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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 現代版・文若さんと花ちゃん。もう一回くらい、続きますすみません。



 


 「やっぱ、この花火からでしょ!」
 かなは、じゃじゃーん、と擬音が付きそうな仕草で、花火セットの隅に纏められていた線香花火を取り出した。
 「それは普通、シメにやるものじゃないのか」
 広生が淡々と言った。子龍も地面に蝋燭を立てながら頷いている。かなは腰に手を当てて仁王立ちになった。
 「分かってない。最後に線香花火なんてやったら、寂しくなるでしょ。線香花火を最後にやっていいいのは、カップルだけです」
 「一理あるわね」
 彩が苦笑気味に言った。花も笑いながら、かたわらの文若を振り仰いだ。かなの言葉の意味を咀嚼しているような表情で、なんだかおかしい。花は一歩前に出て、かなから線香花火を受け取った。
 「やりましょう、文若さん」
 「ああ」
 文若は思いから醒めたように瞬きし、宿から借りてきた水の入ったバケツを地面に置いて微笑した。金属製のバケツは形がいびつで、どれくらい貸し出されてきたのだろうと花は思った。
 海沿いの店はほとんど営業を終わったようだ。等間隔でともる街灯に羽音を立てて集まっている蛾がいる。花たちと同じような民宿の泊まり客だろう、酔った声で話しながら歩いているグループや、浜辺で花火を打ち上げては笑っている一団がいる。どこからか調子外れだが機嫌のいいカラオケの歌声が聞こえてくる。演歌のようだ。波音が昼間より大きく聞こえるのはどうしてだろう。
 「そういえばこのあいだ、線香花火を長持ちさせるコツっていうの、テレビで見たなあ」
 花が呟くと、蝋燭に花火を近づけようとした文若の手が止まった。
 「そんなものがあるのか」
 「うーん、でも、忘れちゃいました。適当に見てたし」
 「残念だな」
 文若が目を細めてからかうような表情になった。遠くの街灯で陰影のついた表情はいつもより格好良く見えて、花は慌てて目をそらした。
 「大丈夫です。かなが気合い入れたから、あんな大きい花火の詰め合わせを買ったし、まだ楽しめますよ」
 鍵のかかったガラスケースからかなが選びに選んだ花火セットは、水着を入れるビニールバックくらいのサイズで、ここまで子龍がうやうやしく運んできた。彼の動作はいつも丁寧だ。
 子龍が点けた蝋燭に線香花火をかざす。子どもの頃から、花火セットに入っている線香花火には一発で火を点けられた覚えがない。いつもじりじり待って、やっと火がつく。
 「あ、点いた」
 揺らさないようにそっと蝋燭から離れると、かすかな音を立てて弾け出す。すぐに、ゆらりと文若の線香花火が並んだ。
 「うまく点いたな」
 「そうですね」
 背後では、泡が弾けるような音がして、独特の火薬の匂いがしてくる。
 「子龍、もうそっちに火をつけたのか?」
 「線香花火終わってからって言ったのにー」
 「しかし、線香花火はもうないので」
 「わたしもそっちやる!」
 「あ、もう、かなってば揺らすから落ちちゃったじゃない!」
 背後のかしましさに文若はちらと振り返ったようだったが、すぐに線香花火に目を戻した。
 「文若さん」
 「なんだ」
 「ありがとうございます、一緒に来てくれて」
 花が言い終わると、見計らっていたように線香花火の最後の光が砂に落ちた。
 「終わっちゃった」
 「ああ…こっちもか」
 文若は花の手から終わった花火を取り、バケツに入れた。花火はかすかな音を立てて水に浮かんだ。
 「次はどれをやる?」
 文若の声が聞こえたのか、広生がこちらを向いて花火の束を差し出した。
 「こういうの、今でもあるんだねー」
 ピストルの形に切り抜かれた紙の先端に花火がついているのを取ると、短い花火を両手に持ってやっていた広生が笑った。
 「それは山田がやったほうがいいな。分かってても人に向けそうなのがいる」
 「かなもそんなことはしないよ」
 「誰とは言ってない」
 「あー、ひどい」
 笑いながらそれを取り、火を点ける。じきにシューッという音とともにピンク色の火花が散る。
 「懐かしいな」
 文若が火花越しに笑った。
 「花火って、みんなが集まらないとやらないですよね」
 ふいと彼が小首を傾げる。
 「こんなことをしたのは子どもの頃くらいだな」
 「そうなんですか?」
 「ああ。面白いものだったんだな」
 不思議な言い方だ、と花は思った。ピストル型の花火はすぐに終わり、またぼんやりした闇がくる。街灯も近くにあって夜としては明るいのに、この瞬間はまわりが急に遠くなるようだ。花は急いで、火を点けた花火を文若に差し出した。
 「はい、文若さん」
 「ありがとう」
 彼が持った花火はすぐ煙を上げて燃えだした。もともと白い顔に、火花の色がうつる。今なら撮影しても何か言われないかな、と花は思った。自撮りするのに一向に馴れてくれない彼氏は、本当にたまに一緒に写ってくれても彼はたいそう照れていて仏頂面に見えてしまうのだ。実物はこんなに格好いいのに、写真は絶対にそう写らない。しかし迷っているうちに花火は終わってしまった。
 もうちょっと大人になったら、二人で旅行も許してもらえるだろうか。そうしたら好きなだけこのひとを撮影できて、なおかつふたりで撮るのに照れないでいてくれるだろうか。
 「ほら、花」
 文若が花火を差し出している。花はそれを受け取った。
 「文若さん、またどこか行けたら、花火をしましょう」
 唐突に聞こえたのか、文若は少しきょとんとした表情になった。それから、目を逸らすようにして、
 「まだ花火大会を開催するところもある。見に行くか」
と呟くように言った。
 花火大会は前にも一緒に行った。でもまた行きたいと思ってくれている。――もう少しずるく、甘えていよう。
 「連れてってください」
 夜だから、紅くなっているのはあまり見えないだろうと思うけど、文若が照れているように見えるのだから、彼にも分かってしまうだろうと、花火を握る手に力がこもった。


 


(2015.8.25)

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