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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 こねた、文若さんと花ちゃんです。まだ恋仲浅いころ。






 彼女が出て行った部屋は、急にしんとする。
 文若は息をついて筆を揃えた。あれが戻ってきたら茶の用意をしよう。どこかであのにやけた上司に捕まっていなければ、だが。彼が彼女を呼ぶ声を思い出し、不愉快になる。それと同時に、今朝、その当人にふっかけられた難題まで思い出した。文若がこなすのが当然という口調で上司が告げたそれを改めて思い、眉間をもむ。
 あの方が己を呼ぶ調子は変わらぬ。今となっては、己を名で呼ぶのは、あの方と彼女くらいになった。それなりの職に就いているのだ、役職で呼ばれることのほうが多い。だがその呼び方は驚くほど異なる。ふたりとも、この名に違う色を乗せるのは同じだ。この間、彼女に教わった彼女の国の書き方――そう、ふりがな、というものに似て、違う文字で同じことを言うように。
 彼はその底光りするような目の色や、うすく笑った唇の角度、緩く揺れる指先、大きく翻った緋の衣、そういうもので実に多彩なふりがなをこの名に振る。
 しかし彼女はいつも同じだ。ただひとつの呼び方でこの名を唇に乗せる。表情が変わるのに何故だろう、彼女の呼び方は揺るぎない。それに読み取るふりがながひとつだけであると自惚れるのにはまだ、ためらわれるが。
 自分はああいうふうに彼女を呼んでいるだろうか。ただひとつの気持ちしかない、それはこの口に現れているだろうか。いつも厄介な上司にからかわれるように、銘茶の産地を口にする時より素っ気なくあってはなるまい。
 花、と息だけで彼は口にしてみた。そのとき、応えるように外で鳥が鳴いたので、彼は赤面した。

 


(2013.12.19)

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