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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 ついにタイトル付きました…コネタのはずだったのですが。
 文若さんの、ちっちゃくなった奥さま・花ちゃんです。
 
 
 


 
 
 
 そろそろと階段を下りる花を、文若は振り返って見守った。何の弾みか少女――というより幼女と言って差し支えないような姿になってしまった妻は、ようやく身の丈が分かってきたらしい。裾を踏まないように、いつもにまして慎重に歩いている。転ばず、無事に庭に下りた花は、文若を見上げて嬉しそうに笑った。
 「おりられました」
 「宜しい。」
 重々しく頷くと、花はまた笑った。
 もとからよく笑う娘ではある。しかし子どもとなると、妻として身についてきた柔らかな色気やしなやかさより、輝くばかりのという形容がふさわしい明るい表情になる。本来の姿とはまた違う意味で魅入られる――非常に心外ではあるが。
 花は文若の袂を握って、庭を見回した。その表情が曇る。
 「どうした」
 「にわがひろいです」
 心底、心細そうな声に文若は微笑んだ。
 「朝もそのようなことを言っていたな。それほど違うものか?」
 「はい。ほら、この木もわたしとおなじ」
 精一杯背伸びして若木のてっぺんに触れる手を、文若はつくづくと見やった。西から取り寄せたばかりの若木で、よく手を掛けてやると秋になるとずいぶん香りのいい花が咲くらしい。孟徳からそう言われ、庭師と額を寄せ合って相談している姿を近頃はよく見かける。
 「はやく、はなが咲くといいですね」
 若芽をそっと手で包むようにしている花に、文若は笑った。
 「気が早いな。では、それが咲くまでに、花の美しさを詠めるよう、詩の勉学を急ぐとしよう」
 花は文若を振り仰ぎ、頬を膨らませた。
 「また、おべんきょう」
 「なんだ、この間、早くできることが増えればわたしの側にいられるとか健気なことを言っていたと思ったが」
 「それはそう、なんですけど」
 花が両手を文若に向かって伸ばした。彼は咄嗟にその意味が分からず幼子を見下ろしていたが、顔を紅くし咳払いをしてからその体を抱き上げた。花が笑って文若の頬を両手で挟む。いつもと違う、少し熱い手のひらだ。
 「ちゃんとおくさんもしたいです」
 「…その姿を戻してから言いなさい」
 妻は見る間に悄げて手を下ろし、はあい、と小さく返事をした。文若がその体を抱き直すと、花はまた顔を上げて庭を見回した。
 「これって、ぶんじゃくさんのみているたかさですね」
 「ああ。」
 「さっきとも、もとのわたしともちがう」
 呟いた花は、また文若の頬を両手で挟んだ。自分の額を彼の額に押しつける。
 「しんせんでうれしいです」
 「そ、んなものか」
 「はい! ぶんじゃくさんとおなじなのはうれしい」
 先程、輝くようなと思った笑顔が、間近で彼を包み込む。
 「…花」
 「はい」
 「視線だけではもの足りぬものだな」
 花は手を放して怪訝そうに瞬きした。文若は咳払いをした。
 「なんのことですか?」
 「もとの姿になったら教えよう」
 「ずるい! ずるいですぶんじゃくさん」
 「ずるいのはお前だ」
 文若の首に抱きついて駄々をこねる花に、彼は軽い笑い声を上げた。
 その時、家令の老人が慌てた様子で庭に下りてきた。彼のそんな様子は非常に珍しいので、花が笑いを引っ込めてそちらを見た。
 「ぶんじゃくさん、家令さんが」
 文若は花の怪訝そうな視線を追ってそちらを見た。家令は深々と頭を下げた。
 「どうした」
 「こ、公子がおいででございます」
 文若は花を見た。花が小首を傾げている。
 「なにか約束でもあったか」
 「なにもないです」
 妻は少女に似合わない、考え深げな表情を浮かべた。
 「ぶんじゃくさん。まさかこれって、しけんさんのせいじゃないですよね」
 「胡乱なことを申すな。」
 眉間の皺を深くすると、花はふくふくとした指でその眉間をつついた。文若は表情を和らげた。
 「とりあえずお前は寝所にいなさい。わたしが呼びに来るまで、決して出てはならぬぞ」
 少女は大きく頷いた。
 家令に伴われて屋敷に戻る花の後ろ姿を見送り、文若は大きく息を吸った。常にない緊張が彼の背を伸ばしていた。
 
 
(続。) 
(2011.3.7)

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