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高校生な花ちゃんと、オトナでオカネモチな孟徳さんのシーンです。もうひとりの述懐。
ちょーーっとあだるてぃ? かもしれません。
窓に指を押し当て、恋人が帰っていくはずの通りを指でなぞる。
時に、この窓はすべてスクリーンで、景色はフィクションのような気を起こさせる。雲も雨もただの舞台装置、月の光なんかなおさらだ。あの子が指さす観覧車や、行ってみたいという展望台だけが実物。だからこの指先が辿る場所が現実だ。
最初の夜、あの子はこの窓を飽きずに眺めていた。あの車に全部ひとが乗っているんですよね、と子どものようなことを言って笑っていた。あれは本当に初めての夜だった。女の色々を分かっていただろうに、強がりや照れ隠しでなく、彼女はこの窓からずっと外を眺めていた。
ここの夜は本当に短い。
昼間は一秒をさらに割るような生活をしているから、気に入りの女の胸に眠る時間は長くていいのに、いつも理不尽な思いがした。けれどあの子を知ってからは、もっと短い。
あの子のために変わった部屋にひとり残されるのは妙な気分だ。
この部屋はあの子が夜を嫌わないように物を揃えた。女は泡に似た頼りないものが好きなことは、経験で知っている。そういうものをどこかで軽蔑しながらそのくせいちど知ると本人の知らない間に馴染んでいく。それしか知らないような肌になる。もっとも、女子高生なんて存在は手に入れても現実感がなくて、あの子はここに来るたび客の顔をする。
あの子は、まだここを夢だと思っているだろうか。
柔らかい背中を傷つけないルームウェア、白い足をそっと受け止める絨毯、華奢な踝を強調するためだけのアクセサリ。砂糖菓子みたいな爪、自分の背中を掴む爪に艶やかな照りを与えてもいいのだけれど、残念ながらそんなスキルはない。馴染みの女たちの中にはそういう仕事をしている者もいるけれど、あの子を連れて行く気にはならない。それにそんなことをしたら、あの子がここから帰っていきづらくなる。あの子はこの手のひらの感触だけ肌に残し、夜をすべて脱ぎ捨てて帰る。
ベッドに起き上がったあの子が、ぼんやりした顔を暗い窓に映しているのを見るのが好きだ。ほつれた髪も女の匂いのする汗も知らない顔で、長い夏休みの昼寝から起きたばかりの子どもみたいに無防備な、自分の知らない時間を突きつける顔であの子は外を見ている。そうしているだけであたりが柔らかく発光していく気配をまとわせた様子を見るたび、夜に咲く花を思い出す。名前はきれいなその花は肉を思わせるグロテスクさでしんなりと咲く。あの子は女として発光していながらまるで自覚はない。だからだろう、その目に俺を捕らえると、あの子はただ笑うのだ。その顔を見るたび、彼女を最初に見つけた日を思い出す。白いケーキ屋で、本人もケーキみたいな制服を着ていた子だった。明日もあの制服を着て笑顔を振りまくのだ。
携帯電話を取りだして眺める。画面は黒いままで何の着信もない。そうだ、あの子はいつも明るい時間に連絡をくれる。あの子が笑うさまが容易に想像できるその時間に、自分は決して側にいられない時間に。
君はいつまでここを夢だと思うだろう。君の夢で終わりたくないのは確かなのに、まだ君にはまどろんでいて欲しい。そう諮詢しているあいだに君は俺などきっと追い越していく。俺が知るあまたの女と同じ表情で笑うようになる。
ここを、いつまで夢にしたらいい。
窓に背を向けると帰っていく彼女ともっと離れてしまいそうで、彼は窓に額をつけたまま立ち尽くしていた。
(2013.8.14)
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