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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
    この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花孟徳』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
    掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
   
    『花孟徳』は、最初に落ちた場所が孟徳さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。 雑駁設定なのは のえる の所為です。
    
    何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
      
    (流れは、幻灯 8→11→13→16→21→23→24→25→26となります。)

 
 
 
 鍛錬場に姿を見せた孟徳に、兵たちがどよめいた。ここに居るのはある程度位の高い者たちで、孟徳を近くで見ることも多い。だが、広大な演習場での閲兵ならばともかく、ここのような小さい鍛錬場で見かけることは無かった。
 「どうした、孟徳」
 走り寄ってきた元譲に笑みを向ける。
 「息抜き」
 またか、と思いため息をつくと、孟徳は意に介さずぐるりと場を見回した。跪いている兵たちを見て微笑む。
 「続けなさい」
 声はよく通った。その途端、兵たちはぎくしゃくと鍛錬を再開した。ひとりが持って来た床几に腰掛け、彼女は剣を膝の上に置いた。
 「ねえ元譲。今度、三国で合同演習とかしたらどうかなあ。」
 元譲は苦り切った表情のまま、彼女の斜め後ろに立って小さな頭を見下ろした。
 「…お前はいつも突飛だな。確かに最初はみな大規模な軍を率いて来ていたが、近頃は最小限だぞ。」
 「だからこそいいと思うんだ。」
 「しかしな…」
 「なにが反対なのかな、元譲は」
 ちらり、とからかうように視線が流れた。元譲は咳払いして声を潜めた。
 「反対というか、懸念だな。確かに最初の頃ほどみな、角突き合わせてはいない。お前の提案した、三国にそれぞれの国の出先機関を作るという話しも軌道に乗ってきた。」
 「民は太平を信じ始めてる。だからいま、それを強固なものにしてやろうと思うんだけど」
 「…帝の兵であるという証、か」
 「ああ」
 孟徳が笑う。
 「それに、帝は己の身近で誰かが血を流していることをご覧になりすぎた。それがあの方の慎重さを形作った。無論、それはよいところだけれど、それが長じて臆病ではいけない。己の力を実際にご覧になることも必要だ」
 「まるで、母のような物言いだな」
 「はは、恐れ多い」
 孟徳は眼を細めた。
 「虎の若仔が帰る前にしたいなあ。文若に言わなきゃ」
 「思いつきばかり言いおって。」
 「軍に関することだからね、ちょっと難航するかもね。でも帝のこれからを考えれば大事だと思うんだけど」
 元譲は長く息を吐いた。
 「確かに兵権は帝にお返ししたものだが、実際、兵に号令をかけるのはお前のような者だからな」
 「そうそう。きっと文若はそこをずっと考え続けてる。だから大丈夫だ」
 女の顔は明るかった。もうその頭の中では演習風景が繰り広げられているのだろうと、元譲は思った。元譲はゆっくりと、先日からの懸念を口に出すか出すまいか迷って、結局、口にした。
 「孟徳。お前が呉の都督と真剣で立ち合うという噂が流れている」
 「うわ、早いなあ」
 「…本当か!」
 元譲がかみつかんばかりに怒鳴ると、兵達が鍛錬の手を止めてふたりを見た。孟徳がひら、と手を振ると兵達は元の姿に戻った。しかし耳はこちらを伺っているだろう。元譲が咳払いをすると、孟徳はひどく軽蔑したような眼差しで彼を見た。
 「元譲、ばか?」
 声に出して言われた。
 「うるさい」
 「彼はわざとそういうことを言うんだ。嫌なやつだよね」
 「楽しそうだな…いつにもまして」
 「楽しいさ」
 孟徳がゆっくり立ち上がった。その目尻にふと、疲れたような陰がさしているように思い、元譲は胸をつかれた。あの「呪い」からずいぶん経っていても、この女はいつもおそろしく若いと思っていた。それでも、老いてはいるのだ。おのれが、昔のように矛を振るえぬように思う時があるのと同じように。
 「お前は…文若のことも考えろ」
 さすがに小声で元譲は言った。孟徳がゆらりと小首を傾げた。
 「明日は雨かな? 元譲がそんな心配をしている」
 「あいつは意外にまわりが見えない」
 「そんなこと知ってる。…少なくてもお前よりはね」
 少女のように笑った孟徳の目が、剣呑な光を帯びて細められた。
 「ああ」
 本当に嬉しそうに、熱っぽく嘆息した孟徳に、元譲は、背後を振り返りたくないと切実に思った。しかし、兵達がざわめきだし、ついに手が止まっている。元譲は戦場のような注意を払って振り向いた。その横目に孟徳が唇を動かしたのが見える。しにがみ、と言ったように思えた。
 鎧こそ着けておらぬが、その身に武を色濃く纏う三国一の見目よい男が、まるで舞踏のようにゆったりと歩を進めてくる。品良く簡素、しかし豪奢なうす藍の衣が手招くように揺れ、その腰の大剣に絡みつく。
 公瑾はふたりの前まで来ると笑みをそのままに、美しい礼をとった。

 
 
 
 
 (続。)
 (2011.8.21)

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