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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 …あるところに。
 古い町屋を改造した甘味処がありまして、そこに笑顔の明るい女子高生がおりました。
 娘は、姉とその夫と暮らしておりましたが、姉が急な病で亡くなり、いまは義理の兄とふたりで甘味処を営んでおります。
 日々ちょっかいを出してくるご近所さんに戸惑いつつ、バイトのクラスメイトと頑張っております。

 
 …といったテイストが大丈夫な方のみ、お入りください。
 もしかして続いたら、家庭教師な兄いとか、クラスメイトな王子とか、いじわるな糸目の先輩とか、出て来る予定であります…が、案の定、予定は未定でありますごめんなさい。
 
 
 というか、今年最後の更新がこういう話って、どんだけダメなひとなんだろうワタシ…
 
 
 



 
 
 
 古い木の戸が開き、吊してあった店の風鈴が外の熱気にちりり、と鳴った。花が特に気に入って、旅先で姉夫婦に買ってきたものだ。澄んだ音色だが耳に柔らかく、よく通る。その姉が亡くなってからも夫の文若はそれを大事にしていた。
 花は振り返り、笑顔を浮かべた。
 「いらっしゃいませ、こんにちわ」
 同じように顔を上げた芙蓉が顔をしかめる。
 「ちょっと芙蓉ちゃん、客にその顔はないんじゃない?」
 入ってきた孟徳がひらりと手を振った。着道楽を自認しているだけのことはあって、地味に見えるが趣味のいい上布を着ている。芙蓉は華やかな、客向けの笑顔を浮かべた。
 「いいえ、センセイのお仕事を心配しているだけですわ。まあよくも毎日毎日こちらにおいでになって、執筆活動が進みますわね?」
 「頭脳には甘い物が必須だからねー、この甘味屋に来ないと進まないんだよん」
 だよんじゃないわよ、と芙蓉が小声で毒づいた。花は芙蓉の背を軽く叩き、孟徳に改めて笑顔を向けた。
 「今日は遅かったですね。さっき元譲さんが走って行きましたけど締め切りですか?」
 「ああやっぱり花ちゃんは気にしてくれるんだねー。そうなんだよ、あのいかつい顔に睨まれてる俺って、ホントに可愛そうだよねえ。」
 「メールもネットも進化したこの時代に、編集者をわざわざ家まで来させるセンセイって貴重ですね」
 「芙蓉ちゃん厳しいねえ。だって俺、締め切りが迫らないとできないから」
 芙蓉に笑いかけながら、するりと花に近づいた孟徳の間に、襷を掛けた着物姿の文若が割り込んだ。じろりと孟徳を睨む。笑顔がいちだんと深くなる孟徳に、文若の眉間の皺が深くなる。
 「…お義兄ちゃん」
 花がおずおず袖を掴むと、文若は短くため息をついて身を退いた。
 孟徳はいつもの席に座ると花を見上げて人差し指を立て、あんみつ、と明るく言った。花はくすりと笑った。
 「生クリーム多め、ですね」
 「そう、俺特製ね。」
 「あんみつひとつ、生クリーム多めです」
 花が文若に声を掛けると、彼は不機嫌そうな表情のまま頷いて厨房に引っ込んだ。芙蓉がたん、と孟徳の前に濃い茶を置いた。この店は今日のような真夏でも熱い緑茶を出す。
 孟徳は頬杖をついて花を見上げた。
 「花ちゃん、俺の締め切りも終わったことだしデートしよ?」
 「花もわたしも夏休みですの、びっちり働いております」
 芙蓉がぴしりと言った。お盆を武器のように胸元に握りしめている。
 「明日はこの店は定休日じゃない。いいよね、一日くらい一緒にデートしようよ。着物に白いエプロンの、ここの制服な花ちゃんももちろん可愛いけどさ、流行りのふわふわなワンピース着てさあ、白い帽子被って。」
 「明日も猛暑です」
 「もちろん日が照りつけるようなところには行かないよ、花ちゃんは日焼けをしても可愛いと思うけどそこは俺の好み。ほら、これ、観たいって言ってた美術展。」
 孟徳が机に滑らせたのは、確かに花が見たいと言った絵画展のチケットだった。画集でずっと憧れていた聖母子像が日本で初公開されるとかで、CMも大々的に流されている。顔を輝かせた花を見て芙蓉がため息をついた。
 「はーな?」
 「もちろん昼間だし門限までに帰す。それならいいよなあ、文若ー?」
 あんみつの入った漆椀をテーブルにまで持ってきた文若が、音を立ててそれを置いた。孟徳は気にした様子もなく、花の差し出す木のスプーンで美味しそうに食べ始める。
 「お義兄ちゃん、行って来ていい?」
 既にチケットを胸に抱いている花に、文若は深いため息をついた。
 「行きたいと言っていたから、仕方ない」
 「わあ、ありがとう!」
 花は盆を頭上に上げて文若に満面の笑みを向けた。彼がさっと目元に紅を刷いて素っ気なく頷く。それを上目遣いで見ていた孟徳は、深い息をついた。
 「文若はずるいよなー」
 花は孟徳をきょとんと見下ろした。彼はへらりと笑って、行儀悪く木のスプーンを振って見せた。
 「なんでもない。…じゃ、明日は迎えに来るね」
 「はい!」
 浮き浮きと厨房に引っ込む花の後ろ姿を見て、孟徳は文若をじろりと見上げた。
 「つくづく、お前はずるい」
 「そのように言われる筋合いはない」
 「お前の作る甘味が美味いのもずるい」
 「…それは、受け取っておく」
 身を返した文若を、孟徳は目を眇めて見やった。
 
 
 
(2010.12.27)

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