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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
     この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花孟徳』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
     掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
    
     『花孟徳』は、最初に落ちた場所が孟徳さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。 雑駁設定なのは のえる の所為です。
     
     何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
       
     (流れは、幻灯 8→11→13→16→21→23→24→25→26→28となります。)

 


 彼はいちばんわたしに近い。
 絶望に淀む心、希望を欲する力。
 彼はわたしにいちばん近い。
 希望を見る力、絶望を生む心。

 

 文若は考えている。
 考える、というのは彼の仕事であるので、ふだんは「考えている」事など意識しない。手が簡を書き、頭は次の会議について考えていることなど、しょっちゅうだ。
 しかしいまは、考えてみている。
 ひとは、孟徳が己を寵愛しているという。寵愛とは何であるかについて、文若は常々考える。
 目に見えるもののひとつは、それによって生じる利益だ。文若の係累はそれなりに居る。だがそのどれもが、己の才覚によってのみ頭角を出し、また滅んでいる。無駄に足掻くものは未だ権力の後ろ姿も見ていないものばかりだ。よって、これは無い。
 もうひとつは、それによって生じる己の満足。これに関しては大いに疑問がある。
 寵愛を得ようと思い近づいたなら満足を覚えることはあるやも知れぬ。しかしこの自分が、誰かの寵を利用してやろうなどと考えたことはない。よって、自分は寵愛を受けていないのではないか。
 あの年上のおいにでも言ったら、ひどく気の毒なものを見る目をされることが分かっているので言いはしない。だいたい、こういうことを「考えている」のが不快なのだ。
 …不快なら、逃れればいいのだ。
 それでもあの体が他に渡ると考えると昼など無くなればいいと思う。
 寵愛を受けたものによって政道が歪むなどあってはならない。しかし孟徳は誰をひいきしない。せいぜい、可愛らしい侍女ばかり集める程度だ。彼女は頑としてそういうものを拒んできた。つまらないよ、とさえ言った。
 文若は筆を置いた。
 心を護ってと二言目に言う彼女の心はどこに、ある。
 ましてあのしたりげな笑みを浮かべる都督は。寵愛を得ることを望むなら、その真意は。
 ――寵愛を望まぬまま近づくなら。文若の奥歯がぎり、と鳴った。
 その時、慌ただしい足音が近づいてきた。文若は顔を上げて目を眇めた。扉を叩き付けるように開けたのは、まだ若い官だった。額に汗を浮かべ息を切らしている。
 「騒々しい」
 文若の低い声にひるんだように、彼は棒立ちになった。
 「申し訳、ありません」
 「何事だ」
 官の顔に、先程までの焦りが戻った。
 「か、夏候将軍が、お呼びするようにと」
 文若の指が、かつっと机を弾いた。
 「何事だと聞いている」
 「呉、呉の、都督殿と、その」
 ひゅっと息を呑んだきりの官に、眉間に深い皺を刻んだ文若は口を開きかけてゆらりと立ち上がった。椅子が後ろに倒れる。その動きで呪縛を解かれたように、官は叫んだ。
 「とにかくお越し下さいっ! じょ、丞相、が」
 古い呼び名を咎める間もなく、若い文官を押しのけるようにして文若は回廊を駆け出した。

 

(続。)
(2011.10.5)

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