ん?
 ああ…
 あのね、他の観用人形さんはどうなのか知らない。でもね、公瑾さんはしゃべるよ。
 人みたいに、はっきり、くっきりと、何でも話す訳じゃ無いの。たいてい、わたしの話すことを聞いているだけ。
 でもね、わたしの名前だけは呼んでくれる。耳元で、ため息みたいに、吐息みたいに呼んでくれるの。そうだね、小さい声。でもわたしには何よりはっきり聞こえる声だよ。
 わたしはそのたびに嬉しさで溶けそうになるの。だから、わたしも真似して呼ぶの。そうすると彼は抱きしめてくれる。だから、同じ気持ちだって分かるの。
 好きだって、分かるのよ。


(終。)
(2013.10.15)

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