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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 公瑾さんと花ちゃん。ですが、王子が出張ってます。
 
 

 


 明るい日が降り注ぐ庭で白猫をかまっている花を見つけて、仲謀は立ち止まった。一緒に歩いていた文官たちを先に行かせ、回廊の手すりに手をつく。
 そのまましばらく見ていたが、花は素っ気なく寝返りを打っているだけの猫の背だの頭だのを指で撫でて満足そうに笑っている。まだ結うには足りない薄茶の髪に小さな白い花飾りが揺れている。彼はため息をついて柱をぽんと叩いた。
 「おい、花」
 花の背がぴょん、と伸びた。その拍子に猫が駆けて見えなくなる。花は振り返ってあーあ、と呟いた。仲謀は頭をかいて庭に降りると、彼女に並んだ。
 「なにさぼってんだ」
 花は子どもっぽく唇を尖らせた。
 「さぼってないよ。休憩だよ」
 「へえ。…ああ、ほんとだな。公瑾がいないもんな」
 「仲謀ってば。」
 「事実じゃねえか。お前のことずっと構ってる」
 花はさらに不服そうな顔をした。
 「気にしてる、くらいにしてよ」
 「そうか? 構ってる、ほうが正しいだろ。さっきのお前みたいなもんだ」
 「なによう、それ」
 花の細い首にきれいな布が巻かれている光景を想像し、仲謀は笑った。花はまた唇を尖らせたが、大きく袖を振って彼の前に回り込んだ。
 「仲謀」
 その声があんまり決然としていたので、彼は笑みを消した。
 「何だよ」
 「手、出してよ」
 「はあ?」
 「ほら!」
 花が見えない壁を押すようにぐいと手のひらを前にして突き出した。仲謀はその手と彼女の表情を見比べ、髪をかき回すと片手を彼女の手のひらに重ねるように並べた。触れてはいない。花は顔を輝かせた。
 「仲謀の手って大きいね!」
 「…そんだけか」
 花は首を傾げた。仲謀の指先につ、と指を合わせる。柔らかい指先だ。
 「公瑾さんの手も大きいけど、仲謀のほうがちょっと指が長いみたい。」
 「お前、公瑾とこんなことやってんのか」
 「こんなことばっかりじゃないよ」
 花は仲謀の手を押した。ふいをつかれて上体が揺らぐ。
 「倒れたり、足が動いたりしたら負けだよ」
 にこにこと彼女が笑ってまた仲謀の手を押した。のけぞりそうになってあやうく踏みとどまる。
 「なんの遊びだ、よ!」
 「バランス…えっと、身体の中心を上手に取る遊び!」
 「妙なこと知ってんな」
 「学校でよくやるんだ」
 「へえ」
 会話だけは続けながら、手はせわしなく押したり引いたりを繰り返している。押すと見せかけて引いたり、その逆だったり。じきにこつを飲み込んだ仲謀も楽しくなってきた。
 「仲謀とだと、釣り合いとれてる感じで楽しい」
 実に無邪気に花が言った。
 「俺様に対してよく言うな!」
 「だって、公瑾さんだとほんと、負けたくないんだもん」
 「俺には負けてもいいってのか」
 「うーん、勝ったら勝ったで公瑾さんに怒られるかなあ?」
 「なんでそこ疑問系なんだよ。怒って当然だろ」
 「そうだよねえ~」
 そう笑われては、こっちは怒る気もしなくなる。そう思うだけ、自分もこの娘の対処に慣れたのかもしれない。
 「あー仲謀があそんでるー」
 「さぼってるー」
 その声が聞こえた途端、身体が固まった。突き出しかけた手が半端に止まる。花がにや、と笑った。えい、と威勢良く突き出された手を咄嗟に身体がよけて、片足が一歩後ろに下がる。
 「やった、勝った!」
 両手を高くさしあげて笑う花のそばに、小さい顔がふたつ、のぞいた。
 「花ちゃん勝ったの?」
 「なんだかわかんないけど仲謀、負けたの?」
 「かっこわるいー」
 「うるせえ、初めてやったからだ」
 「大喬さん小喬さん、仲謀はすごく上手だったんですよ。初めてやったとは思えないくらい」
 「へえー」
 「でも負けたんだよね?」
 「あー、やっと勝てたあ! 公瑾さんだと一回も勝てたことがないからすごい嬉しい! ありがとう仲謀!」
 「…礼かよ」
 小さく跳ねた花は、真剣な顔をして仲謀を見た。
 「内緒にしてね」
 仲謀はしみじみと花を見て、にやりと笑った。そのまま身を返す。わたしにも教えて、という姉妹の声に混じって仲謀、と呼ぶ慌てた花の声がした。回廊に上がってすぐの角を曲がると、公瑾が深く頭を下げていた。
 「仲謀様」
 「お前が謝ったりするなよ。遊びだ。」
 公瑾は何か言いかけて頷いた。それへ、さっき花に向けたような笑みを浮かべる。
 「お前も花も大概だな」
 だから似合いだ、とは気恥ずかしくて言えない。だが、どこか低温の仲謀様、という呼びかけはそれを察したようだった。
 ひっそりした足音がついてくるのを聞きながらさっきの遊びを思い出す。鍛錬とも言いがたい、他愛ない手のひらの温度の交換。公瑾はどんな顔であれにつきあうのか。照れくさいのでそれ以上は想像しないが、花の様子からすると遊びでも言いたいことは言っているようだ。ということはじゅうぶん、楽しんでいるのだろう。
 とりあえずもう一回挑んでやる、と彼は拳を握りしめた。
 
 
 
 
 
(2013.1.21)

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