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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 「知らずいく世の」の続編っぽい、公瑾さんと花ちゃんです。
 
 
 


 
 
 
 庭園の東屋で深いため息をついている公瑾を、花は回廊の隅にしゃがみこんで恨めしく見つめた。ため息をつきたいのはこっちだ、と思う。その花の両肩にぶらさがるようにして立っている大喬・小喬の姉妹が、花と公瑾を交互に見た。
 「あれ?」
 「あれです」
 「困っちゃうねえ」
 「困るんですよ」
 公瑾に家人が近づいていく。一言ふたこと話をすると、公瑾は重々しく首を横に振った。
 「ああ、また駄目だったんだ」
 花がどんより呟くと、姉妹は顔を見合わせた。
 「駄目って言うか、公瑾が悪いんでしょ? 花ちゃん、ずばっと言ってあげなよ」
 「…うーん、でも、全面的に公瑾さんが悪いっていう訳じゃないですよね? この子のためなんだから」
 花は自分のお腹をそっと撫でた。先日判明したばかりの、公瑾と花の子が、そこに居る。
 「それでもやりすぎ。条件厳しすぎだもん」
 「そうだよ。公瑾の水準で探したら、公瑾しか残らないよ」
 花は疲れたように笑った。
 「…それもそうですね」
 大喬が、花の背から離れた。
 「こーきん! いい加減にしなよ!」
 彼はゆるりと首を巡らし、三人を見て首を傾げた。
 「いい加減にしろ、とは、あなた方らしくもありませんね。ふだんは花を大事にしろとかいちゃつけとかさんざんなことを言ってくれるというのに。わたしは花を大事にしているだけです」
 「自分がいらいらしてるのを、人に当たっちゃだめ!」
 「だーめ!」
 駆けだしていく姉妹のあとを、慌てて追う。側に立った花を、公瑾がじろりと見上げる。
 「いらいら、とは心外な」
 「…あの、公瑾さん。わたしは、公瑾さんがこの子のためにいろいろ心を砕いてくれるのはとても嬉しいです。」
 公瑾は、姉妹を見てふん、と言うように袖を払った。もう取り合わない、という意志を表すように簡を整理し始める。花は勇気をふるって言った。
 「でも、本当に、もういいですから。」
 「…何故です」
 「子ども用の部屋の新築に子ども用の衣の新調、家庭教師さんに、いまは乳母さんを探し始めたんですよね?」
 花はゆっくり指を折った。
 「いくら何でも、早すぎます。」
 「その子はこの周家の跡取りです。何事も大事にせねばなりません」
 花は、上衣の裾をきつく握った。その仕草に彼女を見上げた公瑾が、ぎょっとしたように目を見張る。
 「どうしたのです? なぜそんな泣きそうな顔をするのです」
 「公瑾さん、わたしと結婚する時は家柄や出自なんて関係ないって言ってたのにどうしていま、そんなに家柄とか出自とか気にして乳母さんや家庭教師さんを選ぶんですか?」
 「その子のためです」
 「違います! 公瑾さんのためでも、わたしのためでもないじゃないですか…!」
 姉妹が顔を見合わせ、べたりと机に貼り付いた。
 「結局ねえ、環境だよね」
 「かんきょーかんきょー」
 公瑾の唇の端が引きつる。
 「公瑾だって伯符がだいっきらいだったじゃない」
 「今更その話は」
 「家柄だけでおっきな顔してるとか」
 「脳天気で大きなことばっか言ってむかつくとか」
 「おふたりとも!」
 「…ねえ、だから」
 「いくらでも仲良くなれるじゃない」
 姉妹はにっこり笑った。
 「焦っちゃだめ。」
 「そうそう」
 「当人が自覚しないと何の意味もないけどね」
 「そうだね」
 「だいたい、父上が公瑾だし!」
 「母上が花ちゃんだよ?」
 「…どういう意味ですか」
 じろりと睨み下ろした公瑾から、姉妹はけらけら笑いながら逃げていく。笑い声が聞こえなくなると、公瑾は息をついて腕組みをした。
 「相変わらず、好き勝手言ってくれる」
 呟くと、花を見る。
 「…焦っていましたよ。確かに。仕方がないでしょう」
 花は、小さく頷いた。その拍子に堪えていた涙が一筋、落ちた。公瑾の袖がそれを静かに拭う。
 「わたしは、わたしにできる用意をしてあなたの不安を取り除きたかったのですが、逆効果だったようです。」
 ぼそりと、ふて腐れた囁きが聞こえた。花はゆるく首を振った。
 「分かってます。ごめんなさい。」
 「花」
 「わたし、確かに不安です。だから公瑾さんが一緒にいてくれないと嫌なんです。困って、不安で、でもそんなこと公瑾さんの顔を見てると大丈夫って思えるから、一緒にいて話して下さい。」
 ゆっくりと公瑾の腕が花の体に回された。困りましたね、とほとんど声になっていない声が耳を掠める。花を抱きしめる手はあやふやで、加減を量りかねているようだ。花は力を抜いて深く彼に寄り添った。
 「わたしはずいぶん夢見心地ですから、あなたの意見も聞かずに先走った真似をしました。そのことについては謝りますが、その子がこの家の跡取りだということを譲るつもりはありませんよ。」
 花は公瑾の襟に唇を寄せて微笑んだ。
 「ぜんぜん心配してないです。だって公瑾さんがお父さんなんだもの、きっと、男の子でも女の子でもとっても格好いい子に育ちますよ」
 「…ああ、そうでしたね。」
 やけに感慨深い声に、花は顔を上げた。公瑾がひどく腑に落ちたような仕草で頷いている。
 「そう言えば、その子は男か女かも分かっていないのでした。これは二種類用意させないと」
 「公瑾さんってば、また!」
 「分かりました、分かりましたからそう怒らないでください」
 公瑾が苦笑して花の手を取った。
 「では、部屋に入りましょう。東屋は風が吹き抜けます。あなたの体に悪い」
 花は公瑾の後ろ姿を見ながら、そっと赤面した。彼が子の心配ばかりするから、自分がどこかへ放り出されてしまったような気がしていた。彼と、自分の子であるのに。花は公瑾に後ろからしがみついた。弾みで彼の体が泳ぐ。彼は踏みとどまると、花の手を撫でた。
 「わたしとしたことが、順番を間違えていました。まずあなたに、子のいる女性のふるまいというものを教える師を捜さねばならないようだ。」
 ひとりで出歩かぬこと。天気に見合う服装をすること。子に良い食事を取ること。それから。
 (そんな先生より、わたしには公瑾さんがいれば何にもいらないなあ)
 とりあえず縮こまる花の上を、公瑾の説教がひらひらと通り過ぎていった。
 
 
 
 
(2010.10.12)

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