二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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文若さんと花ちゃんですが、孟徳さん出ずっぱり…どこまでも出ずっぱりであります。
簡を読んでいる花を見ながら、孟徳は茶を口にした。彼女を見つめるのに夢中で、それはもうぬるくなっている。
文若の館の桂花が名残の時分だと今朝、思いついた。頃合いを見計らって抜け出してきてみれば、一ヶ月ぶりに会う花は少しやつれたように見えた。悪阻が重いのだろうか。語りたがらない文若をせっつくのも面倒で来てしまった。出来心というやつだ、と悪びれなく彼は思う。
花が顔を上げて孟徳を見た。にこりと笑う。
「どうかしましたか?」
「花ちゃんが可愛いなーって」
前と変わらぬ口調で言えば、花は赤くなりながらもより可笑しそうに笑った。
「本当に変わらないですね、孟徳さん」
「一ヶ月やそこらで変わらないよ俺は」
「それじゃあわたしだって」
「花ちゃんは変わったよ。」
揶揄するように言えば、花は顔を紅くした。
「だってお母さんになるんですから」
あとは、決まり悪そうに簡を指先で撫でている。
孟徳にも子が居る。別邸の誰それに子どもができたと報告を受け、大事にしろと人づてに言い、生まれれば祝いを述べる。決まり切ったやりとりに、特に感慨はない。生まれた時はともかく、育つならばその行く末を見極めなければならない。そういう意味で幼子は正しく手駒だ。
彼女とて、自分の重臣の子を産むはずだから同じこと…そのはずだ。しかし、そんなことを忘れてあけすけに騒ぐのは、やはり彼女の子だからだ。
何処かから来た珍しい娘。この娘が来てから、良くも悪くも退屈したことがない。あとはゆるゆると定めた道を歩いて行くだけだと思っていたし、おおむねその通りになってはきているが、急に楽しくなった。
「孟徳さん、そろそろお仕事に戻らないと」
遠慮がちに言う花に、孟徳はただにこにこと笑ってみせた。
「花ちゃんって前から可愛かったけど、子どもができたら可愛さの質が変わってきたよね。」
強引に変えられた話題に、花がまるで夫のように眉間に皺を寄せた。
「孟徳さんだけです、わたしにそんなこと言うの」
「文若は可愛いって言わないんだ。まあ、言わなそうだけど」
花は頬に手を当てた。
「いえ。あります」
花は簡をとんと卓に置いて真剣な眼差しになった。
「可愛いっていうよりは、愛らしい、って言われます。…でも自分的にはちょっと不満です。」
「褒められるのが?」
「愛らしい、って言われると文若さんの妹にでもなった気がして。ちょっとずるいです」
孟徳は瞬きし、くすりと笑った。
「花ちゃん、意外に独占欲が強いねえ」
「孟徳さんに言われたくないです」
つん、と花は唇を尖らせた。孟徳は思わず笑った。唇を尖らせたまま、花は簡をこね回した。
「駄目なんです。わたし、文若さんの神様になってもきっと、もっともっと、って思うに違いありません…過去も未来も、文若さんが必要だって思うのが自分であればいいなんて、すごく酷いです」
孟徳は瞬きして、微笑んだ。
「文若は、もっとそう思ってるんじゃない?」
「そうでしょうか…あ、いえ、いいんです、忘れてください。」
慌てた彼女が小さく振る手を、そっと掴まえる。
「だって君は、文若には思いがまるで及ばない土地から来たんだもの。あいつこそ、花ちゃんの神様になりたいって思ってる」
自分の手のひらを外れては生存できない柔らかい魂が居る、と感じることの愉悦。
花は目を丸くしてから、可笑しそうに笑い出した。
「文若さんはわたしのご主人さまですよ。それだけです。だからわたしも、文若さんの奥さんでいるだけなんです。」
(…こういう娘だよな)
どんなに泣いてもその目の曇りは自らで払おうとする。芳しい霧で視界を満たしてやっても、その向こうを見ようとする。…手の掛かる、けれどそうでなければ惹かれない。
「敵わない」
呟きは、彼女の耳に届かなかったようだ。小首を傾げる花になんでもないと片手を振ると、娘は簡に意識を戻した。そのまま集中していく様子だ。
孟徳は手元に散らばった簡に指を伸ばした。どうせ彼女が読む詩なら、彼女とその子を言祝ぐものにしよう。彼は浮き浮きと筆を滑らせた。
(2011.1.17)
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