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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花孟徳』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 
 
 
 『花孟徳』は、最初に落ちた場所が孟徳さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
 
 
 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
 
 
 花孟徳と妓女さんです。
 そういうつもりで書いてはいませんが、少しでも百合っぽいのが苦手な方は決して決して閲覧なさらないようにお願い申し上げます。
 
 



 
 
 
 見付けた、と笑ったのは、むしろ幼い顔立ちの娘だった。
 
 
 「…なにを笑ってるの?」
 自分の浮かべた笑みをめざとく見付け、向かいに座った娘が聞いた。女は琵琶を弾く手を止め、紅の唇を綻ばせる。
 「まあ、眠っていたのではなくて?」
 「勿体ないもの」
 灯りを消した部屋でも、その緋色の衣は沈まずに見えた。かすかな月に、白い顔があどけなくともる。どこからか琴が漏れ聞こえる。
 「あなたがはじめてわたしを尋ねて来た日のこと。」
 「ああ」
 くすくすと覇王が笑う。娘の姿をした、この世の権力。血の匂いがしながら、まるで透明な娘。
 「あなた、すごく驚いてた」
 「だって、かわいい子に、ずっとさがしていたんだよなんて言われるんですもの。どうしてさがしていたのと聞いたら、だって出会わなきゃいけないんだよって駄々をこねるみたいに」
 女は艶に笑った。
 「本当のことだもの」
 ふいと口を尖らして娘が言う。
 「あなたには絶対、会いたかった。」
 「ありがとう」
 「ほんとだもん」
 「しっているわ」
 「うん、ありがとう」
 「だからおしえてくれたのよね――花ちゃん」
 そう呼ぶと、蕩けそうに哀しそうに笑う。もう出会ってからずいぶん経つのに、「娘」のままであるような彼女。
 それでも本当はここへ来るのも相当辛いはずだ。病が身を蝕んで、彼女はこの半年でずいぶん痩せた。彼女の側近が、どうかあなたからも止めてくださいとわざわざ言いに来たのだ。本当なら絶対に近寄りたくないだろう自分の店にやってきて、生真面目な顔をした高官は、あの体で出兵するのは自殺行為だと口説いた。
 女は、首を振った。あの子がほんとうに望んでいることなら、わたしがとめられないわ。
 そう言った時、男の顔に絶望が広がったのをよく覚えている。
 
 
 (あのね、秘密なの。)
 (なあに?)
 (ふたりきりの時は、名前を呼んでもらっていい?)
 (そういうものは殿方に取っておくものよ。)
 (いいの。わたしは好きな人以外の男にはこの名を呼ばれたくないの。でも忘れたくないの…ね?)
 
 
 まるで、南の真珠。ひと針つつけば零れてしまいそうな何かを抱えているのに、決して破れない珠。
 まるで、北の狼。限りなく遠く仲間を呼びながら、ひとりで雪原を彷徨う。
 
 
 女は、また琵琶を弾き始めた。今度は南の恋の歌だ。
 「ね、次もまた、慰めてね」
 曲の合間に、何気なく彼女は言った。
 「よくってよ」
 「嬉しい」
 手を打ち合わせて彼女は笑う。
 いつも彼女はそう言う。次も、次も。約束、約束ね、とねだる。いつしか彼女の言う「次」は自分と違うものとどこかで知ったけれど、聞かない。彼女が一瞬でも嬉しいなら、それだけでいい。彼女の目から寂しい色がその時だけ消える。
 最初に見た時、なんて飢えた目をしているのだろうと思った。
 女の身で有り余る富を引き継ぎ、悪評も武勇も纏う衣の色に焼き尽くして立つその名に似合わない目。
 そうして、権力の頂点に上り詰めた彼女の跡を継ぐものは居ない。何も残さずに彼女は消えたいのだ。ならばなぜ、彼女はその座に登ったのだろう。どうしてあんな飢えた目をするのだろう。
 
 
 あなたは特別と、彼女はよく言う。
 誰にとってのとくべつなのかしら、と女は思う。
 
 
 「花ちゃん。次に来たらなにをききたい?」
 尋ねると彼女は静かに梁父吟と言った。
 ああ、彼女はもうここに戻らない。それでも女は微笑んで頷く。
 「いいわ。つぎね」
 「うん、約束。」
 こけた頬に彼女は笑みを刻む。ここに居るのはもう彼女ではない。その衣さえ脱ぎ捨てて遠くへ行ってしまった残りの影だ。
 「待っているわ」
 やさしい言葉ばかり望んで、甘い曲ばかりねだって、美しい姿の名で呼ばせておいて。
 まっているわ、ともういちど言えば、彼女は静かに頷いた。
 
 
(2010.11.15編集)

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