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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 現代パラレル・恋仲の文若さんと花ちゃんです。未だクリスマス前…であります。
(2014.12改題)






 花は、ベッドにダイブした。
 「…電話しちゃった」
 手の中の携帯電話を見る。気づくと握りしめそうになっていて、慌てて手を放した。
 「電話しちゃったーー!」
 叫んで、布団に顔を伏せる。
 だって、悔しかった。カレンダーをいくら眺めてもクリスマスは休日にならない。
 平日のお勤め人なんて、まず、捕まらない。いちど、平日の夜にデートする予定が直前でキャンセルになったことがある。あのときの気落ちした感情は生々しく残っていて、デートのたびに怯える。だから、デートが目的なのであって、クリスマスが目的じゃないのだからと割り切った。
 どこでお昼ご飯を食べたいと言おう。文若は大概、どこで食べたいか聞いてくれる。クリスマスなら混み合ってとても入れないだろうランチの美味しいカフェにしようか、眺めのいいテラスのあるパスタ屋さんか。それとも、背伸びして、文若の好きそうな和食屋さんか。本当は流行りのパンケーキを食べさせあったりしてみたいけど、恥ずかしくて想像さえ止めてしまうので、まだ早いということなのだろう。いつも手を繋ぐのだってやっとなのだから。高校生同士なら普通に腕を組んで歩いたりできたのかもしれなくても、それは言っても仕方ない。だって、彼が好きだ。
 花は横目で、壁にかかっているワンピースを見た。ずっと年上の彼氏の前では、高校生のお洒落なんてたかがしれているが、そんなのは理屈じゃない。大ぶりで繊細なレース襟のついた柔らかな生地のワンピースは、この日のためにアルバイトのお金をつぎこんで買った。あのひとはきらきらした服が好きではないはずだから、自分にすれば少し背伸びした色合いを選んだ。コートだって、通学時に着ているものとは違う。
 文若はそんな努力を分かってくれるだろうか。いつもの待ち合わせ場所で会ったとき、気づいてくれるだろうか。上等だけどいつだって似たようなスーツに、うっとりするほど滑らかだけど地味な色のコートを着ているひとだから。花は起き上がってぬいぐるみを抱きしめた。怒ったような表情が文若みたいな熊のぬいぐるみだ。
 比較するものは教師か親のスーツしか知らない自分にはまるで分からないが、値段を聞いたら驚くくらい高価なのだろう。彼が身につけているマフラーがそうだった。いちど、貸してもらったそれは文若の匂いがして、実際の温かさ以上にふんわりと感じたものだ。チラ見したタグから検索したら息を飲むくらい高価だった。
 だから、クリスマスプレゼントには二ヶ月も迷った。考えすぎて分からなくなって、最後には店員に洗いざらい相談してしまった。優しい店員は最後には笑い混じりだった気がする。あの店には当分行けそうにない。
 花はベッドから起き上がって、机の引き出しを開けた。手のひらに乗るくらいの小さな包みには、ネクタイピンが入っている。花が知らない土地の伝統工芸で作られたというそれは、シックだけれどとても綺麗だ。
 本当はネクタイを上げたかった。でも、スーツの色味がうまく説明できず、でも「無難な」ものは贈りたくないとだらしなく泣きそうになっていた自分に、店員がこれを教えてくれた。
 こういうことがあるたびに、まだあの人のことを全然知らないと思う。
 花はベッドの上のぬいぐるみを取り上げた。熊の額を軽く弾く。
 甘い物はあんまり好きじゃないらしい。コーヒーよりお茶のほうが好き。車の運転はびっくりするほど静かだけど高速道路は飛ばす。指先がいつも少し冷たい。本を読むときに眼鏡を掛けることがある。好きと言うと、いつも目をそらして照れる。
 もう少しだけ、近づきたい。あなたは、今のままのわたしでいいと言うかもしれない。でも、あなたに並びたい。いつもの日常、あなたのまわりで働いている女の人たちには敵わないだろうけど、それ以外のあなたを独り占めできたらいいのに。
 長い毛足に顔を埋める。文若さん、と呟くだけでわき上がってくるあのひとの声が嬉しかった。

(2014.1.16)

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