二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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文若さんと花ちゃん。ちょっと…色っぽい?
ゆらゆらと彼の目が醒めるのが分かる。
休日にはできるだけ彼を放っておくのが花のやり方だ。最初のうちは平日と変わりなく起こすようにと言われていたが、眠るのがいちばんいいんですよと言い続けていたら彼も文句を言わなくなった。だから自分が起きた時にすぐ寝台を離れるはずだったが、今日は事情が違った。
彼の目が開く。しばらくは視点が合わないようで、ぼんやり窓の方を見ていた。彼が休みの日だけ窓辺に掛ける分厚い布の端から、明るい日が滲んでいる。それから彼の目はゆるりと巡って自分を捕らえた。花は囁いた。
「起こしましたか?」
文若がゆっくり瞬きする。
「花?」
「はい。おはようございます」
「なぜ膝枕などしている」
花はくすぐったくなった。起きてすぐその質問か。
「文若さんがしたんですよ」
「…わたしが」
「はい。わたしが文若さんの寝顔を見てたら、あっという間に」
文若が妻から目を逸らし、また窓を向く。
「あっという間に、か」
本当なのだから、そんなに拗ねたような顔をされても仕方がない。
「はい」
「寝顔など、なぜ」
「あ、寝顔っていうか、後ろに回って髪をさわってたんです。それで、でしょうか、文若さんがもぞもぞし始めて、わたしの膝の上にするっと乗ってまた寝ちゃいました」
「覚えておらん」
「でも本当です」
思い出して笑い、また彼の髪をついと梳く。文若が眼を細めた。
「まあ、お前の希望であったのだから良かろう」
「希望?」
「忘れたのか。『ゆかた』なる衣で膝枕をするのは女子の夢だとか言っただろう」
花は頬を押さえた。
「あちら」に居たら少しづつ経験するであろうことを、一足飛びに婚儀を挙げたせいか、やり残した気になっているのは確かだ。祭りの話をしていたはずがいつの間にかそういう話になってしまった。
「ゆかた、ではないがな。」
「嫌、でしたか」
「嫌なら退けている」
「…あの、いちどきりじゃ、嫌ですからね?」
囁いてみると、彼の耳が少し熱くなった。花は嬉しくなって、流れたままの彼の髪を指先に絡めた。文若がため息をつく。
「お前はまたわたしの髪をいじる」
「だって、こんな時でもないと」
「わたしの髪など、いつもいじっているだろう」
「あれは身支度のためだけですから。こうして撫でるの好きなんです。」
「理解できん」
そう言うと、彼は小さく息を吐いた。
「そろそろ整えねば、頭が重くなるな」
「えー、勿体ない」
「お前の言うことは本当に分からんな。なぜそんなにわたしの髪を惜しむ」
花は口を噤んだ。
――言えるわけがない。
文若がこの躰に口づけてくれるとき、その髪が肌に滑っていくのがくすぐったくて、でも文若の全部で求めてくれているようだから嬉しい、などとは。
「花?」
怪訝そうに寝返りをうとうとする文若の耳に、手のひらを当てて制する。考えただけで紅くなった顔を見られたくない。
「内緒です」
文若は非常に不満そうに横目でこちらを見た。
「それでは、希望の叶えようがない」
「大丈夫です、もう叶ってます」
「しかし、切らないでくれと言うだろう」
「それはもういいです」
「…そうか」
夫がさらにむっつりと唇を歪めたので、花は慌てた。
「あ、あの、じゃあ切る前に、三つ編み…は長さがないので、編み込みさせてもらっていいですか」
「なんだそれは」
怪訝そうな夫に、変なことを言ってしまったと思い、さらに慌てる。
「やっぱりいいです! 文若さん、好きにしてください!」
夫はゆっくりと瞬きした。
「…おかしなやつだ」
くつくつと喉を鳴らして笑いなが呆れる文若に、花は身を縮こまらせるばかりだった。
(2011.6.8)
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