二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花孟徳』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
『花孟徳』は、最初に落ちた場所が孟徳さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。 雑駁設定なのは のえる の所為です。
何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
(流れは、幻灯 8→11→13→16→21となります。なお、特に どろり としています。ご注意ください。)
公瑾が植え込みをかきわけその場に姿を見せると、孟徳が明るい笑い声をあげた。
「ご覧なさい蜀の丞相殿。わたしの勝ちね」
杯を持ったまま仏頂面をこちらに向けた文若は、何も言わなかった。かがり火に、孔明が揺らした羽扇が残像のように煌めいた。
公瑾はゆっくりと礼を取った。
「宴のお招きを頂戴したと存じましたが」
「ええ。あなたは来ないと思ったの。」
うす緑の杯を掲げ、彼女は首を傾けた。真珠をつらねた髪飾りが薄茶の髪を滑り、わざとほつれさせたのか髪が一筋白い項に零れた。
彼女はおよそ、宮城ではあり得ない着方をしていた。とても裾の長い鴇色の上着の襟元や裾から、重ねた白い衣がのぞいている。柔らかそうな白衣の縁にはたっぷりとひだが取ってあり、それが彼女のうなじや手首を華奢に見せていた。幅広の帯は躰の前で胸高に締められている。そのうえ、あろうことか彼女は裸足で、紅が塗られたつま先が裾から見える。
座ればちょうど回廊からの視線を遮る、ぽっかりとした場所だ。大ぶりの白い花がたわわに咲いた大木が、まるであるじのように空を遮る。かがり火は四人からほどよい距離で焚かれ、そのぼんやりした灯りのせいで、花びらは天から落ちる途中を止められたもののように見えた。
侍女の姿はまるで見えない。それぞれ手酌らしいのがまた変わっている。
公瑾は礼儀正しく苦笑した。
「丞相のお心にかなわぬならば、退出いたしましょうか」
軽い笑い声をあげただけで、孟徳は何も言わなかった。公瑾も言葉を重ねず、その場に座った。彼女のつま先がよく見えた。柔らかそうな白い足だ。
よく磨いた杯に上等な酒をとろりと注ぐ。
「あなたの琵琶が聞きたい。あなたはいつも奥ゆかしく遠くで奏でるばかり」
まるで邪気なく言われ、公瑾はひっそりと袖で口元を覆った。昼間の彼女と変わらないのは、どこか遠くから見る視線だけだ。
「お耳汚しでございました」
「嘘はきらいよ、都督」
急に切り込まれる。孔明が微笑んだのが横目で分かった。
「はて、嘘とは」
「あんな艶やかに弾いておいて。その笑顔と同じね、嘘ばっかり」
「こちらこそ。」
「なあに?」
杯をあおったその喉が艶めかしく白い。眼差しで促され、公瑾は目を伏せた。
「丞相は可愛らしい女子や見目麗しき年若な男子を特にお好みと伺いました。わたしはいささか薹がたっております。」
くく、と孔明が喉を鳴らし視線を孟徳に向けた。
「本当に、丞相の侍女には可愛らしい者が多い。それに、都のことばとは申せ、聞き覚えのある訛りが多うございますが」
「故郷の可愛い歌や他愛ない話をしてくれるの。だから好き。」
「攻めるべき道や押さえるべき峠も、ですか」
孟徳は酔った様子で含み笑いをした。
「気になるなら連れてお行きなさいな。錦を付けて送り出してあげるわ。玄徳の好きな可愛い娘は居て?」
「お心遣い、痛み入ります。けれども」
「わたしに仕えた娘では玄徳が嫌と言う」
くすくす笑って言う孟徳に孔明もうっすらと苦笑した。
「ご賢察」
「あら、誤魔化してもくれないの。わたしは彼に嫌われる星回りね」
「星回りを信じておいでですか」
公瑾がふいと言うと、孟徳は一瞬、鋭く彼を見てすぐに蕩けるような目をした。孟徳は杯を星にかざした。
「あのひとつひとつが人だなんて最初に思ったのは、寂しかったのね。ひとりで寂しくて、あれがみんな仲間と思いたかったのね。可愛い理由だとは思わない?」
「丞相こそ、お可愛らしいそのお言葉。」
孔明が軽く揶揄するように言った。公瑾は苛立ちを覚えた。
「丞相には、その者がすべて掴みたかったとはお考えにならぬのですか」
「都督はそう思っているのね」
呟かれて公瑾はゆっくり琵琶を持ち上げた。そんなことを言っているからわたしに負けるのだ。
「わたしは都督です。いくさの流れを読み切りたいと思うのは当然でしょう」
「ひとの心も?」
その言葉は、公瑾の癒えぬ傷を強く押した。――己に夢を見せた相手を、折れぬ己が殺した。慣れた、しかし鋭い痛みに彼は眉を寄せた。
(星なんか、俺を映すもんか。いいや、映してたまるか)
失ったままのわたしの魂と、この女はなぜ同じことを言う。
そして私はどうして、彼とこの女を重ねるのだ。星を信じないものなどいくらでもいるのに。
ああ、未練だ。月を隠すと知りながら漂う雲だ。
公瑾は深々と礼をした。
「では、一曲献じましょう」
紅い唇が微笑む。奏で始めながら、公瑾もゆるく笑った。獲物を定めた獣のよう、とはどちらのことかと思いながら彼はただ音に没入していった。
孔明が思わせぶりにため息を吐いたのが、文若はひどく気に障った。孔明は羽扇の影で文若に顔を寄せた。
「どうも、花を愛でているのは我らばかりですね」
文若はむっつりと杯を空けた。彼用に薄めた酒でも目の前は薄布を掛けたように朧に歪む。そこで孟徳は満足そうに公瑾の琵琶を聞いている。ひどく甘い、媚びた音色だ。
「魏に良き星読みはおられぬのですか」
孔明の問いに文若は瞬きした。
「丞相は星読みを好みません」
「そのようですね。稀代の方は星をも欺くのでしょうか」
「蜀の丞相殿。あなたの物言いとは理解しているが、我があるじを貶めるような言は好かぬ」
「貶めているなど、心外です。ならばこう言いましょうか…あの白い指が星を描くのか、と」
文若は孔明の羽扇につられて空を見た。
――では、あなたの心も星に映るか。それとも星も欺くか。
埒もないと文若は唇を歪めた。わたしの心を既に虜にしているものをどうして欺くなどと言えよう。すべては遅い。それがあの都督には分かっておらぬのだ。
あれほどの恨みを浮かべた瞳であるじを見、未練そのものの足取りで閨のまわりを回るくせに。それともあるじがしびれを切らしてこのような場を設けるのを待っていたか。文若はあるじの横顔に視線を戻した。彼女は軽く目を閉じている。
彼のようにすべてに有能であったなら、あなたはわたしだけを見て下さるのかと、おのれに似合わぬ思いさえ浮かばせるその横顔。
文若は酒をあおった。これほど不味いものもないと、改めて思った。
(2011.5.3)
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