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「ぴろーとーく」とのお題でした。参加、ほんとうにありがとうございました。お心にかなうものでありますように。
寝床に身を滑り込ませると、思ったより冷たくはなかった。家人が足もとに焼いた石をよくくるんで入れておいてくれたらしい。花はちょっと肩の力を抜いた。そのさまに、先に寝床にいた文若が小さく微笑った。花は夫を見て肩を竦めた。
「ごめんなさい」
文若は読んでいた簡をざらりと畳んで小机に置き、花の手を取って自身に引き寄せた。最初はこんなことも無かったのに、自分が素直に彼に寄り添えるようになったころ、彼もこういうことをためらいなくするようになった。
「なぜ謝る」
彼の声が頭上で聞こえる。こういう距離で聞く彼の声は好きだ。厳めしい表情にふさわしい声とよく言われているけれど、みんな見てくれに惑わされている。声だけ聞いていればとても甘い。自分の気のせいではなくて、孟徳も、部品はいいのになあとからかっていた。
「えっと…いつまでも慣れなくて…かもしれません」
「暑いのが平気なものが居るように、寒いのが苦手なものも居るというだけだ。」
「そうですか?」
「ああ。」
花は小さく息をついた。
「薬師のおじいさんに、体を温める食べ物についてもっと聞いてきます。」
「…それはいいが、昼間に食べていた…あれはなかなか付き合えんぞ」
食事に難を言うことの珍しい文若が言いにくそうにしたので、花は彼を仰ぎ見て微笑んだ。まだ落とさない灯りが頬を青く見せている。
「生姜のはちみつ漬けでしたっけ?」
「ああ。確かに体は温まるのだろう、そんな気はした」
干し芋のような外見だから好まないのかと思う。
「でも文若さん、生姜を入れた汁物とかは好きですよね? 今日の夕ご飯だってけっこう入ってましたよ。あのお肉おいしかったですね!」
彼は困った顔をした。
「そうだが…あれは、ちょっとな」
「そうですか」
「甘いのか辛いのかわからん」
花は彼をしげしげと見て、笑み崩れた。
「男のひとってそういうものですか?」
「どういう意味だ」
「だって、孟徳さんも同じこと言ったんです。まあ孟徳さんはわたしの大事なおやつをつまみぐいしたので、変な顔をしていい気味、と思ったんですけど」
「これ」
「食べ物の恨みは深いんです」
つんと顔をそむけてみせると、彼が少し笑ったようだった。
「怒るな」
「だって」
「可愛いだけだぞ」
言われ慣れない言葉に全身が沸騰した。
「文若さん!」
彼の唇が額に触れた。
「たいへん不本意だがあの方が言われる言葉が納得できる」
抱き寄せられている、一般的には甘いはずの状況で一句一句、苦虫を潰すように言うので、花は照れくささ半分で笑ってしまった。下ろしている彼の髪をひとすじ、弾く。
「文若さんがそんなことを言ったら、酔っているのかと思います」
「…お前は」
深い深いため息のあと、唇がさらうように塞がれる。至近距離の目はとても甘い。ほんとうにそういう時の目はとろりとしていると人ごとのように思う。
「わたしは酔わぬとこんなことを言わぬと思っているな?」
声までも剣呑に掠れている。
「えーと…酔っても言わない、ですか、ね?」
ふん、と彼がさらに笑みを深めた。
「では、たまには違うことを試みてみようか」
「こ、これから、ですか?」
「そうだ。…無論」
その唇が獣のように笑っただけだったので、花もきゅっと目を閉じた。唇がいつもより熱いと感じたあとはただ、肌を辿る手に酔うのが幸せに感じた。
(2012.12.26)
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