二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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現代版、社会人文若さんと高校生花ちゃんです。
改札を入って、待ち合わせ場所まで急ぐ。乗り換えのことを考えて学校の最寄り駅でない、大きな駅を待ち合わせ場所にしたので人混みが凄い。平日はこんなところまで来ないから、知らない店や新しい本屋が目に入るとついチェックしてしまいそうになる。広生は手にした鞄を握りしめ、先を急いだ。
メールで指示されたあたりにたどり着くとすぐ、カナリアイエローのタンクトップを着た かな が大きく手を振ってきた。小走りにたどり着く。
「おはようー長岡くん」
服の色のままテンションの高い挨拶をしてきた彼女は、スマホの画面をちらちら見ながら笑った。
「ああ、おはよう。――まだ、俺だけか?」
「えーと、彩と花は買いだし。わたしは連絡係。」
「そうか。」
ふだんあまり話したことのないかなと二人きりだと、途端に会話が途切れる。こういう時、広生は潔く黙ることにしている。
だが今日は違った。かなはスマホから目をそらすと、どことなく決まり悪そうな、えへへ、と擬音が付きそうな表情を広生に向けてきた。
「びっくりしたでしょ、誘われて」
「ああ…まあな。彩と委員会が一緒だったことがあったり、花とは菓子作り仲間だったりするが、そう積極的に話してはいなかったし、海水浴だし」
「長岡くんインドアっぽいもんね!」
ぽい、と言いながら勢いのいい口調に、苦笑する。
「長岡くんは彩の推薦。女の子だけで海に行くのはダメって親に言われてねー。なんか今更? ってカンジなんだけど。で、相談して長岡くんと趙くんの名前が挙がって。それで、誘ってみた。」
趙、と呼ばれた男子は知っている。それほど話すわけではないが、端正な顔立ちをしているから女子の噂話によく上がる男子だ。ただ本人に浮いた話はまるで通じず、極めて自然にスルーされるというので、また人気が上がる希有な人材だった。
「口が堅そうだからとも言われたが」
かなの眉尻がさらに下がった。こういう時、素直に済まなそうな顔をしてもわざとらしくないのは彼女のいいところだろう。
そういう理由で声を掛けられた時に、おかしなことでもやるのかと身構えたのは本当だ。しかしどう見ても騒ぎになることをしそうな女子ではなかったことと、そんなことをするなら自分に声は掛けないだろうと思い直した。
「あーそれ、聞いてる? うん、まあ、花の彼氏も来るんだけど、まあ結構年上だし、あの子、騒がれるの好きじゃないし、わたしたちもあんまりそれで騒ぎたくないのね。だから」
「子龍も口は堅い」
「っていうか、友だち居る?」
「失礼だな」
かなは、あはは、と笑った。
「知ってる知ってる。子龍くん、このあいださあ、階段にバケツの水、盛大に零してたの。バケツ持ってる時に、よそ見してた男子に突き当たられたらしいんだけど。黙々とモップで拭いてたら通りがかった男子がさ、どうしたんだ罰ゲームかいじめかとか言いながらわらわら集まってきてみんなで拭いてたのよ。子龍くん、もう手を出せないカンジで片付けられて、なんだかかえって居心地悪そうだった。」
「いい話だ」
「でしょ? 最初に突き当たったヤツは手伝ってなかったのがむかつくけどねー。あ、花だ。おーい」
まわりを一切気にせず声を上げたかなの視線の先を見る。花と彩と、彼女たちの隣に見たことの無い、年かさの男性がいた。襟が立ったダークグリーンのポロシャツを着たそのひとが、おそらく花の彼氏なのだろう。飲み物と菓子が入ったと思しき大きなコンビニ袋をふたつ持っている。広生を見ると少し緊張したような表情を浮かべたので、軽く頭を下げる。
「お待たせしましたー」
「わーい、ありがとー。文若さん、合流したんですか?」
かなが、まるで本当に親しい大人にするように話しかけると、その人はああ、と、響きのいい低い声で頷いた。
「ちょうどそこで会ったの」
白いワンピースに、ブルーの幅広リボンを付けた麦わら帽子を被った花が嬉しそうに笑う。眩しいほどリゾート地の令嬢のような装いの彼女をちらと見、文若は確かに微笑した。ああ、花の彼氏というのは本当なのだ。かなに対する親しみとはまるで違う。
「持ちますよ」
手を出した広生に、文若はいちど瞬きして見返した。
「長岡といいます。かなたちと同じ学校に通っています」
「そうか。荀文若だ。よろしく」
そのひとは変に固辞せず、菓子が入ったコンビニ袋をひとつ寄越した。一番上に見えるブラックコーヒーはこのひとのものだろうかと思う。
その時、人混みの向こうに子龍が見えた。運動会の子どものような真摯さで走ってきた彼は到着すると、遅れてすみませんと矢継ぎ早に頭を下げた。
「まだ待ち合わせ時間前だよ」
かなが笑いながら子龍の肩を強く何度も叩いた。
「良かった」
荒い息のまま言った子龍は広生に会釈をすると、文若を見て少し目を見張った。それから、ひとりで小刻みに頷いた。花の彼氏だと事前に言われてでもいたのだろう。文若が何となく咳払いし、では行くか、と歩き出す。自然に花が隣に並んだ。ふたりの背を何となく眺めてからかなと彩を見ると、彼女たちは彼女たちで今日の計画を話している。なるほど、あのふたりにはこういう風な距離でいればいいらしい。そして、このメンバーの中に文若が入ることになったのはただの引率なんだろうかと思った。
(2015.6.1)
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