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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 羽扇エンド(幻)話、楽しんでいただいているようで、とても有り難いです。パラレルにパラレルを重ねたような話なので、毎回、更新するたびにおろおろしてます。続きはもう少々、お待ち下さい。
 
 今回は、公瑾さんと花ちゃんです。
 
 拍手お返事は、また後日に改めさせていただきます。
 
 


 
 
 公瑾は、か細い月の光に、探していた後ろ姿を見付けて大きく息をついた。
 「花!」
 呼びかけると細い背中が波打った。妻の小さな顔が振り向いて笑う。
 「公瑾さん」
 駆け寄って抱きしめると、花はくすぐったそうに笑った。その仕草に、やっと現実感が戻る。
 寝台にひとりきりだと分かった時の衝撃に、目が眩んだ。花が寝ていたくぼみは冷たくて、抱きしめていたすべてが夢だと言われた気がした。
 「今日は暑くて寝苦しかったので、涼しいところを探してたんです」
 彼にとっては非常にふざけた言い分に、また脱力する。
 「…わたしを起こしなさい」
 「公瑾さんはよく寝ていたので…」
 申し訳なさそうに肩をすくめた花を乱暴に抱き上げると、彼女は小さく悲鳴をあげて公瑾にしがみついた。上背のある彼が小柄な花を抱き上げれば、彼女の目線はそれなりの高さになる。
 「こ、公瑾さん、高いですっ」
 「起こさないあなたが悪い。」
 公瑾はむっつりと言った。うろうろとした声が頭上で震える。
 「寝間の近くだったし、大丈夫だって思ったんです」
 「今は夜です。わたしが大丈夫だと言わない限り、大丈夫と判断しないように。いいですね?」
 真剣に詰め寄ると、花は少し怯えたように頷いた。公瑾は彼女を抱えたままあたりを見回した。
 夜に慣れた公瑾の目には、庭の柳が僅かな風に揺れているのが見える。けれど花にはほとんど見えないだろう。それほど細い月だ。
 花が座っていたのは、寝間のすぐ前を通る回廊の床だった。裸足で駆けてきた公瑾に、石の冷たさが伝わる。彼はひとつ嘆息した。
 「涼しいところを探す、とは。あなたは、猫ですか」
 「ああ、猫だったらいいですねえ。涼しいところがすぐ分かるでしょうし、すぐ行けます」
 ああでも毛皮だから夏は暑いのかな、とのんびり続ける花の額を、公瑾は腕を伸ばして軽くはじいた。痛い、と妻が口を尖らす。
 「いっそ猫になりますか。絹の首輪をつけて可愛がってさしあげます。食事もよいものを準備いたしますよ」
 「公瑾さんのことですから、それに大きい鈴も付けるんでしょ?」
 「無論です。あなたがどこに行ったかすぐ分かるようにね。」
 「ああ、でも」
 うふふ、と花が月を仰ぎ見て笑った。
 「お仕事中でも公瑾さんの膝で寝ていいですか?」
 公瑾はふん、と鼻を鳴らした。
 「あなただと分かっていたら、首に簡を結びつけて使いに出しますよ。」
 「えー」
 「当たり前でしょう。遊んでいられると思っているのですか」
 「でもわたし、猫なんですよ?」
 「だから何です」
 「猫は気ままでいいんですよね? 甘やかしてくれるとこに行っちゃいます、よー。」
 公瑾は花をじろりと見上げた。彼女は月を見つめ続けていて、白い喉が美しい曲線を描いている。彼は腕の力をふいと抜いた。花が息を呑んで落ちてくるのを、彼女の足が床に頽れる瞬間で捕まえる。彼は極上の笑顔を、顔を強ばらせた妻に向けた。
 「捕まえました」
 「…っ、ひどい!」
 「わたしのところから居なくなるなどと言うからです。」
 「前から思ってましたけど、公瑾さんの仕返し怖いですよ…」
 「何でも言いますが、懲りないあなたが悪い。」
 「もうっ」
 膨れてみせる唇を軽く塞ぐ。花は公瑾の胸に顔を隠すように抱きついた。
 「離れないように。」
 「…はい」
 これ以上、奔放になられたらこちらの身がもたない。
 彼女は公瑾の心配を微笑みでかわすけれど、自分にかかわる限り、いくさという暗部は影日向に寄り添っている。花はそれも覚悟していますと笑うけれど、彼女の覚悟など「敵」にとっては何の意味もない。
 「さあ、戻りますよ。」
 「はい」
 彼女がこくりと頷く。その肩に手を回すと、彼女が頭を彼の肩にすりつけてきた。
 (金の首輪に銀の鈴をあげよう)
 幼子が口ずさむ童歌を思い出す。美しい鳥に、しなやかな獣に、だから側に居てくれと頼む戯れ歌だ。
 (珠の屋敷に絹の寝床を)
 どれも、花は要らないと言う。あなたさえ居ればいいと鮮やかに笑う。それがいちばん高望みだと、言って聞かせることはできない。彼自身、最も望むことであるから。
 公瑾は、花の肩に回した手に力を込めた。
 
 
 
(2010.9.27)

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