二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花公瑾』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
『花公瑾』は、最初に落ちた場所が公瑾さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
雑駁設定なのは のえる の所為です。
何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
幻灯15・18・20・22と同じループっぽい。
この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花公瑾』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
『花公瑾』は、最初に落ちた場所が公瑾さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
雑駁設定なのは のえる の所為です。
何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
幻灯15・18・20・22と同じループっぽい。
仲謀はふと耳を澄ました。
公瑾の琵琶だ。風のない昼下がりをさらにものうくさせるような音色。ちらと兄を見ると、まるでその音の通りに、頬杖をついて物思わしげに外を見ている。手元にある簡の山は、きれいさっぱり兄の頭から追い出されたようだ。
陽光が溢れる季節になぜ、こんな表情をしているのだろう。
この間、兄が公瑾とやけに親しげな場面を見てしまった。おさなごではないのだから、仲謀もふたりのあいだに何があるか分かる。さっさと婚儀を挙げてしまえばいいのに。老臣は、伯符のまわりを身内で固めるより、味方にしたほうがより得策な一族の娘を薦めたいだろうが、仲謀は公瑾を義姉上と呼ぶことになんのためらいもない。おそらく尚香もそうだろう。
兄上、と呼びかけようとした時、伯符が大きく息をついた。じっと見ていた仲謀に気づき、苦笑を向ける。
「どうした」
仲謀は僅かに顔を赤らめた。
「兄上こそ、どうされたのですか」
伯符がまた苦笑を深める。
「公瑾の琵琶だな、と思っただけだ」
「相変わらず見事ですね」
兄の返事がすぐにはなかった。仲謀は片眉を上げた。
「兄上」
「ん?」
「兄上は、公瑾を娶るのですか」
伯符が面白そうに仲謀を見た。
「噂でも聞いたか」
「いいえ、期待です」
「へえ」
仲謀は背筋を伸ばした。
「何をためらわれているのでしょうか。即断即決な兄上らしくもない」
「あのな、俺も結構迷って考えてるんだぜ? 子明あたりと一緒にすんな」
額を指で弾かれ、仲謀はしかめ面になった。伯符は椅子に深く腰掛けて指を頭の後ろで組んだ。
「仲謀は好きな女とかいないのか?」
「いません!」
真っ赤になって声を高くした仲謀に、伯符が大きく笑った。
「良い子だなー仲謀。で、どんな女だー?」
「いないと申し上げました!」
「うんうん。大事にしろよー」
まるで風を受け流すような兄に、仲謀はむっつりと口を噤んだ。そうだ、身近にいるのが尚香や公瑾という、ある意味、破格の女たちばかりだからだ。だから、いかにも姫然とした女に興味が持てないだけだ。
「公瑾はなー。」
ぼそり、と伯符が言ったので仲謀は全身を耳にして待った。
「あれは、どんな女なんだろうな?」
「…は?」
「仲謀は、他の女が弾く琵琶を知ってるか?」
「えーと…まあ、楽士でしたら」
「去年まで楽士長でいた、典信を覚えてるか? 白髪の、気むずかしそうな老人だ。」
仲謀は必死に思い出そうとした。しかし、宴席では酒の味ばかりが残っている。伯符も可笑しそうに笑った。
「お前に聞いたのが間違いだったな」
「いまはわたしの話ではありません」
「お、そうだったな。その、典信が言ってたんだよ。周の姫はなぜ、あんな老成した音を出すのだろうかと。典信が教授した名家の姫は何人もいるが、誰一人として公瑾と同じ音を出す娘は居なかった、刀を振るう娘と考えても何やら空恐ろしいと。」
「…まわりくどいです、兄上」
伯符が大きく肩を竦めた。
「俺にもよく分からん。だが、公瑾の音は誰が聞いても分かる、というのが大事なんだな、たぶん」
「たぶんですか…」
伯符は頭の後ろの腕組みを解いて机に俯した。
「俺は近頃、耳がおかしいのだろう」
「え?」
「俺には、公瑾の琵琶ともうひとり分の音が、聞こえる」
仲謀は何を言われているか分からずに兄を見返した。伯符はとても真面目な顔をして、机の一点を睨み付けていた。
「あいつが弾いていると、かならず、同じ曲が聞こえる。もっとよく冴えた音だ。あいつが弾き止むと聞こえなくなる。」
「兄上」
「あいつには、もう決まった相手が居る」
仲謀は口を開けた。
「そんな噂は」
「噂はない。仲謀、お前もここだけで忘れろ。」
「しかし、公瑾は兄上を」
「ああ…好いているだろう。」
堂々と伯符は言った。
「お前を娶りたいと言えば、あいつなりの皮肉とともに頷いてくれると思う。あれは戦の頭と女の頭を両立できるやつだ。」
「しかし、それでは、公瑾が嫌々兄上に嫁ぐように聞こえます」
「あれはしなければならないことをするだけだ。孫家のために…呉のために。でもそれでは、俺が嫌なんだ。利用すればいいのにな。そこから振り向かせると思えればいいのにな。」
兄の目が昏く思え、仲謀は口を開けて、閉じた。こんな兄は見たことがない。
「女だけでいいんだ。俺だけのものになるなら」
伯符はひとつ瞬きして、無言の仲謀を見た。途端に破顔して、その頭をくちゃくちゃに撫でる。
「兄上! わたしは真剣にお尋ねをして」
「ありがとうな」
兄の笑顔に押され、彼はまた黙り込んだ。伯符がすらりと立ち上がった。
「さて、じゃあちょっかいを出しに行くか。邪魔すんなよ」
「しません!」
明るい笑い声が回廊を遠ざかっていく。また簡の仕事から逃げられた、と仲謀は肩を落とした。子敬を呼んで、今までの分だけでも終わらせておこう。彼は兄が出て行った戸口を見た。
決まった相手がいる、というのはどういうことだろう。公瑾のいちばん側にいるのは兄だ。それ以外に誰か通っているならば、口うるさい侍女たちが囃し立てないはずはないし、ましてそれを、さも公瑾の不行跡であるかのように言い立てたい老臣たちも居る。伯符が侍らすは戦女神よと崇めるものたちばかりではない。
ここだけで忘れろと言った兄がなんだか心細く思えて仲謀は俯いた。こんな気持ちは初めてだ。
(公瑾)
兄上を傷つけたら許さねえ。彼は唇を噛んだ。
(2011.9.10)
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