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公瑾さんと花ちゃん。
妻は、己で気にするほど幼くないと公瑾は思う。
確かに、こちらの常識では有り得ぬことが彼女にとっては普通だ。しかしそれはお互い様であろう。そう思えるようになるまで、公瑾も紆余曲折ばかりで一周してしまったような気もするが、とにかく、彼女は「幼い」訳ではない。恋をした女が、そうそう幼いままで居るはずもない。
彼女が公瑾の過去に妬心しているようなとき、彼は深い満足を覚える。彼の過去に彼女も居たような気がするからだ。同じように、自分が彼女の過去に入り込むことができぬものかと思う。
このあいだ、それに似たことがあった。
小石を丁寧に並べた道のある庭に出かけた時、モザイクみたいという彼女の一言を捉えた。耳慣れぬ言葉を根掘り葉掘り、たどたどしい説明を聞いた。
それではと、色とりどりの石を薄く剥いで小さく砕き、それを並べて絵を作って見せた。涙の青と血の赤、大河の緑と悪夢のうす紅、剣の白と鎧の黒。それを使って妻の好きな四季の花が咲きそろう庭を描いた絵は、我ながら子どもだましのように甘い。
花は、ああこれが「もざいく」です、と笑った。
それをひとつひとつ撫でる妻に、石の産地を語った。妻の指先はとても丁寧に動いていた。
その時公瑾はふいに、妻が思い出す過去は柔らかいものだけでいいと思い、自分がその過去に居てはならぬような目眩を覚えた。
しかしこちらを振り仰いだ妻は、
「こんなきれいなものを見たのは初めてです」
と笑ったので、たとえそれが彼女の気遣いだとしても構わなかった。
己の欠片をちりばめた絵が、その前で愛しいひとが笑うだけで明るく見えるので、もういいと思った。
(2011.10.1)
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