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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 現代パラレル・文若さんと花ちゃん。 今回はインターバル、であります。とある方が登場。
(2014.12改題)



 


 花は入り口から店内を見回した。夕暮れの書店は、様々な人で混み合っている。暖房がよく効いた店内は、本と香水と冬の匂いが混じり合って独特な気配だ。デパートで真っ先に感じる化粧品と香水の匂いにつつまれ背が伸びた子どもの頃のように、コーヒーショップの「本日のお勧め」の香りにうっとりするように、本屋ではこの匂いをかぐと、新刊がないだろうかとわくわくする。
 いつもの帰り道と違う路線にあるこの本屋に来たのは、ここがちょっと変わった品揃えで知られているからだ。書店員のお勧めが個性的で面白い、とネットで見たからで、それならこの悩みも解消するだろうかと思ったからだ。ああでも、悩んでいない日なんかない。文若のことは、悩みばかりだ。
 冬はイベントが多い。クリスマス、初詣、バレンタイン――ホワイトデイ。
 クリスマス(正確にはクリスマス後のデートだったが)は何とかこなした。初詣は文若の健康と自分の成績を祈った。あのデート以来、恋人には会えていない。メールは送ったけれど、余白の方が目立つ返信だけでは物足りない。そうして、今度はバレンタインだ。
 バレンタインにはチョコレートが付き物だ。でもあのひとは甘い物があまり好きではない。チョコの香りがするお茶は面白そうだけれど、そんな今風のものをあのひとが果たして飲んでくれるかどうか。このあいだ、値の張るプレゼントをあげたばかりだし、そう高価なものは買えない。
 バレンタインなんて、言い訳なのは知っている。ただ会いに行きたい。でもそんなメールは打てない。
 店のバレンタインコーナーには、チョコレートのお菓子の本はもちろん、バレンタインにちなんだ音楽CDや、バレンタインをテーマにしたアンソロジー本も並んでいる。こういう本なんか面白そうだ。ラブソングをタイトルにして流行作家が話を書いているアンソロジーで、ストレートな恋愛の話でなければ、あのひとも読んでくれるかもしれない。花はため息をついて上品なコラージュ写真の表紙を見た。ラブソングを聴いているとみんなあなたのことみたいだなんて、あの年上のひとは笑うだろうか。
 そこまで考え、花は思い出した。そう言えば、好きな作家が新刊を出したはずだ。あの出版社は大きい本屋でないと置いていないから、いい機会だ。花はさっきの本を手に持ったまま、目当ての棚に足を急がせた。
 棚を目にして、しかし花は足を止めた。
 目当ての新刊は、確かにあった。平積みにされている。でもそこには近づけない。そのすぐ前に男の人が立っていた。
 おそらく恋人と同じくらいか、若いだろう。少し長めの茶色の髪は無造作に毛先が跳ねているが、無精な感じはしない。細身が際立つとてもスマートな着こなしをしていて、センスの良さを感じる。文若だって格好いいと断言できるけど、このひとのようにいかにも上手に着こなしたり着崩したりしているひとに比べたら、教科書みたいだ。
 そのひとが右手と左手に文庫本を持って、いかにも悩んでいる顔をしている。
 右手に持っているのは、花が好きなシリーズ本の一作目だ。左手の本は読んだことがない。乾いた冬枯れの木立をバックに、著者名とタイトルがぽつんと示してある。シンプルなのに心のどこかが泡立つような表紙だった。
 男は右と左の本を代わる代わる見ている。そこで、花に気づいたようだった。気安い笑みを浮かべる。
 「ごめんね、邪魔かな?」
 言いながら、彼は半歩横にずれた。格好いい声だなと花は思い、慌てて首を横に振った。すみませんとか何とか呟きながら、並んでいた新刊を手に取る。へえ、と高いところで感心する呟きがあった。
 「そっち、面白い?」
 また掛けられた声に身構え、本を抱きしめる。
 「わたしは、好きです」
 「どうして?」
 花は新刊の表紙を見た。
 「この女の子が格好いいんです」
 赤い縁の眼鏡がよく似合う女子高生のイラストを指さすと、彼は楽しそうに笑った。
 「きみみたいな女子高生に格好いい、って言われる女子高生の登場人物か。悪くないね。でもそっちの、主役みたいな男子高校生はダメなの?」
 「ダメって訳じゃないですけど…こんなに頼りになる男子、あんまりいないと思います」
 「へえ、そう。じゃあ、これも買おう。ありがとう」
 にこ、と擬音がつきそうな笑顔を浮かべ、彼は足早にレジへ歩いて行った。見るともなしに見送っていると、振り向いて手を振られた。慌てて頭を下げる。そのひとの姿が見えなくなって、花は長い息をついた。
 「…ヘンなの」
 文若の時みたいだ。場所も時間帯もまるで違うけれど、なんだか似ている。友人に確認するようなことでもないけれど、こんなことって多いんだろうか。
 花は小首を傾げたがすぐに棚を移動した。やることはたくさんある。恋人の好きそうなもの、と呪文のように心に思い浮かべながら花は店内の散策に戻った。


 


(2014.2.4)

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