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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 公瑾さん×花ちゃんです。
 
 
 


 
 
 
 朝から雨が降る空を、花は恨めしく見上げた。
 今日はお休みの日で、城下に出かけようと思っていた。前より賑やかになりましたよ、と公瑾が語る街を見てみたかったのに、この雨では気後れしてしまう。
 手習いの簡を進めようか。しかしここ数日、遅くまで頑張っていたせいで目がちらくらする。さらに、この世界に残った想いをいくら考えてみたとしても、やはり遊びたい日もある。
 はあ、と息をついて振り返ると、少し薄暗い部屋が目に入った。
 あちらでは気分が塞いだらショッピングや部屋の模様替えとかをしたものだが、こんながっちりした家具がある部屋をどうしようもできない。そこまで思い、花は顔を輝かせた。
 「そうだ」
 寝台に駆け寄り、下から行李を引っ張り出す。ふたを開けると、公瑾が折に触れ寄越した衣がぎっしり詰まっている。
 使い走りの身と思うので、ふだん華美な格好をすることはない。ただ今日はお休みなのだし、少しくらいきれいな衣を着てみてもいいだろう。いちばん下に目当ての衣を見付けると、花は丁寧に取り出した。
 玄徳のもとへ嫁いだ尚香が残していったものだ。あまり生家らしい趣味のものばかり持って行っても障りになりますからと、少しだけ寂しそうに笑った彼女が愛おしくて、花はふたつ返事で引き受けた。
 だがしかし、実際に部屋で体に当ててみると、それはまさに尚香のために作られたものだった。当たり前だ、彼女は呉の姫なのだから、「着回し」などという自分の物差しで測ってはいけなかったのだ。金色の髪やあのぱっちりした瞳、どこか幼い元気良さを引き立てるべく作られた衣は、悲しいほど自分に似合わない気がした。それきり、仕舞われていた衣だ。
 花はおそるおそる羽織った。
 何度着ても、羽のように軽く気持ちのいい生地だ。公瑾もずいぶん仕立てのいいものをくれるけれど、それとはまた違う心地よさがある。まだ少し尚香のかおりが残っているようで、花は袂をそっと抱きしめた。
 あちらは呉ほど派手ではない。しかし彼女らしい率直さを玄徳は愛し、危なっかしいところも受け止めてくれるだろう。そう考えると少し尚香が羨ましかった。自分も、公瑾という想い人がいるけれど、玄徳軍の居心地はまた別に恋しい。そこまで思って、花は首を傾げた。
 どうして公瑾は、何度も何度も玄徳を目の敵にするのだろう。そのたびに、自分には公瑾しかいないと言うのに。
 師匠はなんとなく分かる、と花は考え込んだ。天下の伏龍先生の笑顔は時としてとてつもなくうさんくさい。頭が切れるもの同士、きっと本能的に嫌いなのだ。 
 その時、軽く扉が叩かれた。花、と、いま想っていたひとの声が外から聞こえる。
 「はい、どうぞ」
 「失礼します。…おや」
 公瑾は入り口で足を止め、花をしげしげと見た。くすりと笑う。
 「似合いませんね」
 「ひっどーい! どうせわたしは尚香さんみたいに胸も華も無いですけど」
 「それがなくて悪いと言っているわけではないでしょう」
 公瑾はなおも笑いながら花に近づき、髪を撫でた。
 「尚香様はその衣をずいぶんお気に召しておいでになった。あなたが大切にしてくれていると知れば、嬉しくお思いでしょう」
 花は自分を見下ろした。そうしてそっとその衣を脱いだ。公瑾が怪訝な顔をする。
 「どうしたのです?」
 花は手触りのいい衣を撫でながら、公瑾を見上げた。
 「駄目ですね」
 「は?」
 「これは尚香さんの思い出のかたちですもん。わたしが着ても似合わないのは当たり前なんです、きっと。わたしは公瑾さんから貰った衣がたくさんあるから、それだけで」
 言い終わる前に、花はきつく抱きしめられた。そうですよ、と掠れた声が聞こえた。
 「あなたは呉の色でなくて良い。…わたしだけ持っていなさい」
 花は、彼の声に非常な安堵を聞き取って微笑んだ。
 「尚香さん、大事にしてもらってますよね?」
 気軽な調子で続けた言葉は、しかし今度は忌々しげなため息に遮られた。
 「尚香さまの嫁ぎ先は、あなたがたいそうご信頼の殿方でしょうに。」
 「またそう言うこと…」
 「言わせるのはあなたです」
 不機嫌に言われ、花は黙った。そろそろと背伸びをして公瑾の耳に囁く。
 「じゃあ、公瑾さん。緋桃の色でわたしの衣を仕立てて贈ってくれますか?」
 彼ならば分かるだろう、その色が何を表しているのか。案の定、沈黙は非常に長かった。
 「…あなたもずいぶんと策士になりましたね?」
 ややあって機嫌を直したらしい、仕方ないと言いたげな恋人の声に花はそっと笑った。
 
 
 (2010.8.20)

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