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「こうきんくんと花ちゃん」とのことでしたので、ぷらんつ公瑾くんの番外編で。9.5、というか9.75くらい?
パラレルですので、お嫌いな方はご覧にならないよう、お願いします。
リクエストいただいたものは、すべて終了しました。ご協力ありがとうございました。一端でもお気に召して頂いたら嬉しいです。
公瑾がにこにこと抱きついてくる。
それはもうすっかり日常になった。花だって、押し返したりしない。…でも、今日は。
「おもいよ公瑾くん…」
花は間近の彼を見返し、ため息をついた。彼が小首を傾げる。愛らしいのだけれど。
「おなじ背丈でなかったらねえ…」
花は、小さくなった自分の手を見て、ため息をついた。公瑾がその手に自分の手を重ねてにこ、と笑う。花はまた、息をついた。
「どうしてこんな、ファンタジーなことがおこるのかな? きのう、公瑾くんがいたお店に行ったせい? おんなじ観用人形のミルクを飲んだせい?」
朝、目が覚めたときには、花の体は縮んでいた。パニックを起こして動けないでいる花に、まるでふだんどおりに公瑾は抱きついてきた。おかげで押しつぶされそうになったのだが。
花がひとこと言うごとに、公瑾のちいさい頭が左右にことん、ことんと振られる。
「お店のひと、観用人形のミルクは栄養価が高いだけで人間がのんでもかまわないって言ったのになあ。変だよねえ」
公瑾はまた、ぎゅ、と抱きついてきた。大きかったら抱きしめ返してもあげられるが、ちいさい腕では背に回らない。花は頬を膨らませた。
「公瑾くんってば。わかってる? わたしがこんなにちいさいままだと、公瑾くんとおでかけできないし、ミルクだってあっためてあげられないよ」
高校生の背丈に合わせて配置された家具や作り付けのコンロや電子レンジは、いまの花には手が届きにくい。いつもは小さいと思っていたフライパンだって手に余る。なるほど、子ども用のキッチンツールが売れるはずだ。自分用には買い置きのお菓子があるけど、彼に食べさせるわけにいかない。花は公瑾を見た。
「明日になっても治らなかったら、しかたないから、おじさまのところにお世話になろうね。公瑾くんのミルクも、わたしの食事も食べられなくなっちゃう」
花は、自分のぶかぶかのパジャマと、パジャマのままの公瑾を見てまたため息をついた。その時、急に、公瑾が笑みを消して眉根をきつく寄せた。どうしたのと聞くより先に、それが大人の男のようで花ははっとした。
かなや彩は、育ったらきっとわくわくするような美形になるよ、困るような美形になるわよとふたりながらの表現で言った。けれどいま見たのは、ただの憧れや興味で引き替えていいような顔ではなかったように思う。
彼は、あるじを失ってあの店に戻された。遺族が戻した、と言っていたような気がする。そのひとたちは、彼の以前の状況を知っているかもしれない。
考え込んでいた花の頬に、ふ、と唇が触れた。顔を上げると公瑾が笑っている。いつもの、天使のよう、という表現がぴったりな表情に戻っている。
「なあに?」
花がそっと呼ぶと、公瑾はいっそう笑った。その頬に手を滑らすと、指を握り返される。いつものふれあいだったけれど、その時は、じかに心臓に触れられた気がした。
…わたしは、彼をどうしたいんだろう。
回りきらない腕を彼の体に回そうとすると、また、のしかかるように抱きついてくる。そんな彼に笑い声を上げながら花は一緒に床に寝転がった。くすくす、という楽しげな息が耳をくすぐる。
彼を知りたい。もっともっと彼を知ったら、彼のためにいちばんいい判断ができるはず。
(観用人形じゃない彼を知りたい)
花は瞬きした。ここにいるのは人形なのに、どうしてそんな言葉が浮かんだんだろう。
「公瑾くん」
はな、と息が応える。それがあったかい、とふいに思った。人形の体温なのに。
公瑾を失うような決断だけは、するまい。花はいつもより頼りなく細い自分の腕にいっぱいの力を込めて、彼を抱きしめた。
(続。)
(2012.8.5)
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