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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 早安くんと花ちゃんです。


 


 騒々しい声が表通りを駆けて行く。その声に顔を上げた花は、籠を持って立ちあがった。かがんでいた腰が痛い。早安が診察しているあいだ、干してあった薬草をすべて取り込まなければいけない。今日は晴れていたから、かなりの量を干した。ただ干せばいいというものではなく、鳥や犬や猫など、そういうものにいたずらをするものからも守らなければならない。干場の周囲に糸を張り巡らせ、それにさわると音が鳴るおもちゃをめぐらしたので、鳥は減った。それでもひとがいるのにはかなわないので、花は外の日陰で、見よう見まねでござを編んでいた。
 見ているだけなら簡単なござ編みも、うまく力がこめられないとすぐゆるんでばらける。けが人や病人を寝かせることの多いこの家は、少しでも予備があったほうがいい。花は、もとの世界のござを思い出してはきつく編もうとするのだが、不必要に力が加わると今度は不格好に波打って寝にくいのだ。機械ってすごい、と花は何度目になるか分からない驚きをもって、もとの世界をおもった。
 その時かるい足音が聞こえてきた。
 「花ちゃん」
 近所の娘がひょいと顔を出した。
 「どうしたの、廉ちゃん」
 「珍しいものをそろえた商人が来たんだって。一緒に行かない?」
 「めずらしいものって…」
 「都で流行ってる布とか紅とかあるかも。ね、見るだけでも行こうよ。」
 ふだんから色々と工夫して素朴ながらもおしゃれを怠らない彼女は、わくわくした顔をしている。花も、都、という、しばらく忘れていた言葉に目を細めた。彼女が知るきらびやかな場所とは孟徳の城であり、仲謀の城だ。あそこはたしかに輝いたものがたくさんあった。…同じくらいこわいこともあったけれど。
 「早安に聞いてくるから、先に行ってて」
 「うん。じゃあまたね!」
 いったい、どんなきれいなものを持ってきたのだろう。花は籠をかかえなおして家に入った。
 早安は花が入ってきたのに気付いて顔をあげた。彼の手元にはさっきまで花が干していた草がきれいに束ねられて選別されている。患者は帰ったようだった。
 「だれか来てたのか」
 「うん。廉ちゃんがね、珍しい商人が来たから見に行かないか、って」
 早安の肩が僅かに緊張した。彼は、見知らぬ者が来るとすうっと鎮まる。いつも見ている彼が奥に引っ込んで、以前は見慣れていた油断のない姿が、水面を透かしてみる魚のように見える。
 外の情報をもたらしてくれるひとは嬉しい。でも、彼のこういう姿をみるたびに、いつ彼はこういった警戒を解くのだろうと思う。
 「行こう」
 「いいの?」
 「ああ。それで最後か?」
 「うん」
 早安は立ち上がると花の手から籠を受け取った。さっきまで束ねていたものと違い、箱に入れて鍵をかける。花がけげんそうにしたのを見てとり、彼はうっすら微笑した。
 「これは高価だからな」
 「そうなの?」
 「ああ。いい場所を見つけた。」
 そういう彼の顔が純粋に嬉しそうで、花も笑った。
 「良かったね」
 「ああ。…なにかほしいものがあるのか?」
 出かける支度をしながら聞かれ、花は首をかしげた。
 「うーん…けっこう、野菜とかお肉とかは採ってくる薬草と引き換えでもらえることが多いものね。塩もこのあいだ早安に買ってきてもらったし。古着のいいのがあれば、というのと、鍋がもうちょっとで穴があきそうって思うけど、いそがないよ」
 うっかり天気が悪い日が続くと洗濯もままならないから、衣や下着は多いほうがいい。それに、病気のひとを見るがわがそう垢じみてもいられない。調理器具もここへ来たときに近所のひとから古いものをもらったものなので、新品はひとつもなかった。
 「じゃあ、そういうのを持ってきていたら見るか。」
 「そうだね」
 早安がごく自然に差し出した手を握り返す。花はつい、笑った。彼が瞬きする。
 「どうした」
 「ううん、いつもは籠を背負ってたり、釣りにいく道具を持ったりしてるから、ただ手をつないで出かけるのって珍しいなって思ったの。」
 早安は少しの間、考えるような眼をした。そして、ああ、と小さく頷いた。
 「別にここは足場が危ないわけじゃないしな」
 「でしょ?」
 「でもまあ」
 彼は可笑しそうに笑んだ。
 「花が駆けださないように押さえておかないと。珍しいものを見たら突撃するだろ」
 「…茸とか木の実じゃないんだから…」
 「そうか」
 さも楽しそうに笑い続ける彼に花はふくれっ面を浮かべていたが、じきに肩の力を抜いた。早安の手を引く。
 「行こうよ」
 「ああ」
 彼が素直に手を引かれてくれるようになるまで突撃したといえばそう言えなくもない。それなら、悪いことばかりでもないだろう。
 角を曲がると、もう人だかりがあった。大きめの馬車が見える。振り返ると早安が笑って頷いた。…うん、全然悪くない。花は笑み返してまた歩き出した。



(2012.9.13)

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