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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 現代版・社会人文若さんと高校生花ちゃんです。





 もう少しでシーズンが終わる海水浴場は、急いで夏を味わおうとする人々なのか、結構、混んでいた。スピーカーからは夏になると必ず聞くバンドの曲が延々かかっている。2、3度聞けば覚えてしまうそれは、口ずさんでいることに気づくと少し恥ずかしいくらい、センチメンタルだ。子どもの嬌声がときおりそれをかき消し、かぶせるように監視員の声が飛ぶ。
 大きいビーチパラソルの下は、みなの荷物でけっこう混み合っている。花の彼氏だという男性と広生は飲み物を調達しに行ったし、女子は着替えの最中だ。
 なぜ、彼女たちがこの砂浜に決めたのか、子龍は知らない。部活の合宿や遠征でもなければ遠出しないから、気分が変わるのは嬉しかった。海水浴なんて、いつ以来だろう。
 「お待たせ」
 彩がパーカーのチャックを上げながら帰って来た。パーカーのポケットに縫い付けられたスパンコールが驚くほど眩しい。
 「みんなは?」
 「まだ」
 「混んでるのかな。子龍くんも、ひとりで留守番させちゃってごめんね。」
 子龍は首を横に振った。水着は家から着てきていたので、問題はない。
 「やっぱ、暑いねー」
 「海だからかな」
 彩は、なぜかひどく可笑しそうに笑った。
 「ひとりで海に行こうなんて思わないんだけどね。海の匂いって、ちょっと苦手で」
 「そうか」
 「うん。」
 彩は振り返って、大きく手を振った。
 「花、早くおいでよ~」
 「彩ってば、早いよー」
 かなが、Tシャツと同じ鮮やかな色の水着で駈けてくる。その後ろから、白いビキニの花が、薄いピンクのパーカーを手に持って走ってくる。
 「子龍くん、ごめんねー。混んじゃって」
 子龍はもういちど首を横に振った。
 「やっぱり、この水着、地味だったかなあ」
 花が、パーカーを胸元で抱きしめるようにしてあたりを見回した。
 「かなみたいな、派手な色の水着にすればよかったかも」
 「それをフリルでカバーしたんじゃなかったっけ」
 「そうなんだけど」
 子龍はそっと三人から目をそらした。普段は女子の下着を見ることなどとんでもないと思うし、水着はテレビ映像であってもどうしたらいいのか分からない。そして、それに日焼け止めをがっちり塗り始めた彩の行動も、大変だなと思う。
 「ほら、ああいう」
 花が、通り過ぎた女性を小声で示した。蛍光オレンジの少し変わったビキニを着た、素晴らしい体型の女性だ。
 「ああいうパレオ付きのほうが大人っぽかったかなー」
 「またまたー。文若さんの好みで選んだんでしょ? なんか花、最近、前よりずっと可愛い系を選ぶもん」
 かながつつくと、花の顔が見事に赤くなった。
 「それは…まあ、考えるけど」
 「白フリルビキニ、可愛いよ」
 「うん、だからやっぱりこんな雰囲気に落ち着くんだけどね…」
 「大丈夫よ。黒のホルターネックのドレスとかワイルド系のビキニが似合うようになる頃まで一緒にいる予定なんでしょ」
 彩が、鏡をのぞき込みながら落ち着いた口調で言った。日焼け止め塗りは満足のいくものに仕上がったようだ。子龍は顔を上げ、改めて花を見た。花はもごもご言っているが、大きな否定はしない。
 部活に絡む大会とかそこから派生する大学の推薦枠だとか、そういうことを考えたことはある。けれど自分は、国際的な大会に出るような人材ではない。それはどうしても分かってしまうことだ。
 けれど彼女は、ずいぶん大人になる時まで考えているのだなと思う。恋愛は自分にはどうにも頼りないもののように見えるが、花にとってはとても強い指針なのだろう。しかし、ワイルド系のビキニ、が似合う彼女は想像がつかない。
 「あ、帰って来た」
 スイカを持った広生を、かなが見つけた。隣の文若は、スポーツドリンクのペットボトルを抱えている。
 「うわー、広生くん、ベタだなあ」
 「っていうか、この人混みで棒なんか振り回せる?」
 彩がまわりを見回す。確かに人混みはかなりのものだが、海の家が並んでいるあたりを抜ければ若干空いていそうだ。
 「すいか割りなんて、やったことがありません」
 子龍が言うと、花が笑顔を向けてきた。
 「子龍くん、きっと上手いよ」
 「そうでしょうか?」
 「うん」
 何の根拠もないだろうに、やけにまぶしい笑顔から子龍は目をそらした。
 広生はかなと彩に、どこで割るのかとか、棒はどことか、かしましく聞いている。文若は花から何となく目をそらしているような気もするが、喧噪の中で、似合っている、という言葉だけは子龍の耳に聞こえたと思う。きっと合っている、花の頬が紅くなったから。しかし、水着が似合っているというのは、どういう意味だろう。下着のようなあれを…
 「泳いできます」
 広生に言うと、海に向かって歩き出す。もう半分の日陰は、花と彼氏に譲ろう。
 「よーし、じゃあ、泳ぐかー!」
 「ちょっと日焼け止め! まだでしょ!」
 「あーそっか」
 パラソルの僅かな日陰で大人しく体育座りしたかなは、彩に背中を塗られている。そうだ、花と彼氏もどうせあんなことをするのかもしれない。子龍は小走りに並んできた広生を見ると、海にダッシュした。


(2015.8.5)

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