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現代パラレル・文若さんと恋仲の花ちゃんです。
今回は、彩ちゃんとかなちゃんと、一緒です。
何か考えながらシャープペンを走らす花の頬に、西日が当たっている。
放課後の図書室は、三日前にテストが終わったばかりで閑散としていた。差し込む日差しにきらきら光っているホコリがゆっくり舞うのを目で追えるくらい、人がいない。奥の棚では、図書委員が本を並べなおしていて、遠慮がちな物音と、時々くすくす笑いが聞こえる。そんなゆったりしたい時間に、わたしたちのクラスは課題を出されて、そんな図書室に来るはめになった。
「さーんごくしってなんだろう。そこからだよー」
いかにもやる気なさげに机に突っ伏している かな が、だるそうに言った。
「さっき、誰でもわかる! みたいな本を見つけたでしょ。最初の時代とかそういうところの解説は自分がやるって言ったんだからね」
「だーけどー」
構って欲しいふうに呟いたかなは、花の顔とノートのあいだにぱっと手を差し入れた。花が驚いて顔を起こす。きょとんとした顔は子どもみたいだ。
「こら、かな」
「花ってば早いー」
花は照れ笑いを浮かべた。
「ごめんね…約束、あるから」
「デート!?」
かなの顔が輝く。なんでこの子は、こんなに他人の恋が好きなんだろう。間違えた、自分の恋も好きだ。大がいっぱい付くくらい、好きだ。
「ううん、広生くんにレシピ貰いにいくの。ケータイでURL貰ってもいいんだけど見難いだろうからって、プリントしたものをくれるって言ってくれたから、お礼にコーヒーをおごることになったんだ」
花は、駅前の大型コーヒーチェーン店の名前を挙げた。あそこなら値段もふつうだし、おごるとしても財布の負担にはならない。選んだのがどちらか知らないが、彼だったらずいぶんそつがないなと思う。
広生くん、と呼ばれた彼は知っている。容姿は良く成績は抜群で、女子にそっけないくせに告白される数は多いという、漫画みたいな男子だ。料理もできるのか。ますます漫画っぽい。
「あ、バレンタインかー」
花はますます照れた顔で小さく頷いた。かなは、腕を組んで重々しく頷いた。
「仕方ない、じゃあ、やりますか」
「だからさっさとやりなさいって」
「分かったよーお」
かなは唇を尖らせたが、それ以上は何も言わず、黙って本の内容をノートに写し始めた。のろのろとではあるが、進んでいるので安心する。
バレンタインなんて、花が言うまで忘れていた。そういえばあったなそんな行事、という程度だ。いつもならかなが大騒ぎして気づくのに、今回は花がきっかけだったというのが新鮮だ。
花はまたノートに向かっている。時々、シャープペンは止まるけれど、またすぐ滑らかに書き始める。
「花、書くの早いね」
わたしが声を掛けると、花は顔を上げて微笑った。
「ちょうど、こんな時代の本を読んだところだから、頭に入ってくるのかな?」
「へえ」
「ファンタジーっていうか、ラノベっていうか。不思議な力でこんな時代に飛ばされた女の子が頑張る話。」
「面白そう」
「面白かったよ。男のひとたちがかっこよくてねー。」
「今度、貸してよ」
「うん。」
花は、テーブルの端に置いてあった鞄を引き寄せ、中をさぐると、駅前の書店のカバーがかかった本を取り出した。カバーは少しよれて、折目が毛羽立っている。
「わたし、読んだからもういいよ。」
ぱらぱらめくると、挿絵があった。中華風とでもいうんだろうか、そんな建物を背景にして、両側に男の人を従えた明るすぎる笑顔の男のひとが描かれているページがあった。
あれ、とわたしは思った。画面から見切れる位置に書かれた男の人が、「あの人」に似ている気がするのだ。難しそうな顔をしたそのひとは、とても小さく書かれているせいではっきりしないけど、なんとなく。
さっき、男の人がかっこよかったよーと言っていなかったろうか。
(あー、まずい)
わたしは、壮大なノロケの元を借りてしまったかもしれない。読み終わったあと、これは触れるべきか。花が、カバーが少しよれるくらい繰り返し読んでいるのも、読み終わった本を鞄に入れて持ち歩いているのも、この挿絵が原因だったりするかもしれない。わたしは本を鞄の上に乗せ、ノートに集中するふりをして花を盗み見た。
彼女は、こんな挿絵さえ意識するくらいに「あの人」の彼女なのだ。
あのほっぺたに「あの人」はどんなふうに触るんだろう。漫画みたいに抱き寄せたりするんだろうか。「あの人」の手はどんな感触なんだろう。
記憶にある限りいつも怖い顔をした「あの人」は、花のチョコレートをどんな顔で喜ぶんだろう。想像してわたしはちょっと楽しくなった。
(2015.2.1)
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