二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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夏なので、ちょっとはそれっぽい話をと思ったのですが、怖くなりませんです…
孟徳さん×花ちゃんですが、魏さんちオールキャラっぽいです。
ちょっと長くてごめんなさい。
孟徳さん×花ちゃんですが、魏さんちオールキャラっぽいです。
ちょっと長くてごめんなさい。
午後の執務室では、珍しく孟徳が真面目に働いている。
今日は今まで一度も逃げだそうとしない。たいがい今ぐらいの時刻になると、花ちゃんが足りないなどと寝言を言って逃げ出すのだが、と元譲は遠い目をした。
そのとき急に孟徳が厳しい表情で顔を上げ、元譲は身構えた。
「どうした」
「花ちゃん!」
恐ろしい形相で叫ぶと、簡が山と積まれた机の上に片手をついて飛び越え、執務室を走り抜ける。せっかく仕分けした簡の山が、衣の裾にひっかかって騒々しく崩れ落ちた。
「孟徳!? いったいなんだ!」
「花ちゃんの悲鳴が聞こえた!」
声だけを残し、孟徳の姿はもう執務室に居ない。
「…いい加減にしろっ」
吐き捨てると元譲は部屋を出た。紅い衣が回廊の角を曲がっていくのを、必死で追う。やっと追いついてみれば、今度は背を向けて立ち去りたい衝動にかられる。
孟徳が、書庫の前で仁王立ちしている。おそるおそるその向こうを見ると、回廊に座り込んだ花が若い官吏に抱きかかえられて泣いていた。
「花ちゃん」
この上なく優しく呼びかける声に、背筋が凍る。花はぱっと顔を上げ、孟徳を見て泣き顔をより歪めた。
「孟徳さん!」
官の腕を振り払い、孟徳に飛びつく。
「どうしたの? 誰かに何かされたの? それってそこに居る彼に、かな?」
どんどん低く優しくなる声に、官吏の顔が蒼白になっていく。
「ち、違います」
しゃくりあげながら花が孟徳を見上げる。孟徳は、花の髪を撫でながら微笑んだ。
「じゃあどうしたの?」
「手が見えたんですっ」
孟徳は今までの緊迫感をさらりと消した。花の頬に残る涙を袖で拭う。その時、靴音も高く文若がやってきた。元譲に目礼し、眉間のしわを深める。
「何の騒ぎですか」
「文若さん」
花が孟徳の腕の中で振り返ろうとしたが、それを無理矢理自分の胸の中に収めて孟徳は花の髪に頬ずりした。
「丞相。何事ですか」
「花ちゃんが『手』を見たんだってさ」
文若が長々と息をつく。まだ蒼白になっている若い官に戻るように指図し、文若は開けっ放しになっていた書庫の扉を閉めた。
「花」
「は、はい」
「『手』など恐ろしいものではない。むしろ、喜びなさい。お前が働ける存在として認められたという証だ。」
花は、きょとんと文若を見つめた。
花を落ち着かせることが先だと孟徳が言い張ったために、花は庭園の東屋で茶を前にしていた。さんざん抵抗した文若も孟徳に言い伏せられ付き合わされている。
「怖い思いをしちゃったね?」
孟徳は花の肩を抱き寄せ、髪を撫でている。花は小さく頷き、拗ねたように文若を見た。
「どうして教えてくれなかったんですか、文若さん」
いつもより不機嫌そうに茶を飲んでいた文若が、杯を置いた。
「それよりも花、なぜあれが怖いのだ。さしずめ、お前が探せなかった簡を探してくれたのだろう?」
「そうです! 誰かが動かしたあと戻さなかったらしくて、わたし、それはいちばん後に探そうと思ったんです。他の物を全部探し終えて振り向いたら!」
花がまた涙目になる。孟徳が文若を見据えた。
「花ちゃんを怖がらせるな」
「ですから、怖いものではないと申し上げております。…花、それで、向こう側が透ける手だけが簡を机に置いていたのだろう」
「はい!」
花が孟徳の袖をぎゅうぎゅうに掴んで頷いた。その仕草に、孟徳が笑み崩れる。
「あれは、書庫に慣れない仕官したばかりの者の前にのみ現れる。わたしもずいぶん昔に見た」
「俺はないけどね?」
「丞相は書庫などに出入りなさらぬでしょう」
きっぱりと言い、文若は眉間のしわを深くした。
「その様子だと礼はまだ述べていないだろう。きちんと言ってこい」
「えええ? また行くんですか? そう言う文若さんがついてきてくれるんですよねっ」
「花ちゃん、俺が行くよー心配しないで」
「それはもちろんです。孟徳さんが付いてきてくれなくちゃ嫌です」
真剣に訴える花に孟徳は、彼女の髪を撫でながらせいぜい頼もしそうに見える笑みをむけた。文若が小さく息をつく。
「…丞相、くれぐれも手をお斬りにならぬよう」
「花ちゃんを怖がらせたから、駄目。極刑に値する」
爽やかに孟徳が言い、文若はため息をついた。
「彼は悪さをしているわけではありません」
「花ちゃんを怖がらせたのは何より悪い。」
「も、孟徳さん」
花が孟徳の肩に縋るように顔を近づけた。途端に孟徳が笑顔になって花の頬を撫でる。
「もう大丈夫だからね?」
「駄目です、駄目。文若さんの言う通りなら、わたしはきちんとお礼を言わなきゃいけません」
「無論だ。代々そうしている」
「あの、もとはどなたなんでしょう」
「花ちゃん、俺以外の男に興味もたないでよ~」
孟徳が情けない声をあげて花に縋り付いた。花が慌てて孟徳の髪を撫でる。
「これは違いますよ孟徳さん」
「花。あれが誰かは誰も知らぬのだ。いつから居るのかも分からぬ。ここに都を構えたからもう出ないと思ったのだが、付いてきたらしい」
その言葉に、花が考え込んだ。
「じゃあ…あそこに保管されている簡に何か思い入れがあるんでしょうか」
「花ちゃん。あんまり興味持たないほうがいいと思うけどな」
孟徳が言い聞かせる口調になった。花は不審そうに彼を見上げた。
「どうしてですか? 何かあるなら聞いてあげたほうがいいんじゃないですか」
「花ちゃんは優しいね。でも、あの『手』は俺たちとは違うものだよ。血もなければ肉もない。あんまり興味を持っちゃうと、連れて行かれる」
「連れて行かれる、って…」
何を想像したのか、青ざめる花の肩をよしよしというように撫で、孟徳はその額に口づけた。途端に花の顔色が戻る。
「うふふ、かっわいい。…あのね、具体的にどうこうなる、っていうのは分からないけど、手立てもなにも分からないものに拘泥して今の時間を無駄にするほうがもったいないでしょ。連れて行かれる、っていうのは、そういう意味。」
花は孟徳を見つめていたが、ふふ、と笑った。
「孟徳さんらしいです」
「ありがと~」
この時間は無駄ではないのでしょうか、それを聞くな、というひそひそ話を流して、孟徳は笑顔で立ち上がった。
「じゃ、書庫に行こうか、花ちゃん」
「はい。じゃあ、文若さんも」
「ええー俺が行くんだからいいじゃない」
「だって孟徳さんは書庫に入ったことがないんでしょう?」
「…わたしは忙しい」
「文若! 花ちゃんの誘いを断るなんて何様だまあいいけど」
「どちらですか!」
彼にも似合わず、放り出すように置かれた茶器から茶の滴が飛びちった。
孟徳が勢いよく書庫の扉を開けた。ずらりと並ぶ棚が少し揺れたような気がする。
「はーい、花ちゃんを怖がらせた『手』はどこかなー? どーこーかーなー」
「丞相! 扉は静かにお開け下さい」
「そういう聞き方では出てくるまい…」
「あの、『手』さん!」
花が必死な顔で呼びかける。その背をくるむように抱いて、孟徳は素早く左右に目を走らせた。元譲も油断なく見回している。
すると、前方の書架の間に、ふわりと両手が見えた。大人しい娘が控えるように、両手を重ねている。花が息を引きつらせて体を強ばらせる。
「あ、あの、手さん。…ごめんなさい、お名前が分からないのでこう呼びますね。」
手は、かまわない、というようにひらりと振られた。花は少し笑みを浮かべた。孟徳を振り返り、小さく頷く。これ以上心配そうな顔もない、というほど頼りない表情を浮かべた孟徳の頬に口づける。
向き直った花は、今度はしっかりと『手』を見た。
よく見ると指の長い、きれいな手だと思う。男の人にしては繊細だ。
「あの、ありがとうございました!」
『手』が、花の言う「ばいばい」をするように振られる。そして、ふいと見えなくなった。
花の体から力が抜けた。孟徳に縋るようにへたりこんだ彼女を抱き上げると、孟徳は文若と元譲を当分に見た。
「じゃ、俺は花ちゃんを落ち着かせてくるから」
「あ、ああ」
「元譲どの! 何を普通に応答しておられるのですか! 丞相、まだ政務が…丞相!」
「諦めろ文若」
「元譲どのは甘過ぎます!」
「…花に甘いと思ってくれ」
「なお悪いでしょう!」
言い切ってむっつりと黙った文若を、元譲は気の毒そうに見た。
…深夜。
書庫の鍵がなめらかに外される。隙間に大剣が差し込まれ、扉が空いた。体を滑り込ませた影は、ひとつ息をついて立ち上がった。
「居るか。」
小声ながらも通る声が書庫に響く。白い手は彼のすぐ前に現れた。孟徳は呆れたように微笑んだ。
「お前は、あちらの都に執着すると思っていたんだがな。」
手は畏まったように動かない。彼は表情を改めた。
「お前が俺の言うことを聞くなら、端からお前はここにいないだろう。だから命じない。せめて、花ちゃんの前に出るな」
どこかで誰かが笑ったような気配がした。白い手は徐々に霞んで、消えた。孟徳は息をついて身を返した。
外に出ると文若が立っていた。彼に鍵を放り、孟徳は剣を仕舞った。文若を少し睨むと、彼は笑んだ。
「甘やかしておられる」
「ないない、全然ない。文若、俺は断じて健気だなんて思わないぞ。」
「わたしも思っておりません」
孟徳は息を吐いた。拳を握る。
「花ちゃんが、次に会ったらどういうふうにお礼を言ったらいいかって心配しちゃって大変なんだよ。俺以外の男のことなんか考えて欲しくないんだ!」
文若は無言を押し通した。孟徳は頭を緩く振った。
「だいたい、あんなふうに出て来るのがいたら、俺なんか眠れるか」
「…みな、同じです。だから手を許していたのです」
花に語ったのは本当だ。何も伝わっていない。恨みだと言うには彼は控えめすぎ、書庫が好きだったのだというには素っ気なさ過ぎる。ただ手だけを貸す男。
孟徳は肩をそびやかした。
「とにかく、お前の言う通りに斬らなかったからな。二度目はないぞ。」
常ならば気にも懸けぬこの世ならぬものを、花のために真剣に相対するあるじに、文若は何も言わずにただ眉間の皺を増やした。
「手」は、それ以後も書庫に出た。ただし、花の前には二度と現れなかった。
花はそれを少し寂しく思っているが、口に出すと孟徳が怖い笑顔になるので止めている。
(2010.7.26)
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