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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 続いています、現代パラレル・文若さんと恋仲の花ちゃんです。
(2014.12改題)






 車の中は重い空気だった。
 低く聞こえているFMからはイベント情報が流れている。どこのクリスマスイルミネーションがきれいだとか、夜景の穴場はどこだとか。機会があればそういうところに行きたいとねだってみたいのに、彼は黙って車を走らせているだけで、非常に話しかけづらい。せっかくのデートなんだけどなと花は膝に置いたマフラーを撫でた。彼のほうから、夕方に待ち合わせしたいとメールをくれたから、急いで学校を出てきた。この時期は、コートさえ着てしまえば制服が隠れるので、とてもありがたい。
 週末の高速道路は混んでいた。車は緩やかな加速と小さな渋滞を繰り返し、西へ向かっている。夕焼けが近く、色あせ始めた空にぼやけた飛行機雲が見えた。この高速道路を走ると、花はいつも母が歌う歌を思い出す。母が若いころ流行ったというその歌はとらえどころのない憧ればかりで微妙と思うけれど、この道が素敵なデートに続いていると歌う旋律は好きだった。
 車がスピードを落とした。また、車の流れが少し悪くなったようだ。ふいに彼が大きくため息をついて、花はびくっと彼を見た。彼も驚いたように彼女を見返し、すまなそうに眉を下げた。
 「済まない」
 花は、分からないながらも首を振った。
 「いえ…あの、どうかしたんですか」
 彼はハンドルを握り直した。
 「悪かった」
 花は首を傾げた。彼の発言はただでさえ非常にセンテンスが短くて追いつかない時があるのに、今のはさっぱり分からない。
 「あれに、お前のことを教えた」
 言いにくそうに彼は言った。
 「あれ?」
 「お前も、このあいだ会っただろう。本屋で会ったと言っていたが」
 ああ…と花は大きく頷いた。あの、ファッション雑誌から出てきたようなスタイルの人か。そういえばこの前、学校帰りにその人に声を掛けられて驚いていたら文若も現れてもっと驚いた。あの後は文若に会う機会がなくて、聞けずにいたのだった。
 「あのひとが、どうかしたんですか? というか、誰ですか?」
 「あれは、わたしの同僚だ。お前のことを教えろと言って聞かん。」
 「あの、何か、迷惑でしたか?」
 「お前のことをひどく気にしていた」
 かみ合わない返答とともに、車は急に加速した。大型トラックを何台か抜き去ると、車はまた穏やかな走りに戻った。飛行機雲はもう見えない。
 「文若さん」
 「あれは、女好きだ」
 彼の口から、まるで彼に似つかわしくない言葉が出た。彼はそんなふうに人を批評することの少ないので、花は素直に驚いた。
 「はあ」
 どう相槌を打っていいか分からず、花はあいまいに返事をした。文若は、不審そうな目でこちらをちらと見た。
 「お前に対してはそうではなかったか」
 「うーん…確かに、モテそうでした」
 自分だって、警戒心がないわけではない。でも、初対面の女子高生と普通に会話できて、悪い気を起こさせないのはテクニックというやつかもしれない。それこそ、ただの女子高生には及びもつかない才能だ。
 「…そうか」
 「そういえば、あのとき買った本を持ってきたんです。文若さん、続きが出たら見たいって言ってましたよね。あとで渡しますね」
 「…ああ」
 車が減速した。高速道路を下りるレーンに入る。
 「どこに行くんですか?」
 彼はわずかに目を細めた。
 「この先の街に、今年からはじめたイルミネーションがあるそうだ。規模はそう大きくないがいいものらしい。電車だと歩くからな」
 そんな情報、さっきのFMでも、花が見たイルミネーション特集にも無かった。調べてくれたのだろうか。それとも、さっきから話題になっている「あのひと」の情報だろうか。
 「楽しみです」
 いや、とかなんとか、彼は口の中でだけ言った。
 一般道は、夕方のラッシュが始まっていた。歩道は人や自転車で溢れている。あっという間に暮れた景色の中で、純白のコートを着た背の高い女性が滑るように歩いていく。これから塾だろうか、自転車の小学生が固まって横断歩道を渡っていく。
 「文若さん」
 花は外を見たまま言った。対向車のヘッドライトが眩しい。
 「なんだ」
 「わたしのこと、話したんですか?」
 「…いや」
 「ちゃんと、彼女だって言ってくれるなら、あのひとにわたしのことを言ってもいいです、よ。」
 というか、言ってほしい。わたしは、あなたの恋人だと思うといつも、羞恥と嬉しさで舞い上がりそうになる。からかわれるのが嫌だから言いふらしたいとは思わないけれど、それでも、言っていい時もあるんじゃないだろうか。それとも、そんな独占欲は、ありませんか?
 FMの音が急に大きくなった気がする。
 しばらくして、そうする、という呟きが聞こえた。花が振り返ると、彼の横顔は微笑していた。
 車が滑らかに動き出す。夕ご飯は楽しく食べられそうだな、と花は心から安堵した。


(2014.12.15)

 

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