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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 オフザケな番外編です。
 

 
 
 
 「はなー」
 よく通る声に花は顔を上げた。芙蓉が曲がり角の向こうで手を振っている。いつもなら、大声を上げるなんてはしたないと言うのに、と花は首を傾げながら小走りに近づいた。
 「なあに?」
 ひょいと顔を出すと、宮城でも顔なじみになった年の近い侍女たちが三人、いた。
 「花さま」
 よそ行きでない笑顔を向けてくれる彼女らに、花も笑顔になった。
 「こんにちわ。」
 「花、ねえ、あなたもご覧なさいよ。面白いわよ」
 芙蓉が、妙にきらきらした目で簡を突きだした。花は小首を傾げてそれを受け取った。
 「えーと…『結婚したいお相手選手権』…?」
 たどたどしく呟くと、侍女がずいと身を乗り出した。
 「線を一本いれていただくだけですわ。ぜひどうぞ」
 孟徳や玄徳をはじめとしたきらきらしい、花には見知った人々の名がずらりと書かれていて、その下に様々な筆致の横線が引かれている。
 「これ、どうしたんですか?」
 「むろん、事と次第によっては不敬ととられますもの、内緒です」
 「でも、一位になられた方には何かの節にお祝いの衣を贈ろうと考えておりますの」
 うふふ、と微笑みあう侍女たちに苦笑を零して、花は簡を改めて見て唸った。
 「…意外…孟徳さんが苦戦してる」
 「だから楽しいんじゃない。ふん、女遊びの報いよ」
 芙蓉がにんまりと笑っている。
 「ざまあ見ろだわ」
 「芙蓉ってば。…でも雲長さんは結構人気あるねー」
 途端に渋い顔をした芙蓉に、侍女のひとりがここぞとばかり拳を握った。
 「いつも沈痛な面持ちでいらっしゃる方こそ、お慰めしたいものですわ」
 「そういうものですか?」
 「花さまはどなたが?」
 わくわくと自分を見る瞳たちに、花は笑みを引きつらせた。
 三国が帝のもとに集まって間も無い。規模も拡大された宮に雇われた女たちは、初めて見る玄徳や仲謀に興味津々で、彼らを知る花を色んな意味で過大評価したがる。玄徳や仲謀の下に書かれた横線が多いのは、目新しいひとへの興味も混じっているのだろう。
 花はふと、この遊びを仕掛けたのは誰だろうと思った。さっきも聞いた通り、名が挙がっているのはいずれも身分高い男子ばかり、不敬と取られるかもしれない。なのに「内緒」という触れ込みで堂々と侍女が簡を持って歩いているのは。
 (黒幕は子建さんあたりかな)
 柔弱と揶揄される彼が本当は兄と同じくらい強かなのを彼女はもう知っている。その彼なら、納得ずくでこんな遊びをしそうだ。だいたい、一番になっていないと怒りそうな孟徳を煙に巻けるのはあの兄弟と孔明くらいだろう。
 花は、にこりと笑って筆を受け取った。


 
 「兄上」
 ふらりと執務室に現れた子建に、子桓は怪訝そうな顔を向けた。
 「なんだ」
 「これをどうぞ」
 思わせぶりな笑顔で簡を差し出される。一目見て、子桓は渋面を作った。
 「なんだこれは」
 「女官たちの可愛い遊びです。」
 「…遊びで済むんだろうな」
 「兄上もご覧になったからには済ませられますとも」
 うっかり受け取ってしまった自分を、子桓は呪った。いつものことで、新作の詩かと思ったのだ。
 ずらずらと並んだ人名のいちばん後ろに、見覚えのある柔らかい筆跡があった。子桓は少し目を見開いた。兄のそれを確認した子建が、くすりと笑った。
 「如何です、兄上。我々の姫は」
 「気宇壮大だな」
 「我々や父上よりも、よほど」
 「頼もしい」
 顔を見合わせて愉快そうに忍び笑う兄弟の指先には、『天下』と書かれていた。

* 
 
 
 
 
(2011.9.13)

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