二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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公瑾さんと花ちゃん。お子さん話です。
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「とーおさーまーぁ」
間延びした声とともにすねに抱きつかれ、公瑾は僅かに眉をひそめた。ぶつかってきた当の本人は、ちっとも悪いことをしたとは思っていない顔で公瑾を見上げる。彼は膝を折って、娘と同じ目線になった。追いついてきた侍女を片手で下がらせる。
「この間も教えましたが、わたしの娘ならばそのように他人にぶつかるものではありません」
幼い娘は、ことりと首を傾げた。
「このあいだ、かあさまがとうさまにしてました」
「…母様は特別です」
「じゃあ、わたしは? とくべつ、じゃないの、ですか?」
公瑾は長い息をついて娘の体を持ち上げた。
「お前はわたしの娘です。母様ではありません」
娘はなにやら難しい顔をした。
「かあさま、じゃない」
「ええ」
娘は何度かそれを繰り返して言い、うん、と小さく頷いた。
「わかった! かあさまになったらしてもいいのです?」
「お前はやってはいけません」
意気込んで言った言葉をばっさりと切られた娘が、きょとんとする。公瑾はまたため息をついてその頭を撫でた。
「母様はどちらですか」
聞くと、娘は公瑾の首にしがみついた。
「どうしました」
「…にいさまの、とこ」
公瑾は眼を細めた。息子が剣の稽古で怪我をしたのは昨日だ。型でなく、ようやく打ち合いらしいものを稽古し始めたばかりで、相手もよく選んでやっているが、それでもあざやかすり傷は絶えない。長男のこととて、花も心配なのだろう。公瑾がかすり傷を負っても泣きそうな顔をした、と彼は妻を思い浮かべた。きっとつききりで手当てしているのだ。
「にいさま、ばっかりなの」
焦れた口調で娘はちいさく言った。
「では、わたしも母様に構って貰えなさそうだ。お前がかわりに遊んでくれますか?」
娘は、わくわくと公瑾を見た。
「とうさまと? とうさまとあそべる?」
「ええ」
「あそぶ!」
ぱっと両手を父の首から離して頭を上に上げた娘の小さなからだが、ぐらりと揺れる。公瑾は慌てて娘を抱き直した。
「とうさま」
「なんです」
「あのね、亮くんがね」
名前が気に入らないその幼子は、娘の世界では重きを置く男子だ。しょっちゅう、会話に出て来る。近所に住む老官の孫で、はきはきした性分らしく公瑾を見ても物怖じしない。息子よりひとつ年上だった。
「彼がどうしましたか」
「亮くんのおねえちゃんがおよめさんになるみたいなの」
およめさん、という言葉を、娘は飴のようにうっとりと言った。そういえばずいぶん年の離れた孫娘が居たなと彼はうっすら思い返した。
「それでね、おねえちゃんは、あいとこいのちがいをかんがえてるんだって」
「…何ですって?」
娘が言った言葉がうまく頭で変換されない。娘を見返すと、彼女は満面の笑みで、あいとこい、と言った。
「とうさまは分かる?」
公瑾は娘を見つめ、それから目を逸らした。
「母様には聞きましたか」
「うん! にこにこして、とうさまにお聞きしなさいって。とうさまはなんでも知ってるから、って」
逃げましたね、と公瑾は心の中で妻にしかめ面を向けた。実際にそうしたとしても、妻はえへへ、と笑うばかりで悪びれないだろう。そういうひとだ。
「とうさま?」
公瑾は輝くような笑みを娘に向けた。
「大きくなったら教えてあげます」
「うん!」
顔を真っ赤にして頷いた娘は、もう満足したように小さく体を揺すって歌を歌い出した。…さて、この手がいつまで通用するか。
(あなたもあなたですよ、花)
あなたがわたしにもたらしたのに。それともあのひとは、わたしの口から言わせたいのか。
公瑾は、妻に問う言葉を浮き浮きと選びながら、娘をしっかりと抱き直した。
(2011.9.17)
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