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この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花公瑾』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
『花公瑾』は、最初に落ちた場所が公瑾さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
雑駁設定なのは のえる の所為です
何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
幻灯15・18・20・22・27・32と同じループっぽい。
壁に作った棚の前で、彼女は伯符に提出する簡を探していた。先程届けたはずだが、何の手違いか無い。もういちど確認しに戻らねばならぬかとため息をついたとき、後ろから腰を抱かれた。
首筋を舐めるように息が這う。執務室でこんな積極的な戯れをされたことはない。ちょっとしたふれあい程度のことならともかく、彼はこう見えて公私を分ける。伯符の息がくすぐったくて、花は身をよじった。背中が低い卓に当たって花が活けてある瓶が揺れ、花弁がいちまい落ちた。
「伯符」
彼は何も言わず、腰をさらに強く抱いた。
「やっぱり」
低い声が怒りをはらんでいて、花の背を強ばらせた。
「伯符、いい加減にしてください」
「お前、香を変えたな」
花は瞬きしてごく近い彼の目をのぞき込んだ。彼はいらいらしているように見えた。彼女は微笑んだ。
「伯符。わたしは昨日まで、西の湖で調練の仕上げを行っておりました。そちらに赴くことはあなたにも了承を得ました。そうですね?」
伯符はむっつりとしたまま、かすかに頷く。
「三日間、ろくに寝ずに調練をして速い船で昨夜帰ってきて、すぐ朝から登城しております。そのどこに、香を変え、しかもそれを焚きしめた衣を着てくる余裕があるとお考えでしょうか。むろん、麗しさであなたに仕える方々であればそのような気遣いも当然ですけれど、あいにく、わたしは違います。それとも、わたしが調練に行ったと嘘でもついていると?」
伯符は花の腰を抱く手を緩めた。自嘲するように笑った。
「お前はそんな下手なことはしないだろう。お前は良くも悪くも目立つからな、かたらうのが伯言だけじゃすまない。」
花は唇を歪めた。
「ええ、目立ちます。」
「でも、違うのは確かだ」
伯符の手が肩を強く押し、正面に彼の顔が来た。怒りさえ見えるその表情に花は小さく息をついた。
「香を変えたから何なのです。わたしだって気分が変わることくらいあります」
彼はぐっと唇を引き結んだ。
「…分かってるよ」
「わたしが職務に励んでいることもご理解いただけましたね? 結構。お分かり頂けたなら嬉しいです。ではどうぞ、こちらを」
ちょうど見つかった簡を差し出すと、ひったくられる。後ろ姿を見ながら花は袖を顔の前に持ち上げ、首を傾げた。いったい何の話だか、さっぱり見えない。この香だって、名と同様に「盗んだ」ものだ。自分が手を加えたことなどないし、これからもあり得ない。そこまで思い、唇を歪める。
もし――もし、香りが変わったというなら、この環も変わるだろうか。名をあのひとに返せる筋道がつくだろうか。そんなきざしなら大歓迎だけど、しかし、これが完全に自分の環に成り代わってしまう前触れなら…花は眼を細めた。いったいどうしたら検証できるだろう。
机で簡を読んでいる伯符に目を遣る。
うまくいけば、あなたに本当の補佐を返すことができる。わたしが女だとあなたまで侮られることがあったけれど、あのひとは容姿に見合う鋭利と剛胆と優しさと、
(―花)
いつの間にか袖をきつく握りしめていたことに気づき、ゆっくり手を開く。目を上げると、伯符がひどく強い眼差しでこちらを見ていた。笑み返すと、彼は見てはならないものを見たようにぱっと視線を逸らした。
そう、その反応はとても正しい。あなたはいま、存在していないものを見ている。花はひそりと笑った。
彼女のうしろで、千切られたように花弁ががさりと散った。
(2012.4.8)
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