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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、chickpeaのcicer様が書かれた、『シャッフル魏さんのところの公瑾さんの妹の花ちゃん』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 
 『シャッフル魏さんち』は、孟徳さんが丞相で、公瑾さんが尚書令です。
 『公瑾の妹花ちゃん』は、公瑾の血の繋がった妹の花ちゃん。

 
 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
 
 


 
 
 夫人、と控えめに呼びかけられて彼女は立ち止まった。侍女が目線でうながす先、初夏に美しい花が咲き乱れる生け垣の影から、薄藍の袖が揺れている。夫人は微笑んだ。
 「可愛い蝶々だこと。」
 がさ、と生け垣が動く。
 「出ていらっしゃい。分かっていてよ、いけない蝶々さん」
 穏やかな呼びかけに、生け垣の影からおずおずと少女が現れた。夫人を守るように前に出ていた老侍女は少し唇の端を上げ、夫人の横に下がった。
 とことこと歩いてきた少女の前に、夫人は腰をかがめた。
 「花殿、だったわね。」
 「はい」
 少女は裳を小さな手で握りしめて頷いた。
 「もうここに来てはいけないと、あのこわい兄上さまに言われたでしょう?」
 「…はい」
 少女は不安そうに瞬きしながら、夫人を見上げた。少女は熱っぽい視線で彼女を見上げている。自分の息子や娘とはまた違った、まるで自分を崇拝する若者のような視線だ。
 「兄上さまには内緒なのね?」
 また少女は、頷いた。
 少女の兄はこの国の尚書令で、夫人は彼のあるじの側室である。夫人はその出身と派手な容姿に比べ慎み深いたちであって、ほとんど外には出ない。だから、少女とは本来、会うはずもなかった。おてんばで悪戯な少女が、生け垣づたいに猫を追いかけたりしなければ。そこで生け垣の穴に気づき、さんざめく彼女たちを見付けたりしなければ。
 この棟のあるじである孟徳に連れ帰られた少女は、後日、孟徳がおもしろがって報告したところによると、恐ろしい笑顔の兄にたいそう叱られたという。あまつさえその兄は、あの棟には妖怪がいるのだから近寄るな、とまで言ったらしい。
 夫人は尚書令を憎んだりはしない。お互い様と思っている。
 「叱られるのは承知なのね。…そう、ではどうしてまた来たの?」
 「あなたが、こわいものとは思えないの」
 夫人は瞬きした。
 「あなたはとてもいい匂いがする。手先も肌もきれいで、着ているものもきれい。まるで兄上のようだから、こわいものとはどうしても分からないから、また会ってみたかったの」
 必死の様子でたどたどしく言いつのった少女は、息を呑んで夫人を見上げている。夫人はその様子を見つめ、鈴を振るような声で笑い出した。固唾を呑んで見つめていた侍女たちが密やかな笑い声を零す。少女は慌てたようにあたりを見回した。
 夫人は少女を抱き上げた。目を丸くする少女に、まだ声を抑えきれず笑いかける。
 「わるいこね」
 「…花、わるい子?」
 「そうね。でもいい子。」
 香をたきしめた袖に抱き込まれ、花はそうっとその襟元に頬をつけた。
 「兄上が好きなのね」
 「大好き」
 少女が、その名に似て、小さい花のように笑う。まだ育ちきらない若木の最初の花のごとく慎ましやかに、しかし大輪の予感を覚えさせる。なるほど、あの悪名高い冷血漢の妹とは思われぬと、この棟にさえ届く評判の通りにあどけない光ばかりの少女。
 「良い子。良い子ね」
 少女がとろけたように目を閉じる。その小さな白い耳に囁く。
 「なおさら、気をおつけなさいね。耳を澄まして、目を凝らして、兄上を、丞相をよくみること」
 「よく、見るの?」
 「そうよ。よく聞くの。誰がどこにいるのか。誰が何を言っているのか。…誰を、どこに行かせたいのか。」
 ぱちりと少女が目を開け、間近にある夫人の顔をのぞき込む。その真意を測るように、確かに女の光を黒々とした丸い大きな瞳に宿して。少女は小首を傾げた。
 「だれを、どこに?」
 「そう、あなたを、どこに」
 「わたしを…」
 少女は困ったように俯いた。
 「むずかしい」
 「そうね。でもおぼえておおきなさい。…そして、これがいちばんだいじなこと。」
 秘密めかして言うと、少女ははじかれたように顔を上げた。
 「おおきくなってからここへ来てはいけないわ。やくそくできて?」
 「いまはいいの?」
 「兄上さまと正面から来ることができたらね。」
 少女はまた、悲しそうな顔をした。
 「ぜったい、できないわ」
 夫人はくすくすと笑った。ゆるやかに歩き出しながら、側の侍女に茶菓の用意を言いつける。
 「では今日は、わたしが謝ってあげましょうね。やさしいおむかえが来るまで、一緒にあそびましょう」
 少女は、満面の笑みで頷いた。
 
 
 
 ゆらゆらと楽しげに紅の袖をひらめかせやってきた孟徳は、夫人の膝で眠る花を見て喉の奥で笑った。夫人が顔を上げ、軽く睨む。
 「おもしろがっているばあいかしら」
 「これを面白がらないでどうするんだ。ふふ、いつまで黙っていてやろうか? 公瑾のやつ、素晴らしく怒るだろうな」
 まるで領地を取り合うことを考えているようなふてぶてしい、しかし子どものような孟徳の笑みに、夫人は花の髪を撫でた。
 「おあいにくさま、令君にはお知らせしたわよ」
 「ええー? なんだよ、花ちゃんでお着替え遊びをしようと思ったのに」
 「場所がわるいわ、あきらめるのね。令君のお屋敷でなさいな」
 「公瑾のやつ、花ちゃんの視界に俺が入るとあれは人さらいですよとか言いやがるんだぜ? こんなに女の子に優しいのになあ、俺」
 「自分で言うものじゃなくてよ。」
 夫人は眠る花の上に掛けていた自分の袖を払った。孟徳が花の体をゆっくり抱き上げる。健やかな寝息をたてる少女を、甘い笑顔でのぞき込む。
 「食べちゃいたいなあ。」
 「反乱を起こされるわよ。」
 「ああ、楽しそうだな。こんな可愛い子のために国が乱れるなんてこれほどおかしいことはない。」
 「ばかね」
 「そうさ」
 孟徳は蕩けるように笑って身を返した。夫人はその背を見送ると、ため息をついた。側に立った老侍女に苦笑する。
 「あの様子では、令君にたくさん仕事を押しつけられてよ。当分、この館も暇になりそうね?」
 老侍女は、慎ましく一礼した。
 
 
 
(2010.10.30編集)

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