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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 オールキャラと言いつつ出てこないひとの多いこの話です。
 たくさんお叱りを頂戴すると思いきや、ここ一ヶ月でいちばん拍手を頂戴しております。ありがとうございます。
 もういろいろすっ飛ばして、らぶらぶになった子桓さん×花ちゃんとか、子建さん×花ちゃんとかを妄想し出して、いやいやそれではいかんだろうと我が身をたしなめ中。でも、このまま行くと、一年経ってもつきあえない気がする…
 
 
 というわけで、その2。です。
 
 



 
 
 玄徳は、部屋の入り口で気づかれぬほどのため息をついた。足音で気づいていたのだろう、子建が立ち上がって礼を取っている。ただ立っているだけなのに、姿に無駄なところはなかった。昨日、会った時にも思ったが、噂通りの、ただ柔弱なだけの貴公子ではない、と玄徳は気持ちを引き締めた。
 「どうぞ、お楽に」
 声を掛けながら玄徳が上座に座ると、子建もゆっくり礼を解いた。
 「朝議が済んだばかりに押しかけ、申し訳ございません」
 「いや。何事か急用でもあろうか?」
 子建は微笑んだ。宮廷的な、礼儀正しい微笑みだった。
 「花殿と一日過ごすことをお許し頂きたいと存じます」
 玄徳はぽかんとした。
 「…花と?」
 「はい」
 明快な答えに瞬きする。
 「なにゆえ?」
 「都の見物などにお誘いしたいと思います」
 「あなたが、か」
 「わたくしと兄・子桓とです。花殿はそちらの軍師というお立場、無用の疑いを招きたくありません」
 「…疑い、とは」
 「花殿を魏に引き抜くつもりか、と思われることでしょうから」
 子建があまりにずばりと言ったので、玄徳は押し黙った。
 「これはあくまで、わたしと我が兄・子桓による、年頃の美しい姫君に対するお誘いです。政治的な意図、さらに我が父がやましいことを行うことはございませぬ。ご懸念ご無用です。」
 爽やかな声に、玄徳は思わず笑った。
 「わたしはあなたとお話しさせていただくのは二度目だが、ずいぶんとはっきり言われる」
 子建はちらと苦笑したようだった。
 「わたくしは、この太平の世を嬉しく思っております。我が父とてそうでありましょう。この時点で、あの愛らしくも毅然とした軍師殿をどうこう、と思われることは不本意であり、帝の御心にも反します」
 玄徳は重々しく頷いた。
 「そう言っていただくと安堵する。こちらこそ礼を言わねばならぬようだ」
 「では、お許しいただけますか」
 くす、と玄徳は笑った。
 「俺はいいが、花に聞かねばならんな。花を呼ぼう」
 その声を、まるで隣室に控えて聞いていたのではないかと思えるような時機で、孔明が顔を見せた。
 「我が君」
 「おう、孔明」
 「これは、伏龍殿」
 孔明がにこり、と笑う。玄徳はひやりとした。昨日、花が孟徳の子息たちに手を取られ、孟徳に先導されて帰ってきた時の孔明の顔といったら無かった。あれほどの笑顔と怒気は、本人は頑として否定するが、呉の都督によく似ている。つまりは恐ろしいということだ。
 「曹家のご子息ではありませんか。」
 「ただいまお弟子殿にお会いするところでした。」
 「不肖の弟子に何用でございましょう」
 「花殿と都見物へ出かけることを玄徳殿に快く承諾をいただきまして、花殿のご意向を伺いに行くところです。」
 孔明が玄徳をちらと見て、微笑んだ。
 「わざわざのお誘い、御礼申し上げます。わたくしのような身分であっても都に来ればご用繁多、弟子のために割ける時間が少なくなりますので、そのように言っていただけて嬉しく存じます。」
 玄徳は驚いた。慇懃無礼を絵に描いたような孔明の物言いは孟徳にさえ嫌みを言われたくらいだ、絶対にちくちく言うと思ったのに。
 「ありがとうございます。」
 孔明がゆらりと羽扇を振った。
 「ひとつ、お聞きしたいがよろしいでしょうか」
 「なんでしょう」
 「なぜ、不肖の弟子にご興味を抱かれたのでしょう」
 宮廷生活の長い子建ならば、龍の牙がどこにあるか分かるだろう。それだけの声音だ。しかし子建の笑みは深く楽しげになっただけだった。
 「女の手箱をご存じでしょう?」
 意外な言葉に、玄徳は瞬きした。
 「手箱…とか、あれか。鏡や櫛を入れておく」
 「はい」
 子建はゆるやかに肯った。
 「たいがいの女子は、あれにおさまる程度の秘密しか持たぬものです。いわく、季節ごとの紅や香、西域の珠や精緻な髪飾り、せいぜい恋文が大きな秘密ということになりましょうか。しかし彼女は違う。緩やかな過去と優しい未来を思わせるのに秘密だらけ。それは彼女が意識せぬもの、『嘘』になり得ぬもの。簡単に言ってしまえば育ちの違いです。だからこそ、彼女が都を見てどう思うか、知りたいのです。」
 玄徳はくすりと笑った。それへ孔明が流し目を寄越したので、彼は咳払いした。
 「失礼。…さすが、孟徳殿のご子息。」
 「ほんとうに、さすがは英明の誉れ高いご子息と感服いたしました。」
 孔明が頭を下げるのを玄徳はつくづくと見た。子建はあくまでにこやかに、ゆるりと首を傾げる。
 「では、よろしゅうございましょうか?」
 「どうぞ。案内させましょう」
 現れた侍女に言い含め、子建が部屋から退出すると、玄徳が大きく肩を落とした。
 「…おい、孔明。俺は肝を冷やしたぞ。」
 「それは失礼いたしました。日頃のわたしの態度が思いやられますねえ」
 あははは、と笑い声を上げる孔明を、玄徳は首を振ってみやった。
 
 
 
(つづくかも。)
(2010.9.25)
 

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