二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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番外編1と同じく、過程すっ飛ばし子建さんとらぶぃエンドの花ちゃんであります。
幻に蜃気楼が立つユルさのブログで申し訳ありません。
幻に蜃気楼が立つユルさのブログで申し訳ありません。
子建は熱い息を吐いた。久しぶりの高熱は思いのほか長引き、彼を五日、寝台に縛り付けている。
もうすぐ秋も深まる。この調子では、花を連れて遠出などまた反対されると彼はうっすら苦笑いした。
以前は、季節が変わるたびに少しづつ体調を崩したものだが、花と知り合ってからはめっきり減っていた。そのせいで、彼女はこの状態を知らないだろう。今は、知らせようもない。彼女は、彼にはまるで雲の果てとも思える遠い土地に暮らしている。
彼と彼女が将来を誓う仲となってからも、彼女の本拠はまだ移動していない。一国の軍師だった身が、そう軽々と帝に仕える身とはなれないのが現状だ。
ああ早く来てくれないものか。夢に見る彼女はとても近すぎて、そんなはずはないと夢さえ否定してしまうのが辛い。彼女ははにかみ屋で初々しくて、抱き寄せただけでこちらの顔すら見てくれないほど赤くなる。それでも会いたい。熱にうなされ続けたこの五日間、彼女の足音ばかり聞いてきた。…今も。
その時、静かに扉が開いて、彼は少し目を細めた。侍女が持ってくる定時の薬湯だろう。忍ばせた足音が衝立の向こうに近づき、おそるおそるといったふうに覗いた顔に、子建は眼を見開いた。
「はな…?」
身を起こそうとする彼を、花はあわてて制した。
「寝ててください。…まだ熱があるんですね」
自分のことのように泣きそうな彼女の頬に手を滑らすと、そっと手を重ねられる。
「どうして」
こう言うだけで激しくせき込んだ子建の背を、小さな手がさすった。
「師匠のお使いで帝のところに急にくることになって、あなたを驚かそうって思ったんです。でも孟徳さんに会ったらもう五日も伏せってるって言うからびっくりして飛んできました」
彼はゆるく笑った。
「父上も、病人であればいじわるを言いませんね」
「そんなこと言ってる場合じゃないです! 早く横になってください」
「嫌です。あなたが来ているのに。夢ではないあなたがいるのに寝るなんて」
やっとのことで、すがりつくように彼女の体に腕を回す。柔らかな胸で深い息をつくと、彼女がくすぐったそうに身じろいだ。
「いつまで、ご滞在ですか」
「ひとつきくらいの予定です。」
「では父上と帝に申しあげて邪魔していただきましょう。あなたを帰さないように」
「そんなことはいいですから!」
花がぐい、と彼の体を押し、彼は今度は逆らわずに寝台に身を倒した。泣きそうな、それゆえに子供っぽく見える彼女の顔が近い。
「あなたに出会うまでは、これが普通だったのです」
「普通、って…」
「ですから、季節ごとに怯えた。でもあなたに会ってからは無かった。いまが初めてです。」
彼女は力なく横たえた彼の手に手を重ねた。
「手まで熱いですね…わたし、薬湯をもらってきます」
立ち上がろうとしたその手をつかむ。
「行かないでください。薬湯ならば、侍女が定時のものを持ってきますから」
「でも…」
「では、額の布を変えてもらえますか」
彼女はうなずき、彼の額からずり落ちていた布を取り上げ、傍の盥に浸した。ぎこちなく絞って、彼の額に戻す。侍女がするよりも水分が多めに残った手巾は彼の額を心地よく冷やした。
「…あなたには知られたくなかったな。せっかく調子が良かったのに」
熱い息を吐くと、彼女は首を横に振った。
「実は、お兄さんから、こういうことがあるかもしれないとは聞いていたんです。でもこんなに辛そうだなんて知らなかった。」
「…本当に、お節介なひとだ」
生真面目な兄の顔を思い出す。花は先ほどより大きく首を横に振った。
「子建さんのことだもの。知りたいって言ったのはわたしです。子桓さんを怒らないでください。…ほんとうに、なんの手段もないんですか」
花の目に浮かぶ辛さだけが、痛い。
「名医と呼ばれるひとは、とうにさじを投げました。わたしはそういう体なのだと、思っています。わたしの名医はいまのところあなただけだ」
笑わせようと思って言った言葉は、彼女の目じりをより下げた。彼は手を握り返した。
「ねえ、早く来てください。」
彼女がうなずく。
このしっかりした眼差しが嬉しい。病弱な公子の自分を安堵させるためでなく、きちんと自分に誓う眼差し。
「でないと、わたしはあなたに焦がれ死にしてしまう」
花の頬が、むっと膨れた。
「二度と、冗談でも死ぬって言わないって約束してくれたじゃないですか」
「ああ、そうでした」
「いまのは数えないことにしますから、もう言わないでください」
子どものようにかたくなに約束を求める彼女に、微笑みが浮かぶ。
「ええ。…約束しましょう」
「きっとですよ」
「だから早くそばにきてくださいね。見張っていてください」
彼女は声にならず、うなずいた。
「次に目を覚ますくらいまでは、居てくださいますよね? 夕餉もご一緒に」
「もちろんです。」
「あなたがいれば食べられるような気がします」
精一杯の強がりに、彼女は花が咲いたように笑った。やはり、この笑顔がいちばんいい。この顔を見ていたい。
兄のように、その立場を重く考えることなどできない。彼女がこの世界を作らなければ身分など投げ捨てていただろうと思う。この状態を作り出した軍師への興味が、いつの間にか彼女自身にすり替わった。
父が、彼女を握りつぶすな、と言っていたことを思い出す。何度思い返しても、あの父にだけは言われたくないと苦笑するが、大事にしすぎて枯らせてしまった若木の思い出が、大事にされすぎて人を見られなくなった思い出が自分を縛る。
彼女は当たり前にここにいる。それを自分が当たり前に受け止められるまで、まだしばらくかかりそうだ、と子建は苦笑して目を閉じた。
(2010.10.4)
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