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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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  文若さんと、花ちゃん。
 婚儀前、です。
 
 

 
 
 
 「文若さんの趣味って何でしょうね?」
 休憩時間に、ひとをじっと見つめていたと思ったら、この質問だ。文若はゆっくりと花を見返した。彼女はからかう気はないらしく、真剣な面持ちで杯をのぞき込んでいる。そこに答えが書いてある訳でもあるまいに、と彼は思った。
 「茶…か」
 花は目を上げ、小首を傾げた。
 「確かに、文若さんはいろんなお茶を知ってますし、いれるのもすごく美味しいですよね。今日のお茶も美味しいです。」
 「そうか」
 「お茶の葉以外の香りが…するような」
 花の言葉に、彼は唇に笑みを刻んだ。
 「ああ。北の草原にしか咲かぬ花の香りだそうだ。まあ、商人の口上だから分からぬがな、ずいぶんすっとした香りがする」
 「眠気が飛びそうです」
 くすくす笑った花に、文若は眼を細めた。気づいた彼女が首を竦める。
 「夜更かしは、してませんよ?」
 「そうか」
 「わたしの年頃は眠いものなんです」
 「…そうか?」
 「いつも休みの日はすっごく寝坊してたから…あ、なにも悪いことしてないです」
 「悪いなどとは言っていない」
 花はちょっと唇を尖らせた。文若の視線が怖い、などと思ったのだろう。渋面を作った彼に、花が慌てたように膝を寄せた。
 「さっきの話ですけど」
 「ん?」
 「文若さんがお茶を好きって知ってるから、色んな人から貰ったりするんじゃないですか? 侍女さんも気をつけてくれているし。文若さんが自分で茶葉を探しに行くことってありますか?」
 「おのれの足で、か? まあ、無いな」
 「…もしかして、お茶の葉って文若さんへの賄賂に使ったりされることもあります?」
 上目遣いの花を、文若は、うん、と睨んだ。
 「そのような茶が美味いと思うか?」
 花がぱっと身を引いて強く首を横に振る。
 「思いません」
 側に置く娘が、胡乱な心持ちで居て貰っては困る。無言で深く頷く彼に、花が笑顔になった。文若は杯に目を落とした。
 「まあ、受け取っても便宜を図らなければどうということもないがな」
 小声に、花が悪戯っぽく笑った。
 「ねえ文若さん。この前の庭にお茶の木を植えられたらいいと思いませんか?」
 文若は彼女の視線を追って中庭を見た。色を揃え植えられた草花がさわさわとそよ風に揺れている。
 「この、庭にか?」
 「はい。わたしの国では、山まるごとお茶の木だったりするところもあって…本で読んだんですけど、葉を摘んで蒸してから干すらしいんです。」
 「そうか」
 「この執務室で飲んだり、孟徳さんに振る舞ったりするくらいはまかなえるかもしれませんね?」
 「…丞相は構うな」
 うふふ、と花は笑った。
 「できあがったら、お茶会しましょうね。」
 「まだ木を探してもおらんぞ」
 気が早すぎる花に、文若は苦笑した。最後の滴を飲み干して杯を置く。
 「邸に植えるのも良いかもしれぬ。求めてみるか」
 まだ彼女の知らない邸の庭を思い浮かべる。
 いつか――もちろんそれほど遠い未来ではなく求婚し、承諾を――むろん、承諾を得ねばならぬが、邸に連れて行ったとして。その庭に茶の木があったら花は喜ぶだろう。
 「わあ、文若さん印のお茶ですね!」
 文若の心中を知らぬ様子で、花は無邪気に手を打ち合わせて笑う。文若もちらりと笑みを返し、立ち上がった。
 「休憩は終わりだ。さっき仕分けしたものをそれぞれに持って行きなさい」
 「はい!」
 元気よく花が立ち上がる。茶器を片付ける背中にふと、己の部屋の景色がだぶって、文若は小さく咳払いした。
 求婚をしてもおらぬのに、浮かれる心の浅ましさよ。彼は僅かに唇の端をつり上げると机に戻った。

(2011.9.1)
 

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