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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 花孔明さんと文若さん。だいぶループを重ねてスレてるカンジです。
 長坂橋後、魏にとらわれの身となった彼女の話。



 

 文若は長い息をつき女の後ろに立った。
 「何をしている」
 孔明は振り向いて鮮やかに微笑んだ。浅い池に浸していた素足をこれみよがしに跳ね上げる。飛沫が月光にきらきらと飛んだ。薄衣がすらりとした足に貼り付いている。
 「暑いのですもの」
 夜中に水浴びなど、獣ではないか。白い首筋に浮かび上がっている紅い痕が、下賜された首飾に見える。多くの女が誉とする痕だ。
 「立場を分かっていないのか」
 「女好きの男の懐に上手に潜り込んだ敗残の軍師」
 まるで邪気無く言い返されて文若はむっつり黙った。相手は不思議そうに小首を傾げる。文若は小さく咳払いした。
 「敗残とも思っておらぬだろう」
 「あら、分かりました?」
 「それらしくふるまえ」
 「軍師ですもの」
 孔明は池から上がった。無造作に放り出してあった衣を羽織る。
 「こんな夜更けまでお仕事ですか?」
 「お前のあるじが抗うおかげでな」
 「あなたのあるじがかき回すせいでしょう」
 「丞相の寝首をかいて逃亡するかと思えば」
 「毒は遅く効くものもございますよ」
 帯を締めた女が振り返り、その手がふいと己の首に触れて文若は動きを止めた。目を見張ったまま、間近なその顔を見返す。手を払うことも忘れていた。
 不可思議な少女のようと、あるじがにやついて話すその瞳に己が映っている。それが潤む瞬間がたまらないと聞かれもしないのによくしゃべるあの男は新しい玩具を手に入れた子どものように浮かれていた。
 女の肌に遊んでいても酔いはしない男の見た目などあてにならないはずなのに、こたびはひどく危うく思えてならない。
 「わたしはこちらの首のほうが魅力的」
 「…なに?」
 女が手を離した。袖がざらりと広がって細い背が波打つ。金糸がふんだんに使われた豪奢な衣は、あるじが見繕ったものだ。あの軍は実に質素で、この女とて山中の粗末な庵に住まっていたと聞く。なのに、金と銀しか知らぬような振る舞いは実に自然だ。
 「あちらは他の女がつけた手垢だらけ。あなたの首のほうがきれい」
 「き、れい?」
 「ええ、とても。そのお志のように」
 低く呟くように言った女は肩越しに振り向き、笑った。
 「男と同じように、新しい土地が好きな女もおります」
 朗らかな声は、あるじに似ている。そう思った自分にうろたえる。
 「わたしは、あるじと女を分け合うような不埒な、無様な真似は!」
 早口で怒鳴った自分に、女はいま、哀れむような目を向けなかったか?
 「ええ、むろん、いまのわたしでは」
 「いまの…わたしだと?」
 「だってあのかたは逃がしてくれなそうですもの。時間はたくさんありそう」
 「それを恥と思わぬか、女!」
 孔明の笑みが深くなった。
 「ならばこんな女ひとり抱いて満足しているあなたのあるじは、いっとうの恥知らずではありませんか」
 「孔明!」
 「敵の軍師なら首斬ればいい。才を使いたいならいくさにつれていけばいい。肌をなぞれば啼くただの女だったと安心でもしているのかしら。」
 「孔明…」
 「告げ口なさいます?」
 一転、浮き浮きと袖を振る女に抗いたくなるが、あるじは決してそれを喜ぶまい。まだ遊びたいのにと面倒な癇癪をおこされる。それがくっきり思い浮かんで、眉間に皺を刻む。
 「まあ、ひどい皺」
 またいつの間にか近づいていた女の指先がちょん、とそこをつついた。今度は素早く身を引く。誰のせいかと問いたいが、その返答にあるじがだぶる。顔を上げたときにはその背は先を行っていた。立ち尽くす文若に、彼女はちらりと振り返って手を上げた。恋人にするように優雅に袖を振って、回廊の暗闇に消えていく。
 文若は首筋に手を当てた。手はごつごつと冷たいばかりで、何の芳しさもない。それをばかげたことと思いながら、彼は動けないでいた。

 

(2013.2.22編集)

 2013年2月のらぶこれで「二藍」のるっかさまのご本に寄稿させていただいた花孔明さんですが、ごらんになった方はおわかりのように、わたしの分は花孔明さんと孟徳さんの話が掲載されております(本は完売しております)。
 これ以外に実は、花孔明さんと文若さんの話も書いて提出しておりました。
 結果的に採用されたのは孟徳さんのほうで、採用に至らなかった花孔明さんと文若さんの話は、らぶこれが過ぎたらこちらで掲載してもよいのとの許可をちょうだいしました。
 ご本をお持ちでない方でもお読みいただけると思い、掲載しました。


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