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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 公瑾さんと花ちゃん、です。
 やっとあなたの側に居るのが分かってきました…な頃、です。
 

 
 
 
 花は、茶をひとくち飲んでゆっくり息をついた。この午後に、花の香りを付けた茶はとても美味しい。
 少し暑いが、風はそれほど湿っていない。東屋というのは、とてもいい場所に作るものだと改めて彼女は感心した。耳をすませば柳の枝が揺れる音さえ聞こえそうな、静かな午後だ。
 「おいしいねえお姉ちゃん」
 「そうだねえ」
 花からすれば甘さ控えめの胡麻団子を、喬姉妹はにこにこ顔でほおばっている。そのさまがとても可愛らしくて、花は笑った。
 「今日は蜂蜜を多めにしました、って料理人さんが言ってましたよ」
 「だから美味しいんだね」
 「ちょっと暑いしね」
 大喬が小首を傾げて花を見上げた。
 「花ちゃん、どうしたの? さっきから全然食べてないじゃない」
 「具合でも悪いの?」
 途端に表情を曇らせるふたりに、花は慌てて手を振った。
 「違います。」
 「そう?」
 「公瑾にいじめられたのかと思っちゃった」
 「小喬さんってば」
 花が困って彼女を見ると、小喬はまた、ぱくりと小さめの団子を食べた。
 「それで、どうしたの?」
 花はあたりを見回した。回廊には侍女が囁き交わしながら歩いているだけで、彼女の大事なひとの姿はない。花は、顔をぐっとふたりに近づけた。
 「あのですね。胡麻団子、って、美味しいじゃないですか。」
 「そうだね」
 「大好きー」
 「わたしも大好きなんです。…でも、でもですよ。胡麻って、歯のあいだに挟まるんです。」
 卓の上で握りしめた花の拳と顔を代わる代わる見た姉妹は、にい、と笑った。
 「分かった」
 「分かっちゃった」
 「公瑾に『みっともない』とか言われたんだ」
 「『胡麻団子ばかり食べていると団子になってしまいますよ』とか」
 花は深く頷いた。
 恋人、と言っていいのか迷うほどきれいなそのひとは、大抵、意地悪だ。
 キスしたあと、くすくす笑いながら唇を撫でられ、胡麻がついていますよと言われた時の恥ずかしさったら無かった。何か言い訳しながら走って逃げた気がする。
 小喬が大きく息をつく。
 「胡麻団子を花ちゃんと食べるのって、大抵わたしたちだもんね」
 「たまに仲謀も入れてあげるけどね」
 「公瑾は、甘い物は苦手ですとか澄ました顔するから」
 「だからだよ」
 「だとしても、です。わたしも胡麻団子は大好きです。でも我慢します」
 この世界では数少ない甘い菓子だが、公瑾に恥ずかしいところを見せるのは嫌だ。姉妹は顔を見合わせ、花を大人びた横目で見た。
 「公瑾、やることはやってるね」
 「うんうん」
 「大喬さん小喬さん!」
 そういう反応があるだろうことは分かっていたのに、いざ言われるとやはり恥ずかしい。大喬は小さく肩を竦めた。
 「花ちゃん、このあいだ作ってくれた焼き菓子なら、公瑾も一緒に食べてくれるんじゃない?」
 花は眉をひそめた。彼女にしては塩気がきつかったクッキーもどきは、仲謀に兵糧か、とからかわれ、へこんだ代物だ。
 「甘くないし、胡麻を使ってないでしょ?」
 「そうですけど…」
 彼女は、遠く、もとの世界を思った。躰の中からいい匂いがする飴とかガムとか、もっと真剣に成分を見ておけば良かった。クッキーだって食べたあとはそれと分かるのだ。歯磨き粉が欲しい、と花は泣きそうになった。このままではお茶しか飲めなくなるような気がする。
 「もう、何を食べればいいんでしょう…」
 考えが一気に暗くなってしまった花に、姉妹はまた、顔を見合わせた。そうして公瑾とよく似た笑みを浮かべた。ええ分かっていますよと、彼が意地悪になる時の笑顔だ。
 「簡単だよ。一緒のものを食べればいいんだよ! そうしたら気にならないよ」
 「朝からずうっと」
 「そうすれば公瑾もちゃんとご飯を食べるね」
 「食べる食べる」
 頷きあうふたりに、花はよくよく考えた。冷えたばかりの頬がまた、熱くなる。
 「あ、朝から、って」
 「うんうん」
 花は、拳を握った。新婚さんのようだ、と一足飛びに思ってしまい、頭がぼうっとなるが、ここで乗せられてはいけない。
 「よ、よく考えたら、お仕事が忙しい公瑾さんと一緒にお茶をする機会も少ないんですから、食べてもいいですよね、胡麻団子のひとつやふたつ!」
 あ、と口をあけた姉妹の前で、団子にかぶりつく。確かに蜂蜜の香りがいつもより強いようだ。
 (ああ、やっぱり甘い物っていい…)
 「おいしーい!」
 「それは良かった」
 冷え冷えとした声に、花は満面の笑みを凍り付かせた。姉妹が花の後ろに向かって朗らかに手を振った。
 「いらっしゃーい、こうきん」
 「どこの帰り?」
 「西から購入した軍馬を点検しに行っておりました。」
 花の後ろからきれいな指が伸び、かじったばかりの団子をつまみ上げる。思わず振り向いた目の前で、公瑾は団子を食べて指先まで舐めた。
 「公瑾さん、それ、わたしの団子ですっ」
 「もうひとつあるでしょう」
 「そうじゃなくて!」
 ずいと顔を近づけられて後ろに下がろうとするが、後ろから腰に手を回されて動けない。まばたきが起こす風さえ分かりそうな距離だ。
 「先程のあなたの言動では、わたしと胡麻団子が秤に掛けられた気がします。」
 「き、気のせいです」
 「遠慮せずに、花。どうぞ、あなたの忌憚のない意見を聞かせて下さい。」
 背後に真っ黒い何かを纏っている気がする恋人に、聞かせられません、と花は内心で叫んだ。しかしそのまま固まっていても、いっこうに彼は離してくれそうにない。
 「…あの」
 「なんです」
 「一緒に、お茶をしましょう」
 かすれた声で言えば、公瑾は瞬きした。それから、実に満足そうに微笑んだ。
 「…お姉ちゃん、公瑾ってばやっぱりへたれだよ」
 「まず自分がお茶に誘えばいいのにね」
 聞こえよがしの囁き声をさらりと流し、公瑾は花の耳に唇を寄せた。
 「今日このときから、わたしは胡麻団子を好物とします。ですからあなたも、気にせずにお食べなさい」
 実に優雅に、乙女心が分かっているようないないようなことを囁かれ、花はますます顔を上げられなくなった。
 
 
 
(2011.4.28)

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