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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 忘れた頃の更新ですみません。
 
 
 



 
 
 「あ、子桓さん。…子桓さーん!」
 回廊の反対側から笑顔で呼ばれ、彼は足を止めた。軽い足音とともに花が近寄るのを待つ。彼女は最初に会った時の見慣れぬ衣ではなかったので、新米の女官のように見えた。彼女は子桓の前に立つと、深々と頭を下げた。
 「あの、昨日はありがとうございました。」
 うん、とひとつ頷く。だが、花がいつまでもにこにこと彼を見上げているので、少し首をひねった。
 「どうした」
 「え? ですから、昨日のお礼です。」
 「…そうか」
 「さっき、子建さんにも会ってお礼を言ってきました。」
 弟が、どうやって彼女の「お礼」を迎えたかは容易に想像が付く。きっと大仰な言葉と身振りで彼女を歓迎したに違いない。でなければ、あの程度の同伴で、こんな目立つ回廊で声を掛けてくるはずがない。
 「また誘ってもいいですか」
 言葉とは裏腹に、笑顔はちっとも色っぽくない。ああこれが、彼女の言っていた友というやつだと、彼はようやく飲み込めた。彼はひとつ頷いて、穏やかに笑った。
 「また行こう」
 「ありがとうございます!」
 勢いよく礼をして、しかし花はその場を去らず、困ったように子桓を見上げた。
 「あの、何か言われましたか?」
 「何のことだ?」
 「その…籠絡とか何とか」
 子桓の背後で、付き従っていた仲達が盛大に吹き出して花は驚いたようにそちらを見た。子桓は無造作に仲達の後ろ頭を叩いた。
 「これは気にするな。それで、籠絡だと? お前が、俺をか」
 「なんだか、そういう噂が飛んでるとか飛ぶんじゃないかって言われたんですけど、わたし、本当に、子桓さんとはお友達でいたいんです。でも、そんなふうに思われるんだったら迷惑ですよね?」
 唇をきゅっと噛んだ花は、とても真剣に見えた。「友」とは、この娘にはたいそうな言葉なのだ。彼は太い息を吐いた。
 「俺を見くびるな」
 「え?」
 「俺たちの関係は、俺たちが決めることだ。放っておいても言うやつは言う。お前も軍師ならば、どのような反論があろうと行わねばならぬ策を知っているだろう? そのためにはどんな労も厭わぬというほどのな。それと同じだ。よしんばどこかへ転がることになったとしても、それは我らが決めることで、誰かの噂通りにしなければならぬことではない。…それに、軍師のお前に対して籠絡などは、侮辱だろう。…そうだな?」
 子桓は微笑んだ。花の頬が紅潮する。
 「ありがとう、ございます」
 頭を下げた花は、仲達にも挨拶すると小走りにその場を去った。仲達が冠を直しながら、彼女の後ろ姿を追う。
 「敵にやさしくするのはたいがいにしたほうがいいんじゃないですか」
 「…お前は俺の話を聞いていなかったのか」
 「聞いてたから言ってるんですよ。公子はお健やかですから」
 「馬鹿者」
 やっと冠の角度に納得がいったらしい仲達が、ふう、と息を吐いた。
 「帝の御意にかなう娘、ねえ」
 そのまま意味ありげに子桓を見る。
 「仲達」
 「まあ確かにあれでは、意外に正直な呉の都督殿あたりは翻弄されるでしょうな。あの方は守りのいくさはたいそうお上手そうだが」
 「お前も同類だ」
 「えーっひどいなああの人よりはマシですよ」
 「軍師は大抵そう言う」
 「わたしに言わせれば公子の頭が固すぎるんです」
 「とにかく。…あの娘のことは、あの娘の思うままにさせておけ。父上の思惑もあろう。どう出るも、どうおさめるも、あの娘の力量ひとつだ。」
 仲達は首をかしげた。
 「公子から関わり合いになる気はございませんか?」
 子桓は小さく笑った。
 「伏龍の弟子だぞ。爪にかけられぬようにするのがせいぜいだ」
 仲達はまだ考えるような眼差しで彼を見ていたが、ひとつ息を吐くと仰々しい礼をとった。
 「畏まりまして」
 子建は昨日のことをどれほど大事に温めているだろう。それとも自分のように、彼女の親しい笑みや聞きなれない言葉が瞬く程度だろうか。
 …友。
 あの娘にいたく執着している父は、その言葉を笑うか。この事態を招いた彼女のいうことならば信じようとするか。
 子桓は歩きながら考え続けた。
 
 
 
(つづく。)
(2010.11.1)

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