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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 文若さんと花ちゃん。ですが、孟徳さんが出まくり…であります。
 そこはかとなくPSPスペシャルを踏まえてます。




 華やかな笑い声が遠くから聞こえ、孟徳は顔を上げた。ぐるりと顔をめぐらすが視界には厳めしい顔しか見いだせない。東屋のある場所は瑞々しい緑に囲まれているからか、その顔は否が応にも武骨に見える。孟徳はくるりと手を回した。
 「まあお前はいつもごついけどな」
 「…何の話だ」
 元譲が寄りかかっていた柱から身を起こした。孟徳はわざとらしくため息をついた。
 「つまらん」
 「孟徳」
 「うるさいな、休憩なんだからいいだろ」
 「だがな」
 「お前がいるのだって譲歩したんだ。これ以上何か言うなら本気で逃亡するぞ」
 元譲はむっつりと腕組みして黙った。孟徳がかなり真剣に隠れて休んでいたのが短期間に三回あったので、有能な官たちは手加減の域を越えたらしい。いつもの如く見張りという名の護衛役が元譲に押しつけられた。
 笑い声はひそやかに続いている。孟徳はそちらを見た。深い緑陰の向こうは見慣れた職務が待っているはずなのに、なぜかそこには見たこともない柔らかな世界があるような気がした。その中に聞き覚えのある声が混じっているからだろう。
 その時、茂みが鳴る音がして元譲が素早く立ちあがった。孟徳は緩慢にそちらを見ると、茂みからちいさな影が飛び出してきた。
 「あれ? 花ちゃん?」
 淡い橙の衣を着た花が立ちすくんでいる。彼女は大きな目を見張ってふたりを見比べ、勢いよく頭を下げた。
 「ごめんなさい! 失礼しました!」
 「ああ、待って」
 立ち上がった孟徳は東屋から走り出た。頭の隅で、さっきまでのだるさはどこへ行ったのだろうと思う。孟徳に腕を掴まれた花は、まだ驚いた顔のまま彼を振り仰いだ。
 「ごめんなさい、休憩してるのに」
 「花ちゃんなら邪魔していいよ。どうしたの?」
 花が答えるより先に、ふにゃあ、と間の抜けた声が聞こえた。花の腕の中に、毛玉にしか見えない仔猫がいる。孟徳がそれを覗き込むと、花は優しい目になってそれをそっとかかげた。
 「いつも来てる猫さんの子どもらしいです。侍女さんが子どもを産んでるのを見つけて、でも一匹は死んでたそうなんです。これから寒くなるでしょう? どこかの隅に寝床を作っていいかって文若さんに聞こうと思って」
 花が撫でる人差し指に、その毛玉はまとわりついている。
 「文若は?」
 「なんだか、朝から忙しく簡のやりとりをしていたところと、直接会わなければ話にならないと言って出て行きました。戻るまで休んでいるようにって言われました」
 「それで、どうしてここに来たの?」
 「どこの隅なら邪魔にならないかなと思ってさがしてました」
 「ここに来たのが最初?」
 「はい」
 孟徳は苦笑した。
 「文若が、探してきていいって言った?」
 花は目を泳がせた。
 「いえ、そういう場所を見つけてから言おうと思ったんですけど…」
 語尾が不安そうに途切れた。かわいい娘の世話だけでなく、縁もゆかりもない仔猫の世話も相談される文若を想像するとおかしかった。できることならそのさまをどこかから見ていたい。きっと存分に気がまぎれるだろう。
 孟徳はしかつめらしく腕を組んだ。花がとたんに神妙な表情を浮かべる。
 「まあうちは猫の食糧くらい都合できないことはないけどね。花ちゃん、こいつがとても気になってるんだね?」
 花が瞬きしてちょっと考えるような顔をした。
 「はい、だからさがしてるんです…けど…」
 孟徳はだんだんうなだれて行く花の腕の中から猫をつまみあげた。にぃにぃと、いかにも弱そうな泣き声のそれをつくづくと眺める。
 「なんでこういうのが好きかな、女の子って」
 「可愛い…からだと思いますけど」
 「まあ鼠も獲るけどさ。」
 今にも孟徳から取り返しそうな、はらはらした表情をうかべた花に苦笑する。
 「花ちゃん、まるで子どもを心配するお母さんだね」
 「お、おかあさん!?」
 花が紅潮した頬を両手で挟んだ。
 「うん、お・母・さん。おかあさんー」
 「もうっ、何回も言わないでください!」
 「文若の前でも呼んじゃおうかなー。おかあさーん」
 「止めて止めて孟徳さん! なんか恥ずかしいです!」
 孟徳は笑いながら元譲のほうに手を伸ばした。条件反射だろう、とっさに手を出したその大きな手に猫を落とす。
 「元譲がそういうのが上手な侍女を探してくれるよ」
 「孟徳!」
 「本当ですか!」
 声が重なって花が首を竦める。
 「ごめんなさい、元譲さんはそういうのの係ってわけじゃないのに。やっぱり、侍女さんに聞いてみます」
 「まあまあ花ちゃん、こいつのほうがここに居る時間は長いんだし、こうみえて侍女には人気があるから任せたほうがいいよ」
 言いながら横目で見れば、もうすっかり諦めた顔の元譲の指に仔猫が噛みついている。
 「ほら、早く帰らないと休憩時間が終わっちゃうんじゃない?」
 孟徳の言葉に花は申し訳なさそうに眉尻を下げ、元譲の掌でもはや懐いているような仔猫の様子を見て、深く頭を下げた。
 「元譲さん、申し訳ありませんけどお願いします。本当にすみません」
 「…もういい、気にするな」
 唸るように元譲が言った。
 振り返り振り返りしながら花が茂みの向こうに姿を消すと、孟徳は大きく伸びをした。
 「さーて、いつ切り出すかな」
 「なんだ?」
 「花ちゃんをおかあさん、って呼んでみるのさ。もちろん、文若のいるところでな」
 「…悪趣味だ」
 「宴を開くのを大反対されたんだ、これくらいはいいだろう」
 「お前の判断基準が分からん」
 「楽しみだ!」
 清々と見上げた空は抜けるように青かった。


(2012.9.7)

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