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ファッションやアクセサリーのことは、詳しくない。だから困ったのも本当だ。
きっかけは、広生が持っているキーホルダーが子どもっぽいと彼の兄に言われたことだった。むかし兄にもらったものだし、それなりに大事にしていたというが、言いだしたのが当の兄だと聞いたので、見ているほうは照れ臭かったのかもしれない。
そこで彼は買いに行くのに花を誘った。
その意味は鈍い鈍いと友人にからかわれる花でも分かる。自分だってこういう時は、広生の選んだものを持ってみたいと思うだろう。頷くと彼はそれは嬉しそうに照れくさそうに微笑った。その表情だけで、一緒にいることを喜んでいるのが分かるのであんまり嬉しいと思う。
目的地に駅前の大きなファッションビルを選んだのに、さして深い意味はない。ここなら、選んでもらったあとにコーヒーショップに寄っておしゃべりできるかもという期待だ。
だが、望みのものを扱っている店がこんなにたくさんあるとは。雑貨の店ばかりではなく、鞄や、服を置いている店にも少しづつそういう小物があって、花は驚いた。女子ものだったら知っているつもりだったが、男子ものは難しい。しかし、かな達に相談したらおおごとになるからきちんと自分でやらなければ。
いま彼女が見ているのは、シルバーアクセサリの店だ。鷲や羽などのナチュラルだが勇ましいモチーフのものが多い。流行りらしい髑髏モチーフもあったが、それは選ぶ気がしない。
花の手には少しごつい、革ひもを編んだキーホルダーは、付け根にはシルバーの台座に嵌った目の覚めるような空色の石があしらわれていた。その色にひかれて手に取ったのだが、ちらと値札を返すと、やはりそれなりの値段がする。ため息をついた花がそれを棚に戻しながら広生を見ると、彼は少し気まり悪そうに笑った。
「似合うと思ったんだけど」
広生はちょっと目を細めた。花は慌てた。
「あ、でも、ああいう大きいのは好きじゃない?」
「そうだな…ポケットでは邪魔になるかもしれない。」
「そっかあ。男のひとっていつも鞄を持ったりしないもんね」
「女子よりは、な」
「そうだよねー」
花は人差し指を唇にあてて考えながら、置かれているキーホルダーを眺めた。
広生には何だって似合うと思うけれど、こういうのってほんとうに難しいんだなと改めて分かる。自分の好きなものばかりではいけない。流行りというだけでも違う。恋の好きな友人はいったいどうしているのだろう。
広生の手がするりと自分の手に絡んで、花ははっとした。彼が気遣わしそうに笑いかけている。
「ごめんね、疲れた?」
「いや、別に」
「いっぱい見たから目が疲れてるんじゃない?」
「いや、別に。お前を見ているから気にならない」
自分の目が丸くなったのが分かる。微笑んでいるままの彼から、恐ろしい勢いで目を逸らす。
「広生くんってば」
「誰も聞いていない」
「わたしが聞いてるもん」
「花は聞いていてくれないと困る」
花は地団駄したくなったが身を縮めて耐えた。そのかわりに、広生の手を解いて、もういちどさっきのキーホルダーを見た。
「思ったんだけど」
「ん?」
「今まで見た中でどれが好みだった?」
「俺は花に選んでほしい」
「参考だよう」
広生が眼鏡を押し上げた。
「…ちょっと休憩するか?」
「うう」
花は上目遣いで広生を睨んだ。容赦ないんだから、と思う。ふと、彼が頼りなさそうにちょっと笑った。
「難しいこと言ってるか?」
花は慌てて首を横に振った。苦労してるだなんて思わせたくない。
「広生くんには似合うものがいっぱいあるんだよ」
彼が、物わかりのいい笑みを浮かべた。とても年上のようなそれが、これからとあの「過去」の彼を思わせた。その笑みのまま彼は言った。
「俺も選んだら使ってくれるか?」
体じゅうがぱっと熱くなった。
「うん! 使う使う」
「ペアにするか」
「…あからさまなのはちょっと嫌かなあ」
「じゃあこれは?」
「あ、きれい」
彼が示した、華奢なシルバーのものを見て思わず言うと、広生が嬉しそうに笑う。ああ、こうして話していけばいいんだと花は思った。彼が見ている自分に驚くこともたくさんあるだろう。だって自分たちは、「雲長」ではない彼と自分は始まったところだから。
自然と指先が彼を求める。同じように伸ばされた彼の手と触れあう。とても彼は見れなかったけれど、唇が押さえきれずに微笑んだ。
(2012.12.6)
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