二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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リクエスト返礼、最後になります。
王子初書き!
一ヶ月もお待たせしてしまった七瀬さま、たいへん申し訳ありませんでした! お気に召したら幸いです。
では、「婚儀前のひととき」です。
花は、大きく息をついた。
もう少しで、介添えのひとが呼びに来るはずだ。今日は朝早くから起こされ着付けられ、もう一日が終わったような疲労を感じるが、実はこれからが本番だ。
それにしても、待つのは長い。遠くから賑やかな楽の音や話し声はするが、花はぽつねんと部屋に取り残されている。
「結婚式、かあ…」
呟いてみると、かえってこの部屋に自分しかいないことがはっきりして、花はさらに身を縮めた。
…寂しい。
この日に至るまでの色々を思い出してみるけれど、肩はどんどん落ちてくる。
そのとき、何か物音が聞こえた。大きな板を動かすような、物騒な音だ。花は立ち上がって入り口近くに走った。何かあったらすぐひとを呼ぼうと思ったのだ。
物音は続いている。しかも近づいている。
「だ、誰? 何よう…もう」
花は顔をくしゃくしゃにした。
「…仲謀お…」
どうしてここに居ないのよ、という思いを込めて呼べば、意外な声が聞こえた。
「っていうか大小ども! こんなに音を立てたら忍び込んだことにならねえだろ!」
「えー仲謀の根性なしぃ」
「花ちゃんに会いたいんでしょぉ」
「え?」
目を丸くした花の前で、壁が一枚、きしみながら回転した。向こうから、埃にむせている花婿衣装の仲謀と、着飾った大喬・小喬の姉妹が現れた。姉妹は花を見るなり、顔を輝かせた。
「わー!」
「花ちゃんきれーい」
「あ、ありがとうございます…」
「こらお前ら! 案内したならさっさと帰れ!」
「仲謀のいじわるー」
「花ちゃんが可愛いからあたしたちにも見せたくないんだね」
「…っそうだ! なんか文句あるか!」
顔を真っ赤にして怒鳴った仲謀に、姉妹は顔を見合わせ、うふふ、と笑った。
「さーすが婚儀を挙げるひとは違うねー」
「花ちゃんにいいとこ見せたいんだねー」
「てめえら!」
「ちょ、ちょっと仲謀」
花は、仲謀の腕をつかんだ。彼が我に返って振り返る。
「お、おう」
「おう、じゃないよ。どうしたの? 今頃は招待のみなさんの挨拶を受けてるって女官さんが言ってたのに」
花から目を逸らしながら、仲謀は頭をかいた。
「ちょっと出てきた」
「出てきた、って…」
「公瑾に嫌みを言われるね!」
「さすがの子敬も目が点だよ!」
姉妹の息のあった声に、また律儀に反応しそうになる仲謀の腕を強く引く。
「仲謀」
「なんだよ」
「良かった、来てくれて」
花が心から言うと、彼はあさってのほうを向いた。その動作が気にくわないのではなく照れているのだと分かったのはいつからだろう。
「…そうかよ」
「うん。ちょっと心細かったんだ」
「なんで」
「なんでって、だって、当日なんだもん」
仲謀の目が細くなり、花を覗き込むようにした。
「止めたい、とか言うんじゃねえだろうな」
「違うよ!」
花は口を尖らせた。
「止めたいんじゃなくて…なんていうか、緊張して」
「ああ? お前はこの俺様の妻になるんだぜ? 何にも心配することねえって前々から言ってるだろ?」
呆れたような口調に、花はかっとなった。
「だって、心配なんだもん!」
仲謀の口がぽかんと開いて、閉じた。
「仲謀を好きになったと思ったらあっという間に婚儀の段取りが組まれて、準備に入ったらすごい忙しくて仲謀の顔もあんまり見れなかったし、今日は今日で朝から自分だけ取り残されてるようなせわしなさで、ちゃんと仲謀の奥さんやっていけるのかなとか、仲謀のお母さんと仲良くできるのかなとか、女官のみなさんの上に立つってなんだろうとか、玄徳さんたちにもう会えないのかなとか、お父さんお母さんとか、誰にも相談できなかったんだもん!」
言い切ると、途端に涙が溢れてきた。目の隅に、姉妹につつかれている仲謀が映った。きれいに化粧されているのも忘れて、あとからあとから涙が頬を伝う。
乱暴に抱き寄せられ、また涙が出てくる。仲謀の正装に涙の痕を残したらいけないとも思うのだが、止まらない。
「…俺だってさ、お前の顔が見たかったよ」
返事をしたい。でも喉が貼り付いたように痛い。
「お前の正装はきれいだろうなってぼけっとして公瑾ににこやかに怒られて、母上には内容が異常に具体的な嫁を迎えるための心得みたいなのを毎日書いて寄越されて、子敬はお前が今日はどう可愛かった昨日はどうしてたとか聞かされて、その間にお前のすべすべした手とかさらさらの髪とか思い出してた。」
「会いに来てくれればよかったのにぃ…」
「…緊張してた。」
「過去形、なの?」
「うっせーな。」
腕が乱暴に解かれる。途端に心細くなった花を、仲謀はにや、と笑って見返した。
「さすが俺様の妻になる女だよな。…きれいだよ」
滅多にない直球の言葉に、花の息が止まった。その表情をもっと見ていたいと思うのに、彼はぱっと身を返した。
「あれ? あいつら、もう居ねえな…どうやって帰るんだよ」
もういつも通りの声に、花は拳を握りしめた。
「仲謀、雰囲気読んでよ…」
「ああ?」
もうさっぱり分かっていない顔の彼に、花は苦笑した。目元を拭いて彼に近寄る。
「あのね、仲謀。昨日、仲謀のお母さんが来てくれたんだよ?」
「そうなのか? 聞いてねえし…」
花は、夫のことを語る時だけ少女のような微笑みを浮かべたそのひとを思い返した。
『わたしも、あのひとと恋をしている実感しかなかったわ。でも今になると、あのひとがどれだけ大きなものを残してくれたのか、そしてどれだけ心残りだったのか分かるの。あなた、仲謀をお願いします。』
万感の思いを込めたその言葉に、しっかり頷くだけしかできなかったけれど。花は仲謀の腕を抱きしめた。
「仲謀をお願いするわね、だって。」
彼の生意気そうな顔が、また一気に紅くなる。
「お願いだあ? ったく、かっこ悪いこと言って…」
「あとね、今日の式は本当に盛大にしましょうね、って。…わたしの家族にも届くように」
仲謀が、途端に真面目な表情になって花を見た。
「花」
「なあに?」
「式だけじゃねえぞ」
「え?」
「俺はどこに出しても恥ずかしくないくらいお前を幸せにするからな。」
彼は真顔だった。いつものように紅くなったりしなかった。だから花も、紅潮した頬のまま、笑顔で頷いた。
「うん!」
「じゃ、またあとでな!」
仲謀がいつものように勢いよく裾を翻して姿を消す。小さな足音とともに、壁が元通りに閉じた。それを見て、花はまた椅子に座った。…本当に、なんてひとだろう。心配ごとはたくさん残るけど、彼の顔を見ていたら大丈夫、と思えた。
「…しあわせになります。」
花は呟き、胸のところでちいさくガッツポーズをした。
お出ましください、と廊下で女官が呼ぶ。はいと答えて、花は足を踏み出した。
(2010.6.7)
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