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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 大人、な公瑾さんと花ちゃん、です。
 オリキャラ注意報、です。
 
 
 
 



 
 
 花は両手にいっぱいの簡を抱え回廊を進んでいた。
 どこからか甘い匂いが漂ってきて、花は楽しい気持ちになった。ずいぶん苦労してあの花を探し当て、恋人にあげたことがある。その努力を当の恋人はあきれて笑ったが、彼女はずいぶん満足した記憶だ。
 「花殿!」
 快活な声に花は立ち止まり、そっと身を返した。慌てると簡が落ちてしまう。近づいた伯言が笑って礼をした。
 「こんにちは」
 「こんにちは。…お・く・が・たさま」
 思わせぶりに付け加えられた言葉に、花の頬が赤くなった。そういう花に満足げな伯言をかるくにらむ。
 「もう…」
 「いやあ、花殿が出仕されるのが楽しみで楽しみで。婚儀をあげてからもこうしてお目にかかれるとは本当に嬉しい」
 「伯言さんはお屋敷にだって来るじゃないですか」
 「夫人が屋敷にいるのは当然です。こういうところでお会いするのがいいんですよ。いやあ、よりお美しい」
 「…一か月前にもそう言われました」
 「奥方となられてからは最初でしょ?」
 伯言がくすくす笑う。花は唇を尖らせた。
 「まさかそれを狙っていたわけじゃないですよね。…言いつけますから」
 「都督のお怒りは別に怖くないが、あなたにお目にかかれなくなるのはさびしいなあ。というわけでご内密に」
 悪びれた様子もなく微笑みかけられ、花は苦笑した。彼はわざとらしい息をついた。
 「しかし、奥方となられても本当に出仕されるとは。都督はずいぶんごねたでしょう。」
 にやにや笑いを消さない伯言を、花はもう少し目をきつくして睨んだ。しかし何も堪えた様子がない彼に、彼女は小首を傾げため息をついた。
 「公瑾さんにはずいぶん我が儘を言っていますから。今日の朝も手間を掛けさせてしまいましたし」
 「何事があったのです?」
 「今日だって朝から衣を替えさせられたんです。今日に着ていく衣は前々から決まってたのに、やっぱりこれは止めましょう、ってずいぶん早くに起こされて。わたしには、前後の違いが分からないし。しまりのない顔はおやめなさいとか、注意されてばかり」
 頬を膨らませて見上げると、伯言は実に微妙な表情をしていた。花が小首をかしげると、彼はにやりと笑った。
 「いいことをお教えしましょう。都督の執務室に先ほどうかがったのですが、どうもわたしの足音をあなただと聞き間違えたようで、たいそう面白いお顔を見せてくださいましたよ。」
 「面白い、って?」
 おうむ返しに聞き返した花に、彼はにやりと笑った。わざとらしく声音を作る。
 「ああ妻の足音だ! おや、なんだ、伯言か。おもしろくない。このわたしが妻の足音を聞き間違えるなど。しかし妻はまだ帰らないのだろうか、どこでなにをしているのだろう。妙な男に引っかかっていないだろうな。…なんてね。まあ、しまりのない顔は都督も一緒です。」
 「やっぱりわたし、しまりがない顔をしてるんですね」
 「だって花殿、うれしいんでしょう?都督の奥方さま、って呼ばれてうれしいんですよね?」
 「…はい」
 消え入りそうな花の声に、彼は満面の笑みになった。
 「だそうですよ、都督。」
 「ふえっ!?」
 飛び上がった花に、馴染んだ香りが近づいた。振り返る間もなく、見慣れた薄藍の衣が隣に並ぶ。切れ長の瞳が花を見下ろした。
 「ここ公瑾、さん!」
 「なんという声を上げているのですか、はしたない。…伯言、あなたには船着き場に直行するよう命じてあったと思いますが」
 厳しい公瑾の視線に、伯言は少しもひるんだ様子がなく頷いた。
 「これから出立いたします」
 「…まったく」
 「行ってらっしゃい、お気を付けて伯言さん」
 「ありがとうございます、都督のお・く・が・たさま」
 「もう、また!」
 いっそ色っぽい口調で言われ、花は地団駄を踏んだ。ため息が聞こえて隣を見上げると、公瑾は何も言わず彼女が持っていた簡を半分取り上げ、大股に歩き出した。慌てて後を追えば、彼はまたため息をついた。
 「久しぶりの出仕で浮かれているようなら、屋敷にお帰りなさい」
 「はい、ちゃんとします。」
 「当たり前です。あなたは本当にわたしの気持ちを分かってくださらないのだから」
 拗ねたように言われ、花は瞬きした。彼が外でこんなふうに言うのは珍しい。
 「…頑張りますから、それは謝りません」
 「構いません。どうせ引っ込める気もないでしょう」
 「確かにないですけど」
 「許したのはわたしです。その件に関しては譲歩しましたから、あなたもわたしの要求を聞いていただかねば割が合わない」
 「要求」
 公瑾が言うと凄みがある。思わず立ち止まった花を振り返り、公瑾は重々しく頷いた。
 「あなたがわたしの妻だと、ことあるごとに言わせてもらいます。あなたも、わたしの妻と呼ばれるのは当たり前になったのですから、笑顔で受け流しなさい」
 「急には無理です! まだ奥さんになってそんなに経ってないし」
 顔を紅くして叫んだ花を、夫は小首を傾げて見返してくる。そうして、花が警戒することを覚えたあのきれいな笑みを浮かべた。
 「そんなことですか。…では参りましょう、わたしの妻。」
 「公瑾さん!?」
 「なんでしょうか、わたしの妻」
 「いちいち言わなくていいです!」
 「わたしの妻が慣れるまで言います。」
 つんと顎を上げて歩き出そうとする夫に、花は唇を尖らせた。
 「待って下さい、わたしのご主人さま!」
 公瑾の動きが止まった。ぎくしゃくと振り返る夫を、花は力を込めた笑顔で見上げた。
 「…花?」
 「なんでしょうか、わたしのご主人さま」
 公瑾が袖で口元を覆うより早く、彼の耳が紅くなった。珍しい、と花はしげしげとそれを見つめた。夫はひどく早口で言った。
 「いい加減になさい」
 「じゃあ公瑾さんも言うのを止めて下さい」
 「あなたのほうがしまりのない顔をしているのですから仕方在りません」
 「公瑾さんだって顔が紅いです」
 …結局。
 しびれを切らした仲謀が怒鳴るまで延々と「わたしの妻」「わたしのご主人さま」という言いあいを続けたふたりはしばらくのあいだ、誰に会っても「都督の奥方さま」「花殿のご主人さま」と呼ばれることになった。
 
 
 
(2011.2.4)

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