二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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孟徳さんと花ちゃんですが、孟徳さんと文若さんしかおりません~。(七夕ではないですっ)
孟徳の机の前に、また簡が落ちた。文若は眉根を寄せた。
「丞相」
「んー?」
「上の方から採決なさってください。」
「んー。」
「丞相!」
孟徳が、見るからにやる気のない表情を文若に向けた。彼は咳払いした。
「奥方の具合がお悪いからといって、夫たる丞相までこのような有様では、かえって心配なさいますでしょう」
「そうなんだけどさあ。そうじゃないんだよ」
孟徳が筆を投げ出すように置き、頬杖をついた。
「今回は風邪だった。」
「…はあ」
「もし子ができたら、あんなものじゃ済まないのかと考えた」
文若は瞬きした。
孟徳の表情はひどく憂鬱で、文若は咄嗟に口に出しかけた小言を引っ込め、咳払いした。
「お子を作るも作らぬも、おふたりのお心次第でありましょう。丞相は奥方とのお子をお望みですか」
孟徳が、頬杖の支点を右手から左手にかえた。
「どうしても、って訳じゃないな。俺には前の奥さんたちとのあいだにもう子もいるし。花ちゃんとだったら、女の子なら欲しい。まあ男の子でも女の子でも花ちゃんの子なら可愛いと思う。」
だらり、と孟徳の顔が一瞬にやけたが、すぐまた憂鬱そうな顔に戻る。
「でも、子どもができたら、花ちゃんは間違いなくそっちにかかりきりになるだろうし、そうなると面白くない」
「丞相のご息女であれば、嫁ぎ先とて引く手あまたでありましょうし」
孟徳はうっそりとした目で文若を睨みつけてきた。
「考えないようにしてきたことを、お前はすぐ言うね」
「別に想像力が豊かでなくても考えられることですので」
「それがさ、花ちゃんはなんて言ったと思う?! 文若さんみたいなご主人さまなら安心ですね、だって! 信じられるか? 目が開いてないのか開いてるのかわからない陰気で女の子の気持ちなんかまるで分からない男が俺の娘の婿だぞ?」
「丞相、お忘れかもしれませんので一応申し上げておきますが、いまあなたの目の前に立っているのはその当人です」
「分かってるから言ってるんだ」
「さらに申し上げれば、丞相と花の間にはまだお子がおいでになりません」
「想像でも腹が立つんだ!」
机を拳で叩いた孟徳を、文若はことさらに冷ややかな目で見た。
「そうですね、丞相のお子がそのような年齢になられる頃には、わたしはいくつになっていることか」
「そうだ、年の差がある!」
「丞相、ご自分と奥方のことをお考え下さい」
「俺は見た目が若いからいい」
「…そういう問題でもないでしょう」
「いーや、大事だ。花ちゃんはまだ俺が何歳かってちゃんと知らないからな」
文若はいっそう眼を細めた。
「この間、奥方がたいそう心細そうに、丞相がお若くみえるのは若いきれいな女子とたくさん付き合ってこられたからでしょうか、男のひとってそういうものですかと言っておられましたが」
「…なんて答えた」
「日々繁多でございますので、失念いたしました」
孟徳は目を眇めた。
「本当に忘れたらしいな」
「覚えておいたほうがようございましたか」
「そんな心配はもういらないのになあ」
にやけた孟徳は、もうすでに文若の言葉など聞いていない。それを分かっていて、文若は咳払いした。
「ついでに申し上げれば、奥方は、妻がひとりになったら丞相の体調は悪くなったりしないものかとご心配でした」
実にばかばかしいと思いつつ付け足した言葉に、孟徳は椅子を鳴らして立ち上がった。
「なんて答えた!」
「失念いたしました」
「そういうことは忘れるな!」
駆け出そうとする孟徳の前に、すかさず躰を滑り込ませる。
「ただいま、奥方は床についておられます」
「…だから何だ」
「奥方が回復されるまで執務にお励み下されば、一日、誰にも邪魔はさせない日を設けましょう」
孟徳は一瞬、呆気にとられたようだった。すぐに体勢を立て直し睨んでくる。
「なんでそんなこと言い出すんだ?」
「…たまにはよろしいでしょう」
ふうん、と意味深に呟いた孟徳は、にこりと笑った。
「よし、忘れるなよ」
礼をする文若の前で身を返し、孟徳は、先程までの様子が嘘のように簡を捌き始めた。文若は静かに静かに息をついた。
おととい、花と回廊で会った。部屋に飾る花を摘みに、と相変わらずの長閑さで言う彼女に淡々と説教した時、どことなく彼女の顔色が悪いように思った。それも、花が言い出した、実に素っ頓狂なあの質問で忘れてしまった。でもでも、ぜったいゆずらないですけど!と、紅い顔で宣言されたことは聞かれていないので教えずともよかろう。
しかし花はやはり体調を崩していた。自分が悪いように思ってしまうではないか、と文若はいささかの不機嫌をもって、執務する孟徳を見据えた。
…まあ偶には。本当に偶には、いいだろう。
文若は、簡を持ってやってきた官と入れ替わりに部屋を出た。またあとで見に来なければなるまい。花が、せめて今日明日くらいで治ればいいと祈るような気持ちがいつの間にかあることに気づいて、彼は微苦笑を浮かべた。
(2011.7.7)
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