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現代版文若さんと花ちゃんです。
クリスマスな。
「あー、花。」
肩を叩かれて花は我に返った。
「赤信号だから。」
かなの呆れたような表情と、彩の心配そうな表情が目に入る。慌てて前を見れば、確かに横断歩道の信号は赤だ。横断歩道を慌てて走って行くサラリーマンが、走り出そうとした車の運転手に迷惑そうに見られている。
「珍しいねえ、花が。」
「恋の悩みね。」
彩が珍しく断定的に言って、花は驚いた。それはかなも同じだったようで、おお、と小さく言って友人を見た。
「どしたの、彩」
「わかりきってるでしょ」
彩はかたわらの百円ショップを指さした。これでもかと金モールが飾り付けられ、薄いフェルト製のサンタやトナカイが笑っている。そして妙にセクシーな声のクリスマスソングが流れてくる。
「あー、そうね。そんな時期ね」
「っていうか、かなが珍しく騒いでないね」
「あたしがいつ騒いだの」
「いつもだよ」
彩は大げさに指を折って見せた。
「クリスマス、バレンタイン、ホワイトディ、誕生日。…ああそうそう、恋人は毎日が記念日~! とか言ってた」
かなが胸を張った。
「まあわたしもちょっとオトナになった的な」
「はいはい」
彩は花を見た。
「そういうことでしょ。」
「…テストの点数じゃないっってことはすぐばれるんだね…」
「だって花は最近、すっごく勉強してるじゃない。だから、あのひととのことでしょ。」
「そうなんだけど」
花は目を細めてクリスマスの飾り付けを見た。
「クリスマスはこっちに居ないんだって、出張で」
「平日だからそういうこともあるかもね」
「去年はね、どうせお仕事してるし忙しいだろうからって、わたしから電話して会う日を変えてもらったの。だから、結果的には一緒なんだよ。でも、なんか違うの」
花はひとつ息をついた。
「クリスマスプレゼント、宅配便で届いたし…」
「気を遣ってくれたんでしょ? クリスマスプレゼントが大晦日じゃかっこわるいもんね」
「プレゼント、なんだったの~?」
花は鞄の持ち手を握りしめた。宅急便で届いた、びっくりするほど軽くて柔らかいミルク色のカシミアストールは、制服や普段着に羽織るには高級すぎて気後れする。送り状は彼の手書きだったし、届いたことをメールしたらすぐに返信もあったから、プレゼントそのものにもやもやしている訳ではない。
視界の端で彩がかなをつつくのが分かった。信号が青になる。体が人混みに押される。柔軟剤や香水の匂いが、なんだか今日はやけに気になる。
「…プレゼントとか、いいんだけどな」
呟きは聞こえなかったらしく、彩とかなはすれ違った高価そうなスーツの女性について話している。
会えない、というのは急な連絡だった。彼にしても想定していなかったことだろうし、だからせめてプレゼントだけでもと考えてくれたのだろう。花がよく読む雑誌では特集されたこともないようなブランドのプレゼント。
だから、自分は間違っている。これは八つ当たりだ。プレゼントを膝に、送り状のほうを抱きしめてしまう自分は、あのひとには決して見せないでおこう。
「彩、かな」
ふつう通りを心懸けたつもりだったが、声は妙に気負って聞こえた。
「なにー?」
「明日、パンケーキでも食べに行こう」
かなと彩は顔を見合わせ、おかしそうに笑った。
「分かった」
「つきあっちゃうよ!」
花は小走りにふたりに追いついた。
「タマシイの叫び、聞いちゃうよ」
「かな、大げさ」
「っていうかいちゃいちゃしたいんだもん!」
「よしよし」
「花、なんか酔っ払いみたい」
「酷い~」
花は顔を上げた。一つ先の信号の向こうでクリスマスイルミネーションが始まっている。あの写真を撮って、彼に送ってあげよう。どこにいるか分からないけど、あのひとのことだからクリスマスなんて素通りしている。少し思い出してくれたらいい、あなたと見たかった景色のことを。花は鞄から電話を取り出すと、光にかざした。
(2015.12.25)
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