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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 オトナな公瑾さんと、花ちゃんです。
 
 リクエストのほうは、今週末くらいから更新させていただければな…と、意気込み。くれぐれも、お待ち下さいませ。
 
 


 
 
 公瑾は前を見ていた。
 前、と言っても心許ない。庭があるはずの場所はただ白い重い霧が流れている。屋敷のあるあたりまでこんな霧が立つのは珍しい。
 本当は馬を駆って船着き場まで行こうと思った。こんな時、川面に風はどう流れるか、水はどんな温度か。何度確認してもこれでいいということはない。しかし実際は、窓に寄りかかってぼんやりしている。
 ぱたり、と背後で布が鳴った。
 「公瑾さん?」
 細い声に、彼は躰ごと振り向いた。寝台に起き上がった妻が、彼を見つめて安堵したように笑った。彼が寝台に戻って腰かけると、花は吸い込まれるようにその胸に抱きついてきた。
 「起こしてしまいましたか」
 囁くと、胸の中で花がかぶりを振った。
 「公瑾さんは昨日も遅かったのに、もうお仕事に行ったのかと思いました」
 起きたばかりの、僅かに舌足らずな声を聞き彼は口元を綻ばせた。…これが聞きたかった。我ながらどうかしている。
 「わたしが側に居ないと分かったのですか」
 「公瑾さんが居ないと眠りが浅いんです」
 どこか誇るような妻に、彼は目を細めた。
 「さて、わたしの抱き枕とやらで熟睡していた方の言い分とも思えませんね」
 「あれは」
 花は頬を膨らませてこちらを見上げてくる。
 まとまって会話をする暇の無かった時に、夜半に帰ってみれば妻の寝台に「誰か」が居た。結局それは自分の衣を巻き付けた丸めた掛け布だったのだが、あの瞬間の激高と、それが分かってからの脱力感はいまも彼を揺らす。寂しかったんですとめそめそ泣かれ、いつの間にか自分が悪いような気にさせられたのも苦い。
 「あれ以来、やってません」
 「そうですか。では、それを使わないように言われたからわたしが居ないのが分かったと」
 「公瑾さんってばもう、いつまで拗ねてるんですか? あれは公瑾さんの衣だし、ただの掛け布です!」
 「それでも疲れて帰って来た夫を寝台から閉め出すほどの大きさはありました」
 「だって抱きつく感じを公瑾さんと同じにしたかったんですもん」
 自分こそ拗ねて言った妻は、顔を輝かせた。
 「じゃあ、公瑾さんの古い衣でわたしの夜着を作ったらいいんです。だったらいつも公瑾さんと一緒!」
 「…わたしはいつもともに居ります」
 ぶすりと言うと、彼女はにわかに表情を曇らせた。
 「ごめんなさい」
 「なんです、突然」
 「公瑾さんはお仕事なのに…わたしばっかり騒ぎ立ててますね。」
 花の目にじわりと悲しいようなもどかしいような色が浮かんだ。唇をきつく噛んでうつむいてしまったので、公瑾からはちいさい頭のつむじが見えるだけだ。
 「気を付けます」
 消え入るような声に、彼は息をひとつ吐いて彼女を抱き寄せた。花が小さく抗ったが、かまわず引き寄せてつむじに口づける。
 「たしかに、都督の妻としての心がけには足りぬところがあります。しかし、夫としては、気分は悪くない」
 「え?」
 「あなたがわたし無しではいられないということですからね。…悪くありません」
 くすくすと笑いながら告げると、花は顔を真っ赤にして彼を見上げて睨んだ。
 「だって公瑾さんのこと大好きですもん!」
 「正直でよろしい」
 「本当です」
 「疑ってなどおりません」
 「じゃあ、このあいだ玄徳さんから貰った帯をつけてもいいですか」
 公瑾は笑顔のまま、妻を見つめた。…まったく、どこまで自分を揺さぶってくれるのか。
 「なるほど…交渉事を有利に運ぶのは相手をよい気分にさせるのが手っ取り早い。」
 「それとこれとは話が別です!」
 花がむっとした顔でぽすっと寝台を叩いた。
 「別なはずがないでしょう。どちらも純粋に愛情の問題です。同じ交渉事にしないでいただきたい」
 「もうー公瑾さんの分からず屋!」
 「分からず屋で結構。あなたもたいがい諦めが悪いのだからあいこでしょう」
 彼は妻の腰を抱きなおした。
 「このまま出仕しては寝覚めが悪い。もういちど言ってください」
 「…げんとくさん」
 「は・な。」
 頬に唇を寄せると、その頬が熱くなっているのがわかる。交渉ごと、特に妻に対しては己の美貌を最大限利用しない手はない。目線をさまよわせた花は、唇をかすかにひらいた。
 「抱き枕、は、許してください」
 「花」
 「寒くて、怖いことばかり考えてしまうんです。公瑾さんに比べたらまだとても心が弱くて自分でもいやなんです。いつかちゃんとしますから…許してください」
 本当に済まないと思っているのだろう、声が震えている。公瑾は花の髪を撫でた。
 「考えてもみてください。わたしもあなたが居ない天幕で独り寝の寒さを味わうのですよ。あいこ、でしょう?」
 ややあって、花が小さく頷いた。
 「…ごめんなさい、本当に子どもみたいで」
 「言ったでしょう。…あなたがわたしなしでいられないというのは快いと」
 「じゃあ、いいです、か…?」
 「わたしが居ない時にのみ、許します。『自分』の、たかが衣で追い出されるのは業腹ですから」
 公瑾は小さく息をついた。嬉しそうに顔を上げた花に、軽く口づける。
 「さあ、では出仕前にこころゆくまで抱きしめてください。今日のあなたのためにね。」
 花は顔を紅くして、それでも公瑾の胸元に、すり寄るように鼻を押しつけた。それに心から満足し、公瑾は花の肩を撫でた。
 
 
 
(2011.1.6)

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