二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
文若さんと、ちっちゃくなった花ちゃん、の話です。
苦手な方はどうぞご遠慮ください。
苦手な方はどうぞご遠慮ください。
花は寝台の上から部屋を見回した。
帳が下ろされて薄暗い部屋は、心許ない。幼い目にはものの距離感が変わってしまって、ずいぶんあやふやな世界に見える。彼女は自分の手を見ながら、握ったり開いたりしてみた。そして、ため息をついた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
自分が余所から紛れ込んで来た者の所為なのか。それとも、このあいだ子建に貰って食べた珍しい果物か、孟徳に貰ったきれいな飾り玉の所為か。そこまで思い、花はきつくかぶりを振った。何も分からないうちに、あれこれ考え込むのはよくない。文若も、予測に囚われすぎてはいけないとよく言う。それは、いまだ思い出すたび花の身を震えさせる孟徳の暗殺騒動のことを念頭においてのことだろう。花はため息をついて寝台に横になった。夜着に着替えないで寝台に横になるなどふだんだったら絶対に叱られるが、今日は特別だ。
しん、としている寝所に、ため息ばかりが落ちる。
「――よくない、よね」
花は小さく頷いて寝台から下りた。この時も、危うく滑り落ちてしまいそうになるのを堪える。窓辺まで行って背伸びをするが、窓まで背が届かない。花は椅子を引きずって窓の下に据え、やっと格子の隙間から外を見た。
柔らかい風が花の頬を撫で、どこからか良い香りもする。さっきまで文若とふたりで散策していた庭を見て、切なくなる。
その時、視界に入ってきた人影に花は息を呑んだ。無造作に纏めた髪と質素な身なりは、どこにでもいる青年の姿だ。しかし、さりげなく庭を見回している姿は実に油断がない。
それは間違いなく、孟徳だった。
(どうして孟徳さんがこんなところにいるの?)
文若が休んだからだろうか。しかし、急用ならこの屋敷に使いが来るだろうし、あの格好で孟徳が居る…ということは。
「さぼり…?」
思わず呟いた途端、それが聞こえたかのようにまっすぐ、孟徳がこちらを見た。反射で頭を引っ込める。
(見つかってない、よね)
孟徳の場所から、この窓は遠い。
なのに、軽い足音が聞こえる。確かに、足音が近づいてきて――
「花ちゃん」
窓の外からそっと、呼ばれた。花は口元を押さえた。
「花ちゃんが具合が悪いってきいて、居ても立ってもいられなくて来たんだよ。表にまわったらどうせ門前払いだし文若の顔なんて見たくないからこっちに来ちゃったけど、あとでいくらでも謝るからいまは許して。…ね、いるんだよね、花ちゃん」
声は優しい。
しかい、文若は決して寝所を出てはいけないと言った。そのうえ、今の自分はいつもと違う。
(どうしよう)
「花ちゃん。顔も見せてくれないくらい具合が悪いの?」
孟徳の声はとても心配そうだ。花は身を縮めていた。しかし、気配はいっこうに去らない。
(文若さん、早く帰ってきて!)
「花ちゃん」
呼ばれるたび、孟徳が近づいてくるようだ。壁に隔てられているから、そんなことはないはずなのに、側に来る気がする。
こんな昔話を知っている、と花は思った。爪の先が入るくらいでいいから戸を開けてよ、と言われてうっかりと戸を開け、鬼に食べられてしまうお姫さまの話だ。花は慌てて首を振った。孟徳は鬼ではない。
花は身を縮めながら、窓の方を見上げた。
「孟徳さん」
「花ちゃん!? そこにいるの?」
「ごめんなさい。わるいびょうきをうつしてしまうかもしれないから、会えません」
「文若から貰っちゃったの? 可愛そうに!」
「ぶんじゃくさんはびょうきをくれたりしません!」
言い返したあと、窓の向こうはしばらく静かになった。花が不思議に思って小首を傾げるくらいの時間はあった。
「そういう言い方も、そういう考え方もとても聞き覚えがあるんだけど…ねえ、ずいぶん可愛い声だねえ?」
孟徳の声がずんと低く聞こえ、花は息を呑んだ。そうだ…孟徳はこういうひとだ。
「花ちゃん?」
花は息を殺してじっとうずくまっていた。
文若は、上座の子建に礼を取った。子建は鷹揚に微笑んだ。
「奥方のご容態はいかがでしょう」
いきなり切り出され、文若はむっつりと頬を引きつらせた。
「おそれながら、その知らせはいずれからもたらされたものでしょうか」
「奥方に関することでしたら、いずれからでも参りますよ。特に緋色の文が早い」
文若はさらに表情を険しくした。
「それで、花殿はお目にかかれぬほどお悪いのでしょうか。」
「申し訳ございませぬ。どなたにもお目にかかる気になれぬと申しております」
子建は深い息をついた。
「残念です。お目にかかれるならお手をとってお慰めしたものを…病みやつれた様さえきっと愛らしいでしょうに」
褒めているのだとは分かる。しかし、いまはただの「病気」ではない。文若の眉間に皺が寄った。子建は微笑むと、立ち上がった。
「それでは日を改めましょう。」
また来るつもりかと思いながら頭を下げる。
「妻には見舞いを頂戴したこと、申し伝えます」
「ええ、きっとですよ」
上等の衣を鳴らして子建が座を降りる。息を零しかけた文若の耳に、悲鳴が聞こえた。
文若さん文若さん、と幼い声が叫んでいる。棒立ちになった一瞬ののち、そこに誰が居るかも忘れて彼は駆けだした。裾をからげて回廊を駆け抜ける。
先程、花を見送った寝所の前で少女を抱き上げている男が居た。文若は立ちすくんだ。
「じょう…しょう!?」
花は文若を見て、手足をさらにばたつかせた。孟徳は舌打ちをした。
「ぶんじゃくさん!」
「あちゃー、もう来たのか」
「何事です!」
「見舞い。」
にこにこして言う孟徳は、じたばたと暴れる花を抱きすくめたままだ。
「文若さん、たすけて!」
「丞相、彼女をお離し下さい!」
「やだ」
「文若さーん!」
「待っていろ、いま助ける!」
「さすがは父上、素晴らしい悪役ぶりでいらっしゃる」
のんびりと割ってはいった子建を、孟徳は忌々しそうに見た。
「もう少し引き留めておけよ」
「生憎となにも聞かされておりませんので。まあ、聞かされていたならなおさら、協力などいたしかねます」
「心の狭いやつめ」
「父上に言われたら礼を申さねばなりませぬか?」
「いい加減になさってください!」
文若が怒鳴るのと、花が盛大に泣き出すのは一緒だった。
(続。)
(2011.6.22)
PR
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
カテゴリー
フリーエリア
プロフィール
HN:
のえる
性別:
非公開
カウンター
アクセス解析