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文若さん文若さん言ってる所為かなにか、花ちゃんと文若さんが浴衣で夏祭りで金魚すくいしてる夢みました。赤と黒の金魚をどうしてもお揃いで欲しいですとねだられている彼はたいへん微笑ましかった…すみませんイタイオトナ…
このあいだの祭りでは、魏のオトン(待て)元譲さんを書けなかったので。
後夜祭です。
むっつりとした顔で花が部屋の隅に腰掛けている。
彼女は表情豊かで、まわりの者がその笑顔や涙につられてしまうことはよくある。だから今、彼女が膝を抱えんばかりにして座り込んでいるこの部屋の空気はおそろしく重い。
元譲は政務を行いながらちらちらとその顔を伺っている。武で鳴らした部下たちも、まるで手が出ない様子で困惑している。
こんなことなら、今日にまとめて書類仕事を片付けようと思わなければよかった。昨日のうちにすませておけば、こんなことには…
「元譲さん」
「うお!」
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃないですか」
花がふくれっ面であさってのほうを向いた。元譲は墨を飛ばして読めなくなった簡を横にそっとのけた。
「なんだ、花」
「わたしだって元譲さんに相談するなんてと思いますけど、こ、こういうことを相談できる男の人がいなくて」
「…孟徳は」
「孟徳さんはダメです! 絶対にダメ!」
椅子を蹴倒さんばかりに立ち上がった花が、我に返って顔を真っ赤にして座り込む。
「ご、ごめんなさい」
「なぜ孟徳では駄目なのだ」
「文若さんがそのことでずっと言われます! 元譲さんは口が堅いし、信用できます」
「…そうか」
ほのかに嬉しいと思った気分が恥ずかしく、元譲は咳払いした。
「文若がどうしたのだ」
花は勢いよく立ち、元譲の側に来て身をかがめた。耳に息がかかり、ふわっと香が漂う。彼女の夫と同じものだ。
「男の人って、男の人って」
そこまで言って、花は耳まで赤くなった。
「…なんだ」
「…」
花は口をあいたり閉じたりしている。元譲は間近に迫る、新妻らしい色気の乗った花の顔を直視できず、目を書簡に戻した。
「花?」
「やっぱりいいですっ!」
花が窓際まで飛び退った。そのとき、戸がゆっくりゆっくり開いた。花が固まる。
「文若」
いつもより細く見える目で文若は室内を見回し、元譲を認めてかすかに笑った。本人は頑として否定するだろうが、それは孟徳によく似ていた。孟徳が気に入らないことをわざと隠そうとしない笑みのやり方だ。
「妻が邪魔している。」
声もいつもより落ち着いている。かえって元譲がうろたえた。
「お、おお。」
「花」
文若が呼ぶと、花は真っ赤な顔のまましおしおと項垂れた。文若はそれを見てため息をついた。
「想像はつく。このあいだ、わたしにずいぶん詰め寄ったからな。」
花の背が、ぴんと伸びる。
「だが、なぜそれを喜ぶのがいけないのか分からない。」
「ぶんじゃく、さん…」
大股に歩いてきて、文若は花の顔をのぞき込むように小腰をかがめた。心配そうな顔は、もう夫婦のものだった。
「なぜだ?」
「…いけない、んじゃないです」
「いけないことではないなら、なぜ元譲のところに居る?」
「だから、他の男の人にも聞いてみようと…」
「丞相のところに行かなかったのは、さすがわたしの妻と言うべきだ。」
そこは褒めるところなのか、いや褒めるところか、と元譲が悩むうち、文若は花の手を取った。そっと撫でる。
「花。」
「はい…」
「お前がわたしの妻になってもう三ヶ月だ。」
「…わたしにとっては、まだ、です。」
「いつになったら、わたしを許してくれる?」
「許す、許さないじゃないんです。ただ、そういうことって男の人なら誰でも思うもので、それだけで嬉しいのかなって…そういうこと、あっちの世界でも聞いたことあるし。」
最後の方はほとんど聞こえなかったが、文若は元譲でも見たことがないほど険しい表情になった。
「お前にそんなことを吹き込んだ男は誰だ。男とて誰でもいいわけではない。心に定めた女性だからこそ欲するし、嬉しいのだ。」
「…文若さんはそう思う、んですよね?」
「わたしが妻に迎えたのはお前だけだ。」
花ははにかんだ。それは驚くほど初々しい色香を漂わせた。
「そ、そうだったら、嬉しい…です。」
「わたしはずっと嬉しいと言っている。」
はい、と花がうなずく。それにつかの間見とれた元譲を制するように、文若がさっと彼を振り返った。
「邪魔をした。」
「お…おお」
おじゃましました、と花が丁寧に頭を下げて先に出て行く。元譲は出て行こうとする文若の袖を掴んだ。
「おい、説明していけ!」
詰め寄った元譲に、文若はいつも以上の仏頂面になった。
「何ということはありません。あれの初めての男がわたしだったことが嬉しかったので、思い出して言ったら拗ねられたのです。…妻というものは難しいものですね」
では、と文若が出て行く。
「…そんな」
元譲の肩が震えた。
「そんな会話にわたしを巻き込むな…っ!!」
元譲の怒鳴り声に、入ってきた部下が逃げ帰った。
(2010.6.28)
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