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この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花孟徳』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
『花孟徳』は、最初に落ちた場所が孟徳さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。 雑駁設定なのは のえる の所為です。
何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
(流れは、幻灯 8→11→13→16→21→23→24→25→26→28→29となります。)
「ごきげんよう、都督」
朗らかな孟徳に、公瑾が微笑んだ。側で見ていた元譲が剣を握り直すほど場違いに美しかった。
「ご機嫌麗しゅう。お約束いたしましたので、参りました」
「殊勝な心がけ…と言いたいところだけれど。」
孟徳の剣の先が、とんと地面を突いた。
「何か約束したかな。」
「確かに文もお出ししておりませんし、侍女の前触れもしておりません」
「そうだな」
「しかし、それをしていてはくじける気がいたしまして、こうして無礼を承知で」
ふうん、と呟いた孟徳は文句なく楽しそうだ。元譲はゆるく首を振った。直立不動の若い兵に、鍛錬していた者たちを下がらせるように指示すると、若い兵士は救われたように駆け出していった。
「それで、何をしたいのかな」
「立ち合いをお願いいたします」
孟徳が肩に剣をかつぎ、柔らかく小首を傾げた。
「都督殿」
「はい」
「都督殿の顔はずるいね」
「また、それを仰る」
公瑾が可笑しそうに低く笑い声を上げた。気を揃えたように孟徳も微笑んだ。
「だって、許してしまいそうになるから」
「おや」
描いたような眉をわざとらしく跳ねさせて彼が笑みを小さくした。
「よく、言われます」
「嫌な人だ」
「許してくださいますか」
「嫌だな」
大きな動作で孟徳が公瑾の肩に剣を触れさせた。公瑾は微動だにしない。
「言ったよね、呉を捨てなければ側に寄らせぬと」
「ですから、こうして剣を持ってまかり越しました」
「だからずるいの」
孟徳は剣をおさめて子どもっぽく唇をついと尖らせた。
「あなたはわたしにばかり答えを出させようとする」
「ええ…」
公瑾はついと目を伏せた。
「わたしはずっと、考えていました。わたしは呉を託された者。それがあなたのもとへ参れるかと」
「愚問だな。だって三国は帝に膝を折った」
「それでも、呉のためでなく、あなたは」
彼は言葉を切った。鳥の群れが木から飛び立って、それを追うように目を上げる。
「わたしはもう、ひとつ心に追えないのです」
「どうして?」
「追いつく者が無いのです。」
彼は自身の胸元を覆うように手をかざした。孟徳は剣を持っていないほうの手をそれに重ねた。
「わたしの恋は入らなかった?」
「これは、あなたこそお人の悪い。わたしに恋、とは」
孟徳は手を下げた。
「素敵な声。抱かなかったのが惜しくなるわ」
「お声をおかけ下さらなかった」
「あなたもいま、言ったじゃない。あなたはわたしが欲しいのではないからね。そんなふうに求められても女は嬉しくない。あなたが知らないはずはないのに。嬲られたのはわたし」
頬に指を置き悩ましく難じる孟徳は、妓のように手慣れている。公瑾が袖を軽く払った。
「手弱女のように仰ることだ」
「だってわたしはあなたに負けた女だから」
孟徳が身を返した。その刹那、公瑾の衣の裾が大きく翻った。鋭い弧を描いて振り下ろされた剣は、孟徳の残像を斬った。公瑾は素早く剣を引き、向き合った孟徳に笑いかけた。公瑾が揺らめかせた剣に、日差しが反射した。
「わたしは、やはりこれが馴染むようです」
「酷い人」
すらりと剣を構えた孟徳が、音もなく沓を脱いだ。
「ほんとうに、酷い人」
元譲の目に、孟徳の背後に吹き上がる何かが見えた。戦場で見る、元譲が知る覇の色ではない。この女が微笑うなら死んでもいいと無闇に思わせる輝きではない。
孟徳が打ちかかる。口元が歪んでいる。
元譲は、はっきりと己の顔から血が引くのを感じた。この打ち合いは駄目だ。孟徳を、あの誓いへ連れて行く。
彼はせわしなく周囲を見回し、彼にとっては運良く目に止まった向こうの回廊の文官を掴まえるべく、駆け出した。
(続。)
(2011.10.18)
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